『日本人の誇り』――近隣諸国と仲良くしたい

藤原正彦=著
表紙 日本人の誇り
著者 藤原 正彦
出版社 文藝春秋
サイズ 新書
発売日 2011年04月20日頃
価格 935円(税込)
ISBN 9784166608041
GHQが種をまき、日教組が大きく育てた「国家自己崩壊システム」は、今もなお機能しています。(83ページ)

概要

寝転がって本書を読んでいたら、息子が表紙をのぞき込み、ひと言。「『誇り』って右寄りだよね」――そう、本書は右寄りな内容満載なのである。
著者は『国家の品格』でブレイクした数学者で、作家・新田次郎の次男の藤原正彦さん。
『国家の品格』の読後感で「私にとっては当たり前のことを平易な言葉で記してあるだけなので、とくだん感銘はなかった。にもかかわらず、本書が驚異的ベストセラーになったのは、とても不思議である」と記したが、本書を読んでその理由がわかった。

レビュー

先日、北海道・長万部の公式キャラクター「まんべくん」がツイッター上で、「どう見ても日本の侵略戦争が全てのはじまりです」などと発言したのがきっかけで長万部町に抗議の電話が殺到した。それだけではない。尖閣諸島の中国漁船衝突事件や、メディアが盛り上げている韓流ブーム、元国交大臣の北方領土への視察など、ネトウヨでなくても日本人の誇りをくすぐる事象が目立って増えている。藤原さんの著書がヒットするのは、この部分を論理的かつ平易に説明しているからだ。
ということは、それを当然だと感じていた私は、根っからの右翼なのか!?

冒頭で紹介されているアメリカの「年次改革要望書」(2011年から「日米経済調和対話」に名称変更)、第4章で大きくページを割いている「南京大虐殺問題」。御説はごもっとも。
それ以降、太平洋戦争を中心に、日本の戦争の是非について論じられる。(本書によると日中戦争、太平洋戦争という分類がそもそもマズイことらしい)
藤原さんによれば、日本は「戦争で中国に勝っても何の得にもならないから」(166ページ)、日中戦争を避けてきたという。そして、「100万近い日本軍を中国大陸に貼り付けさせ、日中両国に膨大な犠牲を出させ疲弊させたのは、日本の意志ではなく中国の意志でもなく、米英ソの意志だった」(179ページ)と結論づける。また、「日米戦争は、自身、社会主義者に近く、ソ連に親近感をもつルーズベルト大統領が、ソ連そしてイギリスを窮地から救い出すため、権謀術数をつくして日本を追いこみ、戦争の選択肢しかないように仕向けたもの」(207ページ)とも言う。
そして、「日本はポツダム宣言という条件付き降伏をしたのであって、無条件降伏をしたのではありません」(71ページ)、「東京裁判は、第2次大戦におけるドイツの戦争犯罪を裁いたニュールンベルグ裁判と並び、人類史の汚点ともいうべき『裁判』」(95ページ)という。さらには「GHQが種をまき、日教組が大きく育てた『国家自己崩壊システム』は、今もなお機能しています」(83ページ)と主張する。
さすがにここまで来るとめまいがする。日本はそんなに誇り高い国で、欧米の指導者は腹黒い人物ばかりなのだろうか、と。

ただ1つ、「日中が手を携えるというのは白人にとって悪夢中の悪夢だった」(182ページ)という点にはうなずける。
韓国、北朝鮮を含め、なぜここまで喧嘩腰の付き合いをしなければならないのか不思議でならない。八紘一字や大東亜共栄圏ではないが、もう少し仲良くできないものか。
藤原さんによれば、「この2つは対立させる、というのは今も欧米の基本戦略」だからという。

日本人の誇りというのは結局、自分が日本人であるという強い自覚と自信をもち、欧米にどう言われようが、和をもって近隣諸国と仲良くやっていくことなのではないかと感じた次第。

余談になるが、本書と、『国防』(石破茂=政治家)、『田母神塾―これが誇りある日本の教科書だ』(田母神俊雄=元自衛官)、『日本の国境問題』(孫崎享=元外交官)を読み比べると、各々の立場から出てくる戦争史観の違いを読み取ることができて面白い。
(2011年8月22日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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