『銀河帝国興亡史4 ファウンデーションの彼方へ』

アイザック・アシモフ=著

概要

銀河帝国興亡史4 ファウンデーションの彼方へ
1万2千年続いた銀河帝国は崩壊しつつあった。このことに気づいたハリ・セルダンは、心理歴史学を応用し、帝国崩壊後の3万年間の暗黒時代を1千年に短縮すべく、2つのファウンデーションを設立した。銀河系の辺縁にある惑星ターミナスに設置された第一ファウンデーションは経済を発展させ、心理歴史学が予見できなかった突然変異体ミュールを退けた。さらに、第二帝国を指導する心理学者集団、第二ファウンデーションをも打ち破ったかのように見えたが――。
表紙 銀河帝国興亡史4 ファウンデーションの彼方へ(上)
著者 アイザック・アシモフ/岡部宏之
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 1984年12月
価格 902円(税込)
ISBN 9784150105921
ジェンディバル「第一発言者、〈セルダン・プラン〉は無意味です!」(143ページ)

あらすじ

ファウンデーション設立から498年――セルダン・ホールにハリ・セルダンのホログラフ映像が現れた。〈セルダン・プラン〉は順調に進んでいるようだった。だが、ターミナスの若い議員ゴラン・トレヴィズは、ミュールによって変更されたはずのプランが完全に一致するはずはなく、第二帝国の支配者となるために第二ファウンデーションがわれわれを操作し続けていると主張した。
ハーラ・ブラノ市長はトレヴィズを捕らえ、第二ファウンデーションを見つけるまでターミナスに帰ってくるなと命じた。彼女は、トレヴィズに最新型宇宙船ファースター号(豪商ホバー・マロウのクルーザーにちなんで)を与え、同行者として52歳の歴史学者ジャノヴ・ペロラットを指名した。ペロラットは、忘れられた人類発祥の惑星、地球を探すという。
ブラノはトレヴィズの同僚マン・リ・コンパー議員を呼び出し、トレヴィズを密かに追跡することを命じる。
トレヴィズは、第二ファウンデーションがあるという「星界の果て」とは、銀河系で最も新しい世界であるターミナスの反対、つまり最も古い世界である地球を意味していると考えた。ファースター号はセイシェル連合を目指した。

第二ファウンデーションの25代目の第一発言者クィンダー・シャンデスは、12人の発言者の中で最も若いストー・ジェンディバルと対面した。ジェンディバルは、〈セルダン・プラン〉には欠陥がないことが致命的な欠陥だと指摘する。そして、ミュールの出現で起きたプランからの逸脱は、第二ファウンデーションの努力にも関わらず補正できなかったことを証明した。ジェンディバルは、個々の人間の反応を予言できるほど進歩した心理歴史学的方法「微小心理歴史学」が存在しており、それが〈セルダン・プラン〉を完璧なものにしているという仮説を述べた。そして、発言者会議にいる敵対者をあぶり出すために徹底的な精神分析を行い、トレヴィズを追跡する必要があると提言する。
だが、発言者デローラ・デラミーはジェンディバルを弾劾した。トレヴィズが地球探索に出掛けたことを知ったジェンディバルは、弾劾裁判の場で、銀河図書館に地球に関する資料がまったくないことを紹介し、それは第二ファウンデーションの誰かによって行われたと主張した。ジェンディバルは、農婦のスーラ・ノヴィを召還した。彼女は、発言者会議の誰もが為しえないほど微細な精神調整を施されていたのだ。発言者会議は、この未知の勢力を「アンチ・ミュール」と呼ぶことにした。

トレヴィズとペロラットはセイシェルに上陸した。そこで彼らを待っていたのは、コンパーだった。
表紙 銀河帝国興亡史4 ファウンデーションの彼方へ(下)
著者 アイザック・アシモフ/岡部宏之
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 1996年07月
価格 726円(税込)
ISBN 9784150111519
ペロラット「人間は自分たちが隣人より優れていると、頭からきめてかかる傾向がある。自分たちの文化は他の世界のものよりも古くて卓越していると。他の世界のよいものは、自分たちの所から借りていったものであり、一方、悪いものは借用に際して歪んだか堕落したものであり、でなければ、よそで発明されたものだと。そして、質の優越性の優越性を同一視する傾向がある」(60ページ)

あらすじ

シリウス星区に祖先をもつマン・リ・コンパーは、地球全体は放射能を帯びており生命が存在しないという物語をゴラン・トレヴィズとジャノヴ・ペロラットに語った。
コンパーの正体は、第二ファウンデーションの「観測者」だった。トレヴィズが不十分と思われるデータから正しい結論に到達する神秘的な能力があると考えたコンパーは、そのことを若き発言者ストー・ジェンディバルに報告した。第二ファウンデーションを離れたジェンディバルはスーラ・ノヴィをともない、3人がいるセイシェルへ向かっていた。

トレヴィズとペロラットは、セイシェル大学古代史学部のソテイン・クィンテゼッツ・アブトに会い、地球人がロボットを考案したことを知る。地球人はロボットの力を借りて、セイシェルへ植民したという。そして、ミュールですらガイアに手出しをしなかったと告げる。
ファースター号はガイアへ向かった。彼らの動向を知ったハーラ・ブラノ市長は、公安部のリオノ・コデルをともないガイアへ出発した。

ファースター号はガイアをめぐる宇宙ステーションに補足され、ブリスという女性に案内され、ドムと呼ばれる老人に会合する。ドムはロボット工学三原則について語り、あるとき、ロボットたちはテレパシー能力を身につけたという。そして、ロボットが〈永遠人〉になったという。
また、ミュールがガイアの1人であったことを告げ、ガイアがトレヴィズを呼び寄せたのだという。
トレヴィズとペロラット、ジェンディバルとノヴィ、ブラノとリオノがガイアに集結した。ノヴィが本来の姿を現し、トレヴィズの決断を待った。第二帝国は、ターミナスが握るか、第二ファウンデーションが握るか、それともガイアが握るのか。トレヴィズはコンピュータに触れ、決断を下した――銀河系の運命のかかる決断を。そして、トレヴィズの手には未解決の問題が残った――。

レビュー

銀河帝国興亡史3部作から30年ぶりに書かれた続編。同じアシモフのSFであるロボット・シリーズはもちろん、『宇宙の小石』『暗黒星雲のかなたに』『宇宙気流』『永遠の終り』のエピソードがちりばめられており、ファンとしては嬉しい限り。そんなファンの声に支えられて、本書はアシモフ263冊目の著作にして、はじめてのベストセラーとなった。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに25週にわたって載り続けたことは、『ファウンデーションと地球』の前書きにあるとおりだ。
早川書房から翻訳版が出版されたのが1984年で、初めてリアルタイムに銀河帝国興亡史を読むことになった。

後半に登場する惑星ガイアは、1960年代に登場したガイア理論の産物だが、本書と同じ年にジェームズ・ラヴロックの『地球生命圏 - ガイアの科学』が翻訳されており、1990年に入るとゲーム「シムアース」が登場するなど、認知度を高めている。
コンピュータの役割も強調されており、ちょうどプログラミングを始めた私にとって、記憶に残る作品となった。

ペロラットが地球の伝説について語る――「人類学ではそれを“地球中華思想”(グロポセントリズム)と呼ぶ。人間は自分たちが隣人より優れていると、頭からきめてかかる傾向がある。自分たちの文化は他の世界のものよりも古くて卓越していると。他の世界のよいものは、自分たちの所から借りていったものであり、一方、悪いものは借用に際して歪んだか堕落したものであり、でなければ、よそで発明されたものだと。そして、質の優越性の優越性を同一視する傾向がある」(57ペ-ジ)、「地球の表面でかね? そんなことはありえない。戦の武器として核爆発を使うほど愚かな社会など、銀河系の歴史には記録されていない。そんなことがあったとしたら、われわれは決して生き延びていないだろう」(60ページ)――アシモフの死後28年を経てもなお、私たちは死者の手のひらの上で踊らされているようだ。

36年ぶりに読み返してみると、私はペロラットの年齢を通り越してしまった。これまで、いろいろな経験をさせてもらったが、技術が人類の未来を切り開くという“願い”だけは当時と変わっていないことを確認できた。
(2020年8月11日 読了)

アイザック・アシモフの作品紹介

(この項おわり)
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