第五福竜丸展示館とビキニ水爆実験

2006年9月30日 撮影
都立第五福竜丸展示館
夢の島にひっそりと佇む都立第五福竜丸展示館(東京都江東区夢の島3-2)を訪れた。入場無料。月曜日は休館。

第五福竜丸 (だいごふくりゅうまる) は、1947年(昭和22年)に和歌山県で建造され、はじめはカツオ漁船として近海漁業に従事していたが、のちにマグロ漁船として改造され、遠洋漁業に出るようになった。
1954年(昭和29年)3月1日、マーシャル諸島近海において操業中、アメリカがビキニ環礁で行った水爆実験に遭遇し、降り注いだ放射性物質により被爆した。
都立第五福竜丸展示館の大きな写真大きな写真
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第五福竜丸は、1967年(昭和42年)、老朽化により廃船となり、使用可能な部品が抜き取られた後に東京都江東区夢の島の隣の第15号埋立地に打ち捨てられた。このとき、東京都職員らによって再発見されると保存運動が起こり、1976年(昭和51年)、現在の形で展示がはじまった。
そういえば、小学生の頃、ゴミ埋め立て(夢の島)とセットで第五福竜丸のことを学んだ記憶がある。

2016年(平成28年)、開館40周年を迎え、8月21日からは旧ソ連・セミパラチンスク核実験場(現カザフスタン)の写真展を開く。
第五福竜丸の船尾部分
第五福竜丸の船尾部分
当時は、このような木造船で遠洋漁業を行っていたのである。

第五福竜丸は遭難信号も発せず、自力で焼津漁港に帰港した。これは、実験海域での被爆の事実を隠蔽しようとする米軍に撃沈されることを恐れていたためであるともいわれていわれている。
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第五福竜丸の船首部分
第五福竜丸の船首部分
乗組員23名全員は被爆し、無線長だった久保山愛吉は9月23日に血清肝炎で死亡した。
死亡した久保山は「原水爆の被害者は、私を最後にしてほしい」という言葉を残している。
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第五福竜丸が浴びた死の灰
第五福竜丸はアメリカが設定した危険海域の外で操業していた。危険海域の範囲が狭かった背景には、アメリカが当初見積もった爆発規模4~8メガトンをはるかに超える、15メガトンの爆発が起きたためとされる。
危険を感じた乗組員は海域からの脱出をはかろうとするが、延縄 (はえなわ) の収容に時間がかかり、数時間にわたって放射性降下物(いわゆる死の灰)を浴び続ける結果になった。
展示されている死の灰は白く、広島の「黒い雨」とは対称的だ。
これは、放射能を帯びたサンゴが大気中に舞い上がったためである。
第五福竜丸の大漁旗
第五福竜丸の大漁旗
第五福竜丸が水揚げしたマグロなどの水産物は、3月15日に築地市場へ入荷された。このマグロは多量の放射線反応を示したうえ、他の水産物にも値が付かなくなり、この日のセリは中止された。
築地市場では被爆水産物を場内の地中深くに埋めた。その目印に「原爆マグロ塚」を建てたという(現在は市場の外壁に記念プレートが掲げられている)。
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第五福竜丸のエンジン部分
第五福竜丸のエンジン部分
第五福竜丸のエンジン部分は、廃船時に船体から切り離されて別の貨物船「第三千代川丸」で利用されていた。この貨物船は、1968年(昭和43年)、三重県熊野灘沖で座礁、沈没した。
1996年(平成8年)12月、民間有志によって海底から引き揚げられ、展示館の脇に陳列されることになった。

第五福竜丸の被爆から2ヶ月半後の5月16日、日本全国で放射能雨が観測され大騒ぎになった。水爆で巻き上げられた放射能が日本にも到達したのである。
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第五福竜丸の被爆をきっかけに製作された東宝の特撮映画「ゴジラ」が同じ年の11月3日に封切りとなり、大きな話題となった。

当時の世相

3月14日に第五福竜丸が焼津港に寄港すると、アメリカ政府は安全保障上の問題として機密保全を日本政府に求めた。だが、降下物を分析した東京大学が、炭酸カルシウムを主成分とし放射性ジルコニウムなど4元素が検出された、との分析結果を発表し、毎日新聞が詳報した。
これを知ったアリソン駐日米大使は岡崎勝男外務大臣に、「数多くの友好的でない新聞報道」や「爆弾の種類や成分を探りだそうとする新聞や科学者の欲望」と不快感を伝えた。その後も、アリソン大使は政府を通じてメディアに圧力をかけたと言われる。

1954年(昭和29年)11月3日、東宝の特撮映画「ゴジラ」が封切りになる。太古の恐竜の生き残りが水爆によって50メートルに巨大化したという設定だ。観客動員数は961万人を記録し、その年の邦画の興行記録を塗り替えた。

1955年(昭和30年)、正力松太郎(讀賣新聞社主)は衆議院に初当選し、総理の座を狙っていた。一方、原水爆の開発競争でソ連に追いつかれたアメリカ政府は、友好国に原子力技術を開示して平和利用を促進する「アトム・フォー・ピース」を展開していた。
正力とCIAは手を結び、原子力に好意的な親米世論を形成するための工作を開始する。

ビキニ環礁が世界遺産に

2010年(平成22年)7月31日、ユネスコはブラジリアで行われた世界遺産委員会で、ビキニ環礁など計15か所を世界遺産として登録することを決めた。
自然遺産でなく文化遺産として登録されたもので、ユネスコは1996年(平成8年)には「広島平和記念碑」(原爆ドーム)を世界遺産登録しており、今回も核兵器の被害を後世に伝える「負の遺産」となった。

被曝船員の検査記録が存在

2014年(平成26年)9月、市民団体の情報公開請求に対し厚生労働省は、1954年(昭和29年)に周辺海域で操業していた漁船延べ556隻について、乗組員、捕獲した魚の被曝量の検査記録を公開した。それまでは「実態を把握しておらず、記録も保有していない」としていた。
乗組員の被ばく量は最大で毎分988カウントで、2週間同じ量を浴び続けても約1.68ミリシーベルト。第五福竜丸の乗組員(1.6~7.1シーベルト)より大幅に低く、国際放射線防護委員会が緊急時の被ばく限度と定めた100ミリシーベルトも下回った。

被曝追跡調査始まる

厚生労働省が2015年(平成27年)1月、当時周辺で操業していた他の船員について健康影響調査に乗り出すという。
被災船は全国で少なくとも500隻、被災者は1万人に上るとされるが、国はこれまで福竜丸以外の船員の追跡調査をしてこなかった。当時の放射線検査の記録が昨年見つかったことを受けたもので、ビキニ水爆実験での被害の位置づけが大きく変わる可能性が出てきた。

交通アクセス

【鉄道】
  • JR京葉線・地下鉄有楽町線・りんかい線「新木場」駅下車、徒歩10分。
【バス】
  • 地下鉄東西線「東陽町」駅下車、都バス(木11)新木場行きに乗り「夢の島」下車、徒歩3分。
【自動車】
  • 首都高湾岸線「新木場」出口より、明治通り沿い1分。
第五福竜丸 関連

参考書籍

表紙 原発・正力・CIA
著者 有馬哲夫
出版社 新潮社
サイズ 新書
発売日 2008年02月18日頃
価格 924円(税込)
ISBN 9784106102493
一九五四年の第五福竜丸事件以降、日本では「反米」「反原子力」気運が高まっていく。そんな中、衆院議員に当選した正力松太郎・讀賣新聞社主とCIAは、原子力に好意的な親米世論を形成するための「工作」を開始する。原潜、讀賣新聞、日本テレビ、保守大合同、そしてディズニー。正力とCIAの協力関係から始まった、巨大メディア、政界、産業界を巡る連鎖とはー。機密文書が明らかにした衝撃の事実。
 
表紙 これだけは伝えておきたいビキニ事件の表と裏
著者 大石又七
出版社 かもがわ出版
サイズ 単行本
発売日 2007年07月
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784780300956
一九五四年三月一日未明、著者は中部太平洋のビキニ環礁近海でのマグロ漁の途上、アメリカの強大な水爆実験に遭遇した。本書は、ビキニ水爆被災事件についての最も重要な証言者が、渾身の筆力を込めて執筆した熱い語りかけである。
 
表紙 第五福竜丸
著者 川崎 昭一郎
出版社 岩波書店
サイズ 全集・双書
発売日 2004年07月06日頃
価格 528円(税込)
ISBN 9784000093286
東京都江東区の「夢の島公園」は、その後に開発された若者たちの人気スポットである「お台場」と、千葉方面の葛西臨海水族園、ディズニーランドにはさまれた新木場にある。この公園内のマリーナに続く広場に、東京都立第五福竜丸展示館が立っている。外観は、百科事典の背表紙を上にして立てたような独特な形をしている。第五福竜丸。この船は、一九五四(昭和二九)年三月一日、アメリカが行った水爆実験による「死の灰」(放射性降下物)をあびた。いわゆるビキニ事件、第五福竜丸事件として日本中を驚かせた。死の灰はマーシャル諸島の人々の上にも降りそそいだ。たくさんの人々が、健康を、生活を、そして島を奪われた。それから五〇年経った今も、この事件は解決したとはいえない。一九四七年和歌山県で建造され、長年の歴史を刻んだ一四〇トンの木造船はどっしりと重量感があり、新しい展示パネルに取り囲まれていると、その古さがひときわ目立つ。なぜ、このような船が東京のこの場所に保存、展示されているのだろうか、ビキニ事件とは何であったのだろうか、福竜丸の航跡をたどりながら一緒に考えてみよう。
 
表紙 水爆ブラボー
著者 豊崎 博光/安田 和也
出版社 草の根出版会
サイズ 全集・双書
発売日 2004年02月
価格 2,420円(税込)
ISBN 9784876481934
第五福竜丸のビキニ水爆実験被災五〇周年にあたり、第五福竜丸と日本がこうむった被害にとどまらず、マーシャル諸島住民の被害、さらには世界の核実験被害まで、すべてを一つながりの問題として取り上げた。
 

参考サイト

近隣の情報

(この項おわり)
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