アンドロイドは人間になれるか | |||
著者 | 石黒 浩 | ||
出版社 | 文藝春秋 | ||
サイズ | 新書 |
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発売日 | 2015年12月18日頃 | ||
価格 | 803円(税込) | ||
ISBN | 9784166610570 |
未来は勝手にやってこない。(139ページ)
概要
レビュー
石黒さんは、子どもの頃から人の気持ちを理解することができず、長じて「わかっていないくせに子どもにえらそうなことを言っているのが、大人」(11ページ)と分かったという。美術を志すも、人工知能の研究に転じ、「『人の気持ちを考える』を理解するための[人工知能を作るには、脳の神経回路を研究し真似しているだけではダメ」(13ページ)だという考えから、動く身体を持つロボットの研究に没頭したという。
これが、石黒さんが傲慢な背景なのだろう。
これが、石黒さんが傲慢な背景なのだろう。
テレノイドやジェミノイドなど、ある程度、複雑な動作をプログラミングしたロボットを開発し、周囲の人間の反応を見て、石黒さんは、「心とは、複雑に動くものに実体的にあるというより、その動きを見ている側が想像しているものなのだ」(55ページ)と確信したという。
観察する側が勝手に存在していると思い込んでいるもの――それが「心」というのは、なんとなく納得がいく。
また、ペッパーの開発を通じて、「音声認識ゼロでも、ロボットと対話ができる。人間とロボットの間に必要なのは『会話している感』なのだ」(77ページ)という、
また、ペッパーの開発を通じて、「音声認識ゼロでも、ロボットと対話ができる。人間とロボットの間に必要なのは『会話している感』なのだ」(77ページ)という、
美しすぎるロボット「ジェミノイドF」「エリカ」を開発した石黒さんは、当然、性的利用についても考察している。そして、「僕は人間がボランティア精神でセックスするよりも、アンドロイドを与えた方が、尊厳は保たれるような気がする」(90ページ)という。政治家や宗教的指導者、そして祖先をもアンドロイドで代替できると言い放つ。こういう傲慢さは好きである。
さらに、ロボットによる高齢者や自閉症者のケアを通じて、「ロボット相手のコミュニケーションで練習すれば、人間相手とは違って遠慮する必要もない」(100ページ)と言い切る。人間に比べて、遠慮なく「何度でも同じことをさせることができる」からだ。人間不信も、ここまで来ると天晴れである。
石黒さんは、人の心を超えて、人間の存在そのものをロボットに投映してゆく。
石黒さんは、人の心を超えて、人間の存在そのものをロボットに投映してゆく。
本書でも『攻殻機動隊』や『アイ・ロボット』に言及しているが、ロボット工学三原則で有名なアイザック・アシモフのSFロボット・シリーズに登場する、人間不信で陽電子ロボットを開発したスーザン・キャルビンは石黒さんに似ている。そして、最もロボット化された植民惑星ソラリアでは、ロボットが家族や社会の役割を担っている設定だ――。
石黒さんは、「考え続ける限り、人間は、他の動物とも、ロボットとも違う存在でいられるはずだ」(223ページ)と述べて締めくくる。アシモフSFの正統な後継者を、ここに見た思いがした。
石黒さんは、「考え続ける限り、人間は、他の動物とも、ロボットとも違う存在でいられるはずだ」(223ページ)と述べて締めくくる。アシモフSFの正統な後継者を、ここに見た思いがした。
(2016年1月3日 読了)
参考サイト
- 石黒浩@hiroshiishiguro:Twitter
- 『われはロボット』(アイザック・アシモフ/小尾芙佐,2004年08月)
- 『聖者の行進』(アイザック・アシモフ/池央耿,1979年03月)
- 『アンドリューNDR114』(アイザック・アシモフ/ロバ-ト・シルヴァ-バ-グ,2000年04月)
- 『プリズムの瞳』(菅浩江,2007年10月)
- 『アイの物語』(山本 弘,2009年03月)
- 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・キンドレッド・ディック/浅倉久志,2011年06月)-『アンドロイドは人間になれるか』(石黒 浩,2015年12月)
- 『マーダーボット・ダイアリー(上)』(マーサ・ウェルズ/中原 尚哉,2019年12月)
- 『AIとSF』(日本SF作家クラブ,2023年05月)
(この項おわり)