睡眠と健康 2025年版

2025年1月29日 更新

目次

マイスリーを飲むと睡眠の質が低下する可能性

薬を飲んでいる女性
ストレスや精神疾患で十分な睡眠を取れないとき、睡眠導入剤を処方することが良くありますが、十分な時間眠ったのに、寝起きが悪いということがあります。
デンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームは、マウスを使った実験により、一部の睡眠導入剤には脳から老廃物を洗い流すシステムを阻害してしまうおそれがあると発表しました。
体中のあらゆる細胞と同様に脳細胞も老廃物を出すため、アルツハイマー病の研究などから、老廃物を洗い流す機構「グリンパティックシステム」(Glymphatic system)があることが分かっています。グリンパティックシステムは常に稼動していますが、とくに睡眠時によく働きます。
研究チームは、ノンレム睡眠の最終段階である「深い眠り」において、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)が約50秒ごとの小さな波として放出することを発見しました。
ノルエピネフリンの濃度がピークに達すると、脳の血管が収縮して血流が減少し、脳脊髄液がリンパ系を流れて、細胞の老廃物を集めるスペースが生まれます。そして、再びノルエピネフリン濃度が低下することでシステムがリセットされるというサイクルが繰り返されます。
しかし、睡眠導入剤としてよく用いられるゾルピデムをマウスに投与すると、投与されなかったマウスに比べてノルエピネフリンの放出が50%抑制されました。その結果、グリンパティックシステムの活動も30%以上減少しました。
同様のプロセスがヒトで起きるかどうかは確認していませんが、深い眠りに就いているヒトの脳ではマウスと同様の動きをしていることは過去の研究で分かっています。
そこから類推し、ゾルピデムのような睡眠導入剤を使うことで速やかに入眠できる反面、薬が予想外に睡眠の質を低下させる可能性があります。
ゾルピデムを含む睡眠導入剤の商品名としては、マイスリーなどがあります。

アルコールには睡眠導入効果があるが睡眠の質を下げるおそれ

寝酒を飲んでいる女性
お酒を飲むと眠けを催します。しかし、英ノッティンガム・トレント大学の研究者は、「アルコールは眠りに落ちる時間を早めるが、睡眠の質を低下させる」として、アルコールと睡眠の関係を説明しています。

アルコールの摂取によって眠りにつくまでの時間が短くなることは科学的に確かめられています。しかし、アルコールによる睡眠導入効果を得るには、就寝3時間前にワインをグラス3~6杯飲むという比較的大量のアルコール摂取が必要であることもわかっています
一方で、就寝3時間前にワインをグラス2杯飲むという少量のアルコール摂取でも、
  • レム睡眠に入るタイミングを遅らせる
  • レム睡眠の時間が短くなる
  • 夜中に頻繁に目覚める
  • 後半の眠りが浅くなる
といった影響が現れることも確認されています。レム睡眠が妨げられると記憶の定着が損なわれたり、感情のコントロールに支障をきたすことがあります。また、睡眠が妨げられることで翌日の疲労感が増すことにもつながります。

アルコールは、鎮静作用に関係する神経伝達物質 GABA (ギャバ)  の働きを強めるほか、眠気に関わっているとされるアデノシンの分泌量も増やして眠気を感じやすくします。しかし、体内でアルコールの分解が進むと、アルコールによって生じた体内の変化を元に戻そうとするリバウンド効果が生じ、GABA の働きやアデノシンの分泌量が通常時と同等になって睡眠が妨げられてしまいます
また、アルコールは、疲労感を感じさせて眠気を誘導する効果があるメラトニンの生成にも影響を与えており、メラトニンの生成量が変化することで睡眠リズムが変化することがあります。
さらにアルコールには、気道の筋肉を緩めていびきを悪化させる、利尿作用によってトイレのために起きる回数が増えるといった効果もあり、これらの効果が合わさって睡眠に悪影響を及ぼしていると考えられます。

研究者は、アルコールに頼らずに睡眠に入るために、次のような行動を推奨しています。
  • 毎日同じ時間に就寝・起床することで体内時計を整える
  • 涼しく、暗く、静かな部屋で眠る
  • 寝る前に読書や入浴などのリラックスできる活動を実施し、習慣化する
  • 午後にカフェインを摂取しないようにする
  • 身体活動を増やすことで、一日の終わりに疲れを感じるようにして概日リズムを調整する。朝の日光を浴びながら運動するとさらに効果的

睡眠中に脳は老廃物を洗い流すのか?

睡眠中に脳は老廃物を洗い流すのか?
マイスリーを飲むと睡眠の質が低下する可能性」で紹介したように、脳には老廃物を洗い流す仕組みが備わっていると考えられています。その最右翼が、脳室やクモ膜下腔という空間を満たしている脳脊髄液です。
しかし、現時点で脳脊髄液の動態はよく分かっていません。脳室では毎日約500ミリリットルの脳脊髄液が生成されていますが、それがどういうルートで排出されるのか分かっていません。
2012年(平成24年)に米ロチェスター大学のメイケン・ネダーガード博士らの研究チームは、マウスの脳脊髄液に追跡用分子(トレーサー)を注入したところ、トレーサーがすぐに脳の別の場所に到達したことを確認したとする論文を発表しました。これにより、脳脊髄液が血管の周囲のチャネルを通過して移動しており、その過程で老廃物の除去に関わっている可能性が示唆されました。しかしながら、血液脳関門により、脳と血液の間の物質輸送は厳密にコントロールされており、老廃物のみを透過させるという仕組みは確認されていません。
The Mysterious Flow of Fluid in the Brain
:Quanta magazine, 2025年3月26日

脳の老廃物を除去することでマウスの記憶力が改善

脳の老廃物を除去することでマウスの記憶力が改善
一方、ワシントン大学の研究チームが、マウスの脳内で老廃物の除去システムを強化することでマウスの記憶能力を向上させることに成功したと発表しました
脳が老化異物を除去する仕組みは加齢により衰えてゆき、脳内に老廃物が蓄積することで認知障害などを引き起こすと考えれています。研究では、プロスタグランジンF2αという薬品を使用して年老いたマウスの脳脊髄液の流れを若いマウスと同程度まで回復させたところ、マウスの記憶能力が回復したとしています。

睡眠の質の低下は陰謀論につながる?

睡眠の質の低下は陰謀論につながる?
英ノッティンガム大学の研究チームによると、睡眠の質の低下は、不安症やうつ病、妄想の増加と関連しており、これらはいずれも陰謀論の信念との関連性を持つという実験結果を、2025年(令和7年)3月12日付の査読付き学術誌「Journal of Health Psychology」に発表しました。
1つ目の研究では、540人の参加者が睡眠の質に関する測定を受けた後、2019年(平成31年)のノートルダム大聖堂火災に関する記事に目を通しました。その際、参加者の半分は火災に関する事実に基づいた記事を読み、もう半分は隠ぺいされた事実があることをほのめかす陰謀説を読みました。その結果、睡眠の質が悪かった参加者は、陰謀説を信じる可能性が有意に高いことがわかりました。

2つ目の研究では、575人の参加者を対象にうつ病・妄想・怒りなどの心理的要因を調査して、それらが睡眠の質や陰謀論の信念とどう関連しているかを分析しました。
その結果、うつ病が睡眠と陰謀論の信念の関係を最も強く結びつけること、つまり「睡眠の質の低下によるうつ病が最も強く陰謀論的な信念と関係していること」がわかりました。これに対し、妄想や怒りは一貫した結果を示しませんでした。

一連の研究により、睡眠の質の低下と陰謀論的な信念の関連性が明らかになりましたが、寝不足な人が全員陰謀論にはまっているわけではないため、「あくまで睡眠はピースの1つ」だと研究者は考えています。

参考サイト

(この項おわり)
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