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宇宙開発の不都合な真実 | ||
著者 | 寺薗 淳也 | ||
出版社 | 彩図社 | ||
サイズ | 単行本 |
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発売日 | 2022年09月20日頃 | ||
価格 | 1,540円(税込) | ||
ISBN | 9784801306202 |
不都合な真実を不都合なまま放置していくのか、不都合を好都合に変えていくのか、それはあなた自身の宇宙開発への向き合い方にかかっている。(204ページ)
概要

著者は、宇宙開発事業団(NASDA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などで働き、現在、合同会社ムーン・アンド・プラネッツの代表社員でNPO法人日本火星協会理事、「月探査情報ステーション」編集長をつとめる寺薗淳也さん。宇宙開発の最前線で働いている寺薗さんは、宇宙開発を無思考に礼賛するのではなく、一歩引いて、日本と世界の宇宙開発を冷静に眺め、未来を展望するために本書を著したという。その歯に衣着せぬテクストには説得力がある。


欧米では法律を制定・改正し、宇宙の資源採掘を可能にしている。日本でも2021年に「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」(宇宙資源法)が成立した。
だが、寺薗さんは問いかける――こうした法律は、宇宙は誰のものでもないとする宇宙条約に反してはいないだろうか。
だが、寺薗さんは問いかける――こうした法律は、宇宙は誰のものでもないとする宇宙条約に反してはいないだろうか。


第3章では、日本の宇宙開発のレベルを考える。
寺園さんは、宇宙開発に順位をつけることは難しいとしながら、アメリカ、中国、ヨーロッパ、ロシア、インド、そして日本の順だろうという。日本の宇宙開発は、総合力で他国に後れを取っている(60ページ)。
まず、日本の宇宙開発予算は少ない。月・惑星探査計画を低予算で実行するNASAのディスカバリー計画では火星探査計画が約1000億円だが、これだけで日本の全宇宙開発予算の3分の1に達する。要員も少ない。JAXAの職員数は1500人前後で、NASAの10分の1以下、ヨーロッパと比べても少ない。
寺園さんは、宇宙開発に順位をつけることは難しいとしながら、アメリカ、中国、ヨーロッパ、ロシア、インド、そして日本の順だろうという。日本の宇宙開発は、総合力で他国に後れを取っている(60ページ)。
まず、日本の宇宙開発予算は少ない。月・惑星探査計画を低予算で実行するNASAのディスカバリー計画では火星探査計画が約1000億円だが、これだけで日本の全宇宙開発予算の3分の1に達する。要員も少ない。JAXAの職員数は1500人前後で、NASAの10分の1以下、ヨーロッパと比べても少ない。

少ない予算で、月、火星、小惑星探査の順にアプローチすることは難しい。実際、月探査機「かぐや」(セレーネ計画)は、当初、月着陸を目指したが、予算不足とロケット打ち上げ失敗の影響でキャンセルになってしまった。そこで、はやぶさには、小惑星探査を先行し、そのインパクトで宇宙開発予算を増やそうという博打的な側面があったという。

はやぶさは大成功をおさめたが、宇宙開発予算が増えたわけではない。全体の予算は増えたものの、北朝鮮の弾道ミサイル発射事件に応じ、情報収集衛星を次々に打ち上げているからだ。

第4章では、宇宙開発の軍事利用について考える。
現代の宇宙ロケットは、第二次世界大戦中にドイツで開発されたミサイルV2を先祖にもつ。日本がいくら宇宙の平和利用を唱えようとも、海外諸国がそれを額面通りにとるとは限らない。実際、アメリカ戦略国際問題研究所 (CSIS)は、はやぶさが小惑星からサンプルを採取するために使った衝突技術は、対衛星兵器に利用できると報告した。
現代の宇宙ロケットは、第二次世界大戦中にドイツで開発されたミサイルV2を先祖にもつ。日本がいくら宇宙の平和利用を唱えようとも、海外諸国がそれを額面通りにとるとは限らない。実際、アメリカ戦略国際問題研究所 (CSIS)は、はやぶさが小惑星からサンプルを採取するために使った衝突技術は、対衛星兵器に利用できると報告した。



小惑星や彗星が地球に衝突する大災害も心配だ。聖書に登場するソドムとゴモラの滅亡は、実際に隕石の落下によって引き起こされたという研究結果が発表されている。ある研究に寄れば、天体衝突で死亡する確率は3000~25万分の1。アメリカでは交通事故で死亡する確率が30分の1、飛行機事故が3万分の1で、それよりは低いが、地震の1万分の1、落雷の13万5000分の1に近い。

JAXAは、美星スペースガードセンター(岡山県)が望遠鏡を使った観測をしているが、スペースデブリに監視に注力すると、大災害の予測が難しくなる。
寺薗さんは、「扇情的なメディア、無関心な政治家、そしてそのような状況を許す国民。宇宙開発の、というよりは地球にとっての不都合な真実が、いつか本当の真実になってしまう」(189ページ)と警鐘を鳴らす。
寺薗さんは、「扇情的なメディア、無関心な政治家、そしてそのような状況を許す国民。宇宙開発の、というよりは地球にとっての不都合な真実が、いつか本当の真実になってしまう」(189ページ)と警鐘を鳴らす。
レビュー

小学生の頃、望遠鏡で夜空を眺める一方、図書館で伝記を読みあさった。コペルニクス、ケプラー、ガリレオからアインシュタイン、フォン・ブラウンまで――本書にも登場するヴェルナー・フォン・ブラウンは、ドイツでV2ロケットの開発に携わり、アメリカに移ってからは宇宙ロケット開発の中心人物となった。子どもの時から、宇宙ロケットとミサイルと同じものだと分かっていた。特撮やアニメでもそうではないか。


寺園さんは「情報技術(IT)の分野で起きたことが、宇宙開発の分野でも現在進行形で起きているとしか思えない」(190ページ)と指摘する。IT屋としては耳の痛い話である。
とはいえ、かつての天文少年は、仕事を通じて、宇宙開発事業との接点ができたし、ある程度は社会に発言力をもつようになった。寺園さんが言うように、私も宇宙開発ファンとしてではなく、宇宙開発サポーターでありたい。
とはいえ、かつての天文少年は、仕事を通じて、宇宙開発事業との接点ができたし、ある程度は社会に発言力をもつようになった。寺園さんが言うように、私も宇宙開発ファンとしてではなく、宇宙開発サポーターでありたい。

JAXAの水循環変動観測衛星の名称公募に応募して、見事にヒット。立派な命名証が送られてきたものだから、年甲斐にもなく宝物にしている。パブリックコメントにも積極的に投稿していこうと思う。
(2022年11月30日 読了)
参考サイト
- 『宇宙開発の不都合な真実』(彩図社)
- 月探査情報ステーション
- 寺薗淳也@terakinizers:Twitter
- 『宇宙岩石入門』(牧嶋昭夫,2020年7月)
- 『下町ロケット』(池井戸潤,2013年12月)
- 『下町ロケット 2』(池井戸潤,2015年11月)
- 『はやぶさ、そうまでして君は』(川口淳一郎,2010年12月)
- 『まいど!』(青木豊彦,2009年11月)
(この項おわり)