『火星の遺跡』――ハードSFが超古代文明ネタを料理

ジェイムズ・P・ホーガン=著
表紙 火星の遺跡
著者 ジェイムズ・P・ホーガン/内田昌之
出版社 東京創元社
サイズ 文庫
発売日 2018年12月20日頃
価格 1,320円(税込)
ISBN 9784488663278
ハミルトン「あの男が言ったことはなにもかも現実になっている! たしかに、わたしには説明できないし、きみにも説明できないし、ここにいるだれにも説明できない。それでも、ときには科学では説明のつかないことが起こるものなんだ」(399ページ)

概要

本書は、火星を舞台に、紛争調停人キーラン・セインが活躍する2部構成のSFだ。著者は、『星を継ぐもの』『創世記機械』などでお馴染みのジェイムズ・P・ホーガン。2010年に亡くなったが、本書は2001年に書かれたもので、17年の時を経て翻訳された。ドローンやパッド、そしてハッキング・テクニックなど、現代でも色褪せない仕掛けは、コンピュータ・セールスマンだったホーガンらしい作品となっている。

あらすじ

2015年にキュリオシティが撮影したピラミッド
2015年にキュリオシティが撮影したピラミッド
火星では、ベンチャー宇宙企業体クアントニックスがテレポーテーション技術の人体実験に成功した。ちょうど火星を訪れていたキーランは、テレポーテーション技術を開発し、自らが実験台となった科学者レナード・サルダと接触する。
1976年にバイキング1号が撮影した人面岩
1976年にバイキング1号が撮影した人面岩
自信満々に実験成果を語るサルダだが、次に会ったときには、銀行に入金された成功報酬が全て無くなってしまったと、自信を喪失してキーランに相談をもちかける。銀行によれば、本人でなければ知り得ないパスワードを使って、正当に出金されたという。
はたしてサルダの身の回りに何が起きたのか。そして、人体テレポーテーションは成功したのか。
2004年にスピリットが撮影した人影
2004年にスピリットが撮影した人影
第2部でキーランは、サルダーに関わる重要な情報を提供してくれた考古学者ウォルター・トレヴェイニーの探検活動に医師として参加する。火星の超古代文明をめぐって、大企業の社長ハミルトン・ギルダーと、その一味が、発掘作業の邪魔をする。
キーランは火星での人脈をフル活用し、ファラオの呪いや高次元精神といったキラキラ・スピリットに弱いお嬢様=ギルダーの娘マリッサをまんまと騙し、発掘調査隊を窮地から救おうと画策する。最後の一歩というところでキーランたちは捕まってしまうが、火星の遺跡が彼らの救いとなったのだった。

レビュー

本書には、SFファンやトンデモ・ウォッチーならニヤリとさせられる伏線が張ってある。
1万2千年前の事件を追うキーランに対し、ビジネス・パートナーであるジェーン・ホランドが「原因は巨大な彗星でそれが金星になったとか」(121ページ)と発言するシーンがあるが、これはイマヌエル・ヴェリコフスキー『衝突する宇宙』(通称「ヴェリコフスキーの彗星」)が元ネタだろう。その他、エジプトのピラミッドやファラオの呪い、インカの巨石建造物など、失われた超古代文明「テクノリシクス文明」が存在していることが前提になっている。また、モンティ・ホール問題を話題として取り上げている。
だが、そこでハードSFの巨匠であり、ウィットましましのイングランド人、ホーガンの筆がうなりを上げる。フラグ回収などどこ吹く風で、キーランはジェーンに「今宵は石油王とディナーというのはどうだい?」と誘って大団円。読んでいるこちらは大爆笑。まるで2019年の日本人向けに書かれた小説のようである。

また、本書に限っては、UFO現象学者の礒部剛喜氏による解説「テクノリシク文明の呪縛」を先に読むことで、本編を256倍ほど愉しむことができるだろう。その全文が公式サイトに掲げられているので、ご一読を。
(2019年6月6日 読了)

参考サイト

  • 火星の遺跡:東京創元社
  • ジェームズ・P・ホーガン『揺籃の星』:ぱふぅ家のホームページ
  • ジェームズ・P・ホーガン『時間泥棒』:ぱふぅ家のホームページ
  • ジェームズ・P・ホーガン『仮想空間計画』:ぱふぅ家のホームページ
  • ジェームズ・P・ホーガン『火星の遺跡』:ぱふぅ家のホームページ
  • ジェームズ・P・ホーガン『未踏の蒼穹』:ぱふぅ家のホームページ
  • ジェームズ・P・ホーガン『巨人たちの星』シリーズ:ぱふぅ家のホームページ
(この項おわり)
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