『太陽系の謎を解く』――好奇心は尽きない

NHK「コズミックフロント」制作班・緑慎也=著
表紙 太陽系の謎を解く
著者 NHK「コズミックフロント」制作班/緑 慎也
出版社 新潮社
サイズ 全集・双書
発売日 2022年06月23日頃
価格 1,760円(税込)
ISBN 9784106038846
ボイジャーの電源は、2020年から徐々に出力を下げていき、2025年ごろに完全に停止する予定だ。その間、太陽系の外にある“何か”を私たちに教えてくれるだろう。最後の力が尽きる、そのときまで。(279ページ)

概要

太陽系
本書は、NHKが2011年4月から10年以上にわたって毎週放映している科学番組「コズミックフロント」から、太陽系に関する話題を集めて書籍化したものだ。最新の無人探査機の観測結果や各国の天文学者たちの研究成果を取り上げ、分かりやすく取り上げている。
図版はないものの(NHKオンデマンドを見よう)、ニュースで取り上げられた話題ばかりだから、その記憶を思い出し、頭の中で最新の太陽系像を整理することができた。
幾つになっても宇宙への好奇心は尽きない。

レビュー

ボイジャー1号
1964年、JPLで働いていたカリフォルニア工科大学の大学院生ゲイ・フランドロは、1977年に探査機を打ち上げれば、木星、土星、天王星、海王星のそばを飛ぶ「グランドツアー」が実現できることに気づいた。こうして、1977年に無人探査機ボイジャー1号・2号が打ち上げられた。
ボイジャーが撮影した木星
ボイジャーが撮影した木星
ボイジャーは多くの観測結果をもたらし、太陽系のあらたな謎がもたらされた。
たとえば、火星が小さすぎること、土星の外側に天王星や海王星といった巨大惑星があること――これらは従来の太陽系形成モデルでは説明がつかなかった。
2011年5月、サウスウエスト研究所の惑星科学者ケビン・ウォルシュらは、木星は現在とは異なる場所で誕生し、太陽系の内側へ向かって移動してきたとする「グランド・タック・モデル」を提唱した。
ボイジャーが撮影した土星
ボイジャーが撮影した土星
コンピュータでシミュレーションしたところ、この木星の大移動によって太陽系内が攪乱され、火星が小さくなってしまったこと、天王星や海王星が現在の位置まで遠ざかってしまったことなどが説明できる。さらに、土星と天王星の間にあった惑星が太陽系の外に飛ばされてしまったという可能性が出てきた。
ハッブルがとらえた木星のオーロラ
ハッブルがとらえた木星のオーロラ
2016年7月に木星周回軌道に入った無人探査機ジュノーは、多くの観測情報を送ってきている。
木星の内部では液体金属のような水素が猛スピードで回転し、1000万アンペアという強い電流が生まれている。その電流によって強力な磁場が発生している。そして、イオの火山が噴出する二酸化硫黄が木星上空でプラズマとなり、巨大なオーロラとなる。
ジュノーが撮影した大赤斑
ジュノーが撮影した大赤斑
カッシーニは木星の大赤斑を発見したが、記録に残っているのは1710年までで、その後100年間消失した可能性がある。現在の大赤斑も、年々小さくなっている。また、台風と違い、コリオリの力に逆らう方向に渦を巻いている。
カッシーニが撮影した土星
カッシーニが撮影した土星
2004年6月に土星周回軌道に入った無人探査機カッシーニは、多くの観測結果をもたらした。
衛星タイタンには、山や砂漠、川があることがわかった。川を流れるのは液体のメタンだ。蒸発したメタンは再び雨となって表面に降り注ぐ大気循環がある。
カッシーニが撮影したタイタン
カッシーニが撮影したタイタン
衛星[エンケラドゥス:wikipedia:エンケラドゥス_(衛星):は、土星による潮汐力で変形し、その摩擦熱による熱水が存在することが分かり、タイタンに次いで生命の存在の可能性が高まった。
1994年にNASAは、「生命とは、ダーウィン進化を起こしうる自立した化学反応システムである」(76ページ)と定義した。液体メタンを利用して、自己複製や遺伝的変化をするものも生命と考える。
2017年9月、カッシーニは最後のミッション「グランドフィナーレ」を実行。土星の大気圏に突入して燃え尽きた。これは、地球の微生物を土星の衛星に持ち込まないための、やむを得ない措置だった。
メッセンジャーが撮影した水星
メッセンジャーが撮影した水星
太陽系で最も小さな惑星・水星に探査機を送り込むには太陽の引力にひかれすぎないようブレーキをかける必要がある。パドバ大学の天文学者ジュゼッペ・コロンボが考案したスイングバイ航法を使い、1973年11月に打ち上げられた無人探査機マリナー10号は初めて水星に接近した。表面には多くのクレーターがあり、想定されていなかった磁場を捉えることに成功した。2004年8月に打ち上げられた無人探査機メッセンジャーにより、水星表面の鉄が極端に少ないことが明らかになり、それまで惑星の形成仮説とされてきたジャイアントインパクト説が修正を余儀なくされそうだ。次に水星に到達するのはベビコロンボ計画の無人探査機で、2025年12月のことになる。
マゼランが撮影した金星
マゼランが撮影した金星
金星は、地球とよく似た大きさの惑星だ。だが、アメリカの探査機マリナー2号が金星の表面温度を観測したところ425℃もあり、ソ連の探査機[ベネラ13号:wikipedia:は地表の気圧が89気圧もあることを観測した。金星はマグマオーシャンが冷えるのに地球の20倍も長く時間がかかったため、水を失い、いまのような姿になったと考えられている。
また、自転周期が243日と遅いにもかかわらず、風速100メートルに達する暴風「スーパーローテーション」が起きることが金星の謎になっている。
バイキングが撮影した火星
バイキングが撮影した火星
40億年前の火星は、巨大な海と巨大な陸を備えた地球によく似た惑星だったと考えられている。一方、40億年前の地球には陸がなく、すべて海に覆われていたため、RNAやDNAのような大きな分子を作るのは容易なことではなかった。1992年にスノーボールアース説を提唱したカリフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビンクさんは、稼いで誕生した生命が隕石に乗って地球にやってきたと考えている。
キュリオシティが撮影した火星表面
キュリオシティが撮影した火星表面
火星には磁場がなかったため、太陽風によって大気が剥ぎ取られ、いまのように不毛の惑星に変わり果ててしまった。だが、探査機キュリオシティは、山の斜面にむき出しになっている粘土質の地層でメタンガスが変動して検出されることを観測した。これが自然現象なのか生命活動によるものなのか、さらなる観測が待たれる。
ヴァルキリー
ヴァルキリー
アメリカは2足歩行ロボット宇宙飛行士「ヴァルキリー」の開発が進められ、火星に送り込まれる予定だ。そして、オリオン宇宙船を使って2028年までに人類を火星軌道に送りこもうとしている。
宇宙生物学者のクリス・マッケイさんは、火星に工場を建設し、温室効果ガスのフロンガスを大気中に放出する。これにより火星の気温が上昇し、表面にあるドライアイスが気体の二酸化炭素になり大気中に放出され、さらに温室効果が進む。同時に火星全体に超電導リングを張り巡らし、人工的に磁場を作り出し、太陽風を遮る。こうして大気と気圧を上昇させ、地球から持ち込んだ微生物を導入し植物が育つ土壌に改造するテラフォーミングを考えている。
ニュー・ホライズンズが撮影した冥王星
ニュー・ホライズンズが撮影した冥王星
ボイジャーはタイタンを観測するため、冥王星観測を諦めた。10代の頃にボイジャーの映像を見て惑星研究者となったアラン・スターンさんが総責任者となり、冥王星探査機ニュー・ホライズンズが2006年1月に打ち上げられ、9年半かけて冥王星に到達した。冥王星には大きなハート模様が発見され、窒素の氷河によって形作られたもので、冥王星内部はまだ活動を続けていると考えられている。
ニュー・ホライズンズが撮影したカロン
ニュー・ホライズンズが撮影したカロン
1978年に冥王星の衛星を発見したアメリカ海軍天文台のジム・クリスティさんは、新婚間もない妻シャーリーンにちなんでシャロン Charon と名付けようとしたところ、ギリシア神話で死者の魂を冥界の王プルートー(冥王星)に運ぶカロンと同じ綴りだった。
冥王星の観測を終えたニュー・ホライズンズは、現在、カイパーベルト天体を観測している。
ドーンが撮影したケレス
ドーンが撮影したケレス
2007年に打ち上げられた探査機ドーンは、小惑星ベスタやケレスを観測した。
恒星から距離が離れると、水が氷に変わる温度帯がある。これをスノーラインと呼び、太陽系では、ちょうど小惑星帯がスノーライン上にある。スノーラインの内側では岩石惑星が、外側では巨大ガス惑星が形成されるため、スノーライン上では惑星の原料となる物質が乏しく、小惑星のまま成長できなかったと考えられている。
地球へ衝突する小惑星(想像図)
地球へ衝突する小惑星(想像図)
ところがドーンによる観測によって、小惑星の内部に水素と酸素を含んだ含水鉱物が豊富にあることが分かった。スノーライン上で形成された小惑星は、水分を固体の形で内部に取り込んだのだ。
その小惑星が隕石となり地球に降り注いだことで、地球に大量の水が供給されたと考えられている。
エリス(想像図)
エリス(想像図)
1999年に、カリフォルニア工科大学のマイク・ブラウンさんは、冥王星の外側にある10番惑星の探索を始めた。冥王星より小さい惑星がいくつか見つけたが、2005年1月、ついに冥王星より大きい惑星を発見し、エリスと名付けた。だが、その名の通り、エリスは不和の種をまいた。国際天文連合(IAU)は、当時、惑星の定義を明確にしていなかった。
セドナ(想像図)
セドナ(想像図)
天文学者たちの会議は紛糾した。そして2006年8月のIAU総会で、冥王星やエリス、小惑星は準惑星に分類されることになった。エリスの発見は、結果的に冥王星の地位も降格させてしまった。
2003年にブラウンさんが発見した準惑星セドナは、冥王星の10倍以上遠い長円軌道を描いており、その後、同じような軌道を描く準惑星が複数発見された。
プラネット9(想像図)
プラネット9(想像図)
コンピュータで計算すると、地球の約10倍の質量をもった惑星「プラネット9」の重力によってそのような長円軌道になったのではないかという仮説が、2016年1月に発表された。これほど大きな惑星になると土星の軌道に影響を及ぼしているはずだが、探査機カッシーニの観測データを分析すると、プラネット9の存在を否定する証拠が見つからなかった。プラネット9は存在するのか、天文学者たちの観測は続く――。
小惑星プシケ(想像図)
小惑星プシケ(想像図)
小惑星プシケは金属でできている。太陽系の歴史のごく初期、小さな天体にとりこまれた放射性元素アルミニウム26が崩壊熱で小天体の内部を加熱し、鉄のコアが誕生したのではないか。これまで惑星は、小さな塵の衝突・合体という秩序だったプロセスで、ゆっくり成長したと考えられてきた。だが、鉄のコアを持つ小さな天体が、激しい衝突をくり返していたかもしれない。この仮説を検証すべく、2022年8月にプシケへ向けて探査機が打ち上げられる。
オウムアムア(想像図)
オウムアムア(想像図)
2017年10月、長さ約800メートル、幅3メートルの細長い天体オウムアムアが発見される。その奇妙な形から、その正体は、太陽系外から訪れた氷でできた彗星だった。ハーバード大学教授のエイブラハム・ローブさんによれば、太陽系の外から来た天体が、生命の種をもたらした可能性があるという。

レビュー

ベネラ9号が撮影した金星表面
ベネラ9号が撮影した金星表面
バイキング1号が撮影した火星表面
バイキング1号が撮影した火星表面
子どもの頃に宇宙図鑑で見て覚えた太陽系の様子は、いまのものとは似ても似つかないものだった。小学校の掲示板に子ども新聞が張り出されており、ソ連のベネラ9号(当時は金星9号と呼んでいた)が撮影した金星表面の写真を見て驚いた。翌1976年、アメリカのバイキング1号・2号が送ってきた火星表面のカラー写真は、新聞をスクラップして夏休みの自由研究にした。火星のテラフォーミングは、本書でも触れられているSF映画『オデッセイ』が参考になる。
ボイジャー1号が撮影したイオの火山
ボイジャー1号が撮影したイオの火山
さらに1979年、[ボイジャー1号・2号が撮影した木星のカラー写真――そのダイナミックな姿に驚き、衛星イオの火山に驚かされた。
その後も、マーズ・オブザーバーなどの火星探査機、ガリレオカッシーニといった外惑星探査機、ニュー・ホライズンズは2015年に冥王星に到達した。
太陽系外からやって来たオウムアムア発見のニュースは、一般ニュースでも大々的に取り上げられた。SF作家アーサー・C・クラークの生誕100周年にあたっており、彼が人類と異星人のファースト・コンタクトを描いた『宇宙のランデヴー』に登場する宇宙船ラーマによく似た形をしていたからだ。
この宇宙船説は否定されるが、太陽系外からやって来た天体が太陽系内に千個以上あるという推測には好奇心がそそられる。

こうした最新ニュースや写真、科学読本を読みながら、最近ではネット情報も採り入れながら、太陽系に関する知識を更新してきた。時代に恵まれたと思う。
ボイジャー1号・2号は、太陽圏の最果てヘリオポーズを越えて、恒星世界へ乗り出した。原子力電池の発電限界は2025年というが、打ち上げ年に公開されたSF映画『スタートレック』のように、何百年の未来に戻ってくるかもしれない。宇宙への好奇心は尽きない。
(2022年9月23日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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