『銀河帝国興亡史6 ファウンデーションへの序曲』

アイザック・アシモフ=著

概要

銀河帝国興亡史6 ファウンデーションへの序曲
銀河紀元12020年、惑星ヘリコンから銀河帝国の首都惑星トランターへ、32歳の数学者ハリ・セルダンがやってきた。トランターで10年ごとに開催される数学者大会で、セルダンは、心理歴史学(サイコヒストリー)を応用することにより人類の未来を予言できるという理論について発表――若き日のセルダンの冒険が始まる。
表紙 銀河帝国興亡史6 ファウンデーションへの序曲(上)
著者 アイザック・アシモフ/岡部宏之
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 1997年11月
価格 748円(税込)
ISBN 9784150112127
(セルダン)「わたくしは未来に関する確率の理論的査定を心理歴史学と呼んでおります」(30ページ)

あらすじ

この情報を聞きつけた、セルダンと同年齢のクレオン1世は、宰相エト・デマーゼルに命じ、セルダンを呼び出した。クレオン1世は、心理歴史学を使って自らの暗殺を避ける方法をたずねる。しかしセルダンは、そうしたミクロな事象を扱うことはできないと断言する。
落胆した皇帝は、セルダンをヘリコンへ帰すようデマーゼルに命じる。デマーゼルは、ゴロツキを雇ってセルダンを襲わせる。そこへジャーナリストを名乗るチェッター・ヒューミンが現れ、セルダンを救出。自治権が認められているストリーリング大学へと逃がす。大学では歴史学者ドース・ヴェナビリがセルダンの面倒を見ることになる。心理歴史学感染のヒントを得るため、歴史研究に勤しむセルダン。だがある日、歴史と同じくらい予測が難しい気象現象について関心をもち、気象学者とジェナール・レッゲンの観測に同行し、トランターの「上」に向かう――惑星トランターは無数の巨大なドームに覆われており、人々はドームの内側、実際には惑星の地表面下で快適な暮らしを送っていた。だが、ドームの上は分厚い雲に覆われ、冷たく、荒涼とした世界が広がっていた。
そこでセルダンは、空を飛ぶジェットダウンに追われ、凍死しそうになる。ドースが機転をきかせ、なんとかセルダンを救出した。
セルダンは、有限時間内に心理歴史学の階を得るには、扱う世界を小さくすればいいのではないかと考えた。

セルダンとドースは、トランターの中で農耕を営み他地域との交流を避けているマイコゲンへ向かった。マイコゲンでは男女とも頭髪や眉毛を脱毛しており、男女間の格差があった。セルダンは、失われた「宗教」という文化について考える。
マイコンゲンにはフィルムではなく印刷された「本」があり、そこに2万年前の人類の歴史が記されていた。彼らは数百年の寿命を誇ったオーロラと呼ばれる世界の子孫であり、寺院には2万年前のロボットがあると書かれていた。
セルダンとドースは、寺院“サクラトリウム”へ向かった――。
表紙 銀河帝国興亡史6 ファウンデーションへの序曲(下)
著者 アイザック・アシモフ/岡部宏之
出版社 早川書房
サイズ 文庫
発売日 1997年11月
価格 748円(税込)
ISBN 9784150112134
(リター母さん)「地球を助けた人造人間がいた。それはダ・ニーで、バーリーの友達だった。かれは決して死なずに、どこかに生きていて、復帰の時を待っている。その時がいつくるか、だれも知らない。だが、いつかはかれは戻ってきて、偉大な昔の日々を回復し、あらゆる残酷、不正、悲惨を取り除く。それが約束だ」(368ページ)

あらすじ

トランターで開催される数学者大会で心理歴史学(サイコヒストリー)について発表したハリ・セルダンは皇帝クレオン1世に謁見するが、宰相エト・デマーゼルの追跡を受けることになる。ジャーナリストのチェッター・ヒューミンと歴史学者ドース・ヴェナビリの支援を受け、セルダンはトランター各地を逃げ回る――。

マイコゲンのサクラトリウムで、セルダンとドースは動かなくなった金属製のロボットを発見した。そこへサンマスター14が現れセルダンを脅迫するが、間一髪でヒューミンに救出される。

次に、セルダンとドースは、トランター内部のマグマをエネルギーに転換しているダール地区へ向かう。そこで働く人々は、背が低く、皮膚の色が濃く、縮れた髪と髭のために、他の地域から差別されているという。
熱溜め(ヒートシンク)を見学したセルダンらは、セルダンのことを知っているというユーゴ・アマリルと出会う。アマリルには数学の才能があったが、周囲から迫害されており、セルダンはヘリコンの大学で学ぶことを勧める。
セルダンとドースは、ビリボトンと呼ばれるスラム街へ、リッター母さんと呼ばれる老婆を訪ね、地球を助けた人造人間ダ・ニーと、その友だちバ・リーの伝承を聞く。ダ・ニーは生きており、復帰の時を待っているという。

ビリボトンから戻ったセルダンは、レイチという少年の案内でダヴァンという男に会う。ダヴァンは心理歴史学を利用して革命を起こそうとしていた。
だが、セルダンはダヴァンには与せず、エマー・サルス軍曹とともに、トランターの南極にあるワイ市へ向かった。
正当な帝位継承権を主張するワイ市市長マニックス4世の娘ラシェルが、セルダン、ドース、レイチを迎えた。彼女も心理歴史学を利用しようとしていた。ラシェルはクーデターを企てていたが、帝国軍がその機先を制し、ワイ市を制圧した。
ラシェルはセルダンを殺害しようとするが、危機一髪のところでヒューミンが救出に現れる。「上」での危機をはじめ、セルダンに追っ手をかけていたのは、じつはラシェルだった。そして、ラシェルはヒューミンの正体を曝く。
こうしてセルダンの逃避行は一件落着するが、セルダンはヒューミンの真の正体に気づいていた――それは、ヒューミン、セルダンとドースの3人だけの秘密となった。

レビュー

惑星トランターは全体がドームで覆われ、人々はその中で籠もって暮らしており、エキスプレスウェイでで移動する――これは、同じアシモフの作品『鋼鉄都市』の地球と同じである。

銀河帝国では宗教という概念が失われているが、セルダンはこれを「超自然的」と表現する。つまり、「自然の法則から独立した存在があるという信念。たとえば、エネルギー保存の法則とか、作用の恒常性の存在とかに束縛されないものがあるという信念」(205ページ)だという。心理歴史学は超自然的事象を扱わない――これが、本書から続編の『銀河帝国興亡史7 ファウンデーションの誕生』へ繋がる重要な伏線となる。
トランター世界には、人種差別、男女格差、宗教問題があり、これは、来るべき21世紀の社会問題をアイザック・アシモフが予言しているかのようだ。
セルダンとドースは、何度かエアジェットに乗るが、その加速や着陸の描写は、飛行機嫌いのアシモフならでは(笑)。
(2020年8月27日 読了)

アイザック・アシモフの作品紹介

(この項おわり)
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