『次世代に伝えたい原子力重大事件&エピソード』

飯高季雄=著
表紙 次世代に伝えたい原子力重大事件&エピソード
著者 飯高季雄
出版社 日刊工業新聞社
サイズ 単行本
発売日 2010年03月
価格 2,420円(税込)
ISBN 9784526064333
原子力について最初に目をつけた政治家となると、中曽根に落ち着く。(134ページ)

概要

原子炉のイラスト
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故の様子が、連日ニュースを賑わせている。
いままで国内では、原子力船「むつ」の放射能漏れ事故、敦賀発電所の放射能漏れ事故、JOCの臨界事故といった大きな事故があり、海外に目を向ければスリーマイル島チェルノブイリの大事故があった。にもかかわらず、なぜ私たちは原子力安全神話を信じ続けたのか。
そのためには原子力開発の歴史を学ぶ必要があると感じ、本書をとった。

レビュー

本書によれば、「原子力について最初に目をつけた政治家となると、中曽根に落ち着く」(34ページ)という。「マッカーサー連合国最高司令官に建白書を提出し、戦後いち早く海外の原子力施設を訪問するなど原子力にはことのほか力を入れていた」。
さらに、巨怪・正力松太郎が「『原子力平和利用の推進』を選挙公約にした初めての代議士」(140ページ)となった。
二度の原爆に加えて第五福竜丸の被曝事故があったにもかかわらず、日本が原子力の平和利用へ舵を切ったのは、こうした大きな政治力によるものだろう。
最近、中曽根元首相のインタビュー記事が朝日新聞に載っていた。いまでも原発推進派のようである。

子供の頃の科学絵本には、原子力飛行機が空を飛び、原子力ロケットが火星へ向かう絵が乗っていた。子供心に、原子力の平和利用にバラ色の未来を重ねたものだ。しかしその思いは、「むつ」の事故で脆くも崩れる。
だが、石油資源は近いうちに枯渇するし、地球温暖化の原因と目される二酸化炭素の排出は減らさなければならない。そのためには原子力発電の比率を増やすのが一番だと信じていた。スリーマイル島やチェルノブイリの事故は日本背は絶対に起きないと信じていた。
社会に出て、原子力には大きな利権が絡んでいることが理解できるようになったが、その安全性に疑問を持つことはなかった。いや、疑問を挟むことを、あえて避けていたのである。他の皆さんも同じではないだろうか。

ここで福島第一原発の事故が起きる。事故当日の報道では放射能漏れはないと言っていたのに、その後の報道で放射能は大気中へ、海水へ、土中へと漏れまくっており、2ヶ月を過ぎた今でも止まっていない。いまは、チェルノブイリよりひどい事故だと感じている。
これを機会に、原子力発電を推進するか否かという二元論ではなく、原子力発電の仕組みを学び、どの程度のリスクがあるのか、エネルギー源として本当に必要なのか、といった議論をしていくべきだと思う。
そして、もし原子力を不要と結論づけようとするなら、中曽根氏や正力氏に匹敵するリーダーシップが求められるだろう
(2011年5月11日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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