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日本の国境問題 | ||
著者 | 孫崎享 | ||
出版社 | 筑摩書房 | ||
サイズ | 新書 |
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発売日 | 2011年05月 | ||
価格 | 836円(税込) | ||
ISBN | 9784480066091 |
歴史的に見れば、多くの国で国境紛争を緊張させることによって国内的基盤を強化しようとする人物が現れる。そして不幸な時には戦争になる。(31ページ)
概要

竹島
2010年9月7日、日本の“領海”である尖閣諸島沖において、中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突してくるという、いわゆる尖閣諸島中国漁船衝突事件が発生した。これに絡んで、菅直人首相は「尖閣諸島に領土問題は存在しない」と発言した。
だが、これ対しては以下のような違和感があった。
だが、これ対しては以下のような違和感があった。
- 巡視船に物的損害を与えた中国人船長は、なぜ国内法によって裁かれずに釈放されたのか? 他方、なぜ衝突ビデオを流出させたsengoku38氏は裁かれたのか? これは法治国家にあってはならない不公平な判断だ。
- 中国はなぜ、日本の領海侵犯を冒した中国人船長を英雄扱いしたのか? いくら国家形態が違うとはいえ、中国政府がそこまでして日本を徴発する理由が理解できない。
- 安保条約を結んでいるアメリカ合衆国が行動しないのはなぜか? 後述するが、アメリカが竹島問題に対して沈黙しているのは一層不可解である。
レビュー
本書の著者は、英・米・ソ連・イラク・カナダ駐在、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任し、2009年に定年退官した外務官僚である。そして、「日本は、北方領土、尖閣諸島、竹島という領土問題を持っている」(198ページ)という立場である。首相の発言の真逆をいっている。
だが、著者の主張は一貫しており、領土問題は存在し、日中・日韓・日ロの間で領土問題は「棚上げ」されているという。
著者は明治時代から太平洋戦争の戦後処理を経て国境問題を淡々と検証することで論理を補強しており、その欠陥は見当たらない。たとえば、「連合軍最高司令部訓令(昭和21年1月)においては、日本の範囲に含まれる地域として『四主要島と対馬諸島、北緯30度以北の琉球諸島等を含む約一千の島』とし、『竹島、千島列島、歯舞群島、色丹島等を除く』」(139ページ)と明記しているという。これが事実なら、竹島には“領土問題が存在する”。
少なくとも首相の断定的発言よりは、本書の内容は説得力があるし、そこから敷衍することで前述した疑問もすべて解ける。
とくに竹島問題については、韓国の同盟国であるアメリカが、同じ同盟国であるはずの日本との間で調整に入らないのはおかしな話である。もし竹島が発火点となって日韓紛争が起きたら、アメリカはどういう態度を示すのか? これも本書を読めば納得できる。

ただし、このような主張をしているのを見たのは本書が初めてであり、著者がミスリードしている可能性は捨てきれない。外交のプロが書いているのだから、一国民たる私に論理的欠陥を発見するのは不可能であろう。
本書を読んだ自分の考えを整理すると、領土問題が存在しているという可能性を捨てるべきではないということだ。領土問題の有無という結論に安易に飛びつく前に、本当に問題があるのかどうか自分自身の目で見て、耳で聞き、頭で考える必要がある。この点は、東日本大震災と原発事故を巡る一連の騒動でより明確になった。いまの政府もメディアも100%信用できないし、頼ってはいけない。
もし一生かけても結論に到達しなかったならば、自分が知り考えたありのままの事実を子ども世代に伝えるべきだろう。歴史をねじ曲げてはならない。
だが、著者の主張は一貫しており、領土問題は存在し、日中・日韓・日ロの間で領土問題は「棚上げ」されているという。
著者は明治時代から太平洋戦争の戦後処理を経て国境問題を淡々と検証することで論理を補強しており、その欠陥は見当たらない。たとえば、「連合軍最高司令部訓令(昭和21年1月)においては、日本の範囲に含まれる地域として『四主要島と対馬諸島、北緯30度以北の琉球諸島等を含む約一千の島』とし、『竹島、千島列島、歯舞群島、色丹島等を除く』」(139ページ)と明記しているという。これが事実なら、竹島には“領土問題が存在する”。
少なくとも首相の断定的発言よりは、本書の内容は説得力があるし、そこから敷衍することで前述した疑問もすべて解ける。
とくに竹島問題については、韓国の同盟国であるアメリカが、同じ同盟国であるはずの日本との間で調整に入らないのはおかしな話である。もし竹島が発火点となって日韓紛争が起きたら、アメリカはどういう態度を示すのか? これも本書を読めば納得できる。

ただし、このような主張をしているのを見たのは本書が初めてであり、著者がミスリードしている可能性は捨てきれない。外交のプロが書いているのだから、一国民たる私に論理的欠陥を発見するのは不可能であろう。
本書を読んだ自分の考えを整理すると、領土問題が存在しているという可能性を捨てるべきではないということだ。領土問題の有無という結論に安易に飛びつく前に、本当に問題があるのかどうか自分自身の目で見て、耳で聞き、頭で考える必要がある。この点は、東日本大震災と原発事故を巡る一連の騒動でより明確になった。いまの政府もメディアも100%信用できないし、頼ってはいけない。
もし一生かけても結論に到達しなかったならば、自分が知り考えたありのままの事実を子ども世代に伝えるべきだろう。歴史をねじ曲げてはならない。
(2011年8月9日 読了)
参考サイト
- 日本の国境問題:筑摩書房
- 孫崎享@magosaki_ukeru:Twitter
- 納沙布岬から国後島を望む:ぱふぅ家のホームページ
- 『ホンモノの日本語を話していますか』(金田一春彦,2001年04月)
- 『日はまた昇る』(ビル・エモット/吉田利子,2006年02月)
- 『ヘボン博士の愛した日本』(杉田幸子,2006年03月)
- 『なぜ日本人は劣化したか』(香山リカ,2007年04月)
- 『斎藤佑樹くんと日本人』(中野 翠,2007年04月)
- 『適当な日本語』(金田一秀穂,2008年08月)
- 『日本人の誇り』(藤原 正彦,2011年04月)
- 『日本の国境問題』(孫崎享,2011年05月)
(この項おわり)