西暦426年 - アウグスティヌスの『神の国』

神の恩寵が自然を完成させる
ボッティチェリ「書斎の聖アウグスティヌス」
ボッティチェリ「書斎の聖アウグスティヌス」
ゲルマン民族の侵入に苦しんでいた西ローマ帝国で、426年、キリスト教の教父アウグスティヌスが『神の国』でカトリック教会の在り方を提示した。この書は、その後のキリスト教思想の基盤となった。

アウグスティヌスは、254年、ローマの属州であった北アフリカの小さな村タガステで産まれた。母親な熱心なキリスト教徒だったが、父親は異教徒だった。
16歳の時、アフリカのローマと言われるカルタゴに移り住み、とある女性と同棲し、私生児をもうけ、マニ教に入信する。彼は後に『告白』で、「私は肉欲に支配され荒れ狂い、まったくその欲望のままになっていた」と述懐している。
その後、キケロや聖書に触れたアウグスティヌスは、383年、ローマに入り、弁論術を教えた。ミラノでは新プラトン主義に触れ、マニ教から離れ、387年、キリスト教の洗礼を受ける。

マニ教の善悪二元論は、悪の原理は物質に由来するもので、人間の本性ではないとする。しかしアウグスティヌスは、自らの罪の深さに悩み、人間の自由意志は神の恩寵と対立する原罪だと認識した。
プラトンの理想のイデアを出発点に、一神論と親和性の高い新プラトン主義に触れたことで、アウグスティヌスは、神への信仰こそが地の国から神の国へ至る道であると信じた。そして、神の恩寵が自然を完成させるとした。
アウグスティヌスは、教会が地上では唯一、神の代理を担う場所だと定義し、これが中世キリスト教の立ち位置を決定することになる。

391年、アウグスティヌスは北アフリカでカルタゴに次ぐ第二の都市ヒッポの司祭になった。
410年、西ゴート人によるローマ占領に衝撃を受けたキリスト教世界に対し、『神の国』を発表することで、その精神的支柱となった。
430年、ゲルマン民族はジブラルタル海峡を渡り北アフリカに侵入してきたとき、アウグスティヌスは75年の生涯を閉じる。

アウグスティヌスが影響を受けた古代ギリシアやヘレニズムの哲学は、皮肉なことに、529年、東ローマ帝国のユスティニアヌス帝の時、異教としてキリスト教世界から追放されてしまう。また、神の国を目指した教会もまた、世俗の垢にまみれていくことになる。
これを回復するには、十字軍によって古代ギリシアの知識が入りラム世界から逆輸入され、トマス・アクィナスが『神学大全』を著すまで待たなければならなかった。

この時代の世界

275 325 375 425 475 525 575 426 アウグスティヌスの『神の国』 354 430 アウグスティヌス 451 カタラウヌムの戦い 375 ゲルマン民族の大移動はじまる 395 ローマ帝国の分裂 476 西ローマ帝国が滅亡 381 451 ネストリウス 486 フランク王国の建国 466 511 クロヴィス1世 434 493 オドアケル 406 453 アッティラ 347 395 テオドシウス1世 381 コンスタンティノープル公会議 360 聖ソフィア大聖堂の建立 418 479 雄略天皇 507 継体天皇が即位 450 531 継体天皇 304 439 五胡十六国時代 337 422 法顕 356 422 劉裕 365 448 寇謙之 439 南北朝時代(中国)はじまる 344 405 顧愷之 370 414 チャンドラグプタ2世 Tooltip

参考書籍

表紙 神の国 1
著者 アウグスティヌス/服部 英次郎/藤本 雄三
出版社 岩波書店
サイズ 文庫
発売日 1982年03月16日頃
価格 1,243円(税込)
ISBN 9784003380536
 
表紙 神の国 2
著者 アウグスティヌス/服部 英次郎/藤本 雄三
出版社 岩波書店
サイズ 文庫
発売日 1982年12月16日頃
価格 1,177円(税込)
ISBN 9784003380543
 
表紙 神の国 3
著者 アウグスティヌス/服部 英次郎/藤本 雄三
出版社 岩波書店
サイズ 文庫
発売日 1983年07月18日頃
価格 1,067円(税込)
ISBN 9784003380550
 
表紙 神の国 4
著者 アウグスティヌス/服部 英次郎/藤本 雄三
出版社 岩波書店
サイズ 文庫
発売日 1986年06月16日頃
価格 1,320円(税込)
ISBN 9784003380567
 
表紙 神の国 5
著者 アウグスティヌス/服部 英次郎/藤本 雄三
出版社 岩波書店
サイズ 文庫
発売日 1991年04月16日頃
価格 1,320円(税込)
ISBN 9784003380574
永遠の教示に富む偉大な歴史哲学の書『神の国』全22巻。その最後の、そうして最も重要な主題が本冊所収の19〜22巻でとりあげられる。主題とは「神の国」と「この世の国」という2つの国の相異なった目的と終極であり、神の愛に根ざした静穏な秩序と平和の共同体の理念が描き出されるのである。事項索引を付した。
 
表紙 告白 (上)
著者 アウグスティヌス,A./服部 英次郎
出版社 岩波書店
サイズ 文庫
発売日 1976年06月16日頃
価格 990円(税込)
ISBN 9784003380512
 
表紙 告白 (下)
著者 アウグスティヌス,A./服部 英次郎
出版社 岩波書店
サイズ 文庫
発売日 1976年12月16日頃
価格 924円(税込)
ISBN 9784003380529
 
(この項おわり)
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