PowerPC 603 は 低消費電力

1994年6月リリース
PowerPC 603
PowerPC 603
Power PC は、1991年(平成3年)、アップルコンピュータ、IBM、モトローラの3社が共同開発したRISCプロセッサのシリーズ名である。PPC と略記される。
PowerPC 603のダイ
PowerPC 603のダイ
1980年代後半、パソコンに搭載されているCPUは、実行する命令形式の種類を増やし、複雑な処理を行えるようにする CISC (シスク) (Complex Instruction Set Computer)方式が主流であった。インテルのx86系や、モトローラの68kシリーズが代表である。
IBM POWER 1
IBM POWER 1
CISCは、ソフトウェア側で指定する命令を減らせる利点がある反面、CPUの仕組みが複雑になり高速化が困難となり、いずれ性能向上に限界がくるという説が有力であった。
PowerPC 601
PowerPC 601
そこで、命令数を減らししてプログラムの処理速度を向上させる RISC (リスク) (Reduced Instruction Set Computer)方式が登場した。
IBMは1990年(平成2年)、RISC プロセッサ POWER を開発し、これをパソコンに転用しようと目論見、アップルコンピュータに声をかけた。当時、MacintoshではモトローラのCISCプロセッサである68kを搭載していたが、RISC に転換することを決断。モトローラを巻き込んでAIM連合を結成した。ここで開発されるのが Power PC である。
PowerMacintosh 6100
PowerMacintosh 6100
そして1994年(平成6年)、Power PC を搭載する Power Macintosh が登場した。
ちなみに、アップルはアーキテクチャに見切りを付けるのが早く、2005年(平成17年)にはインテルCPUへの移行を決断する。
PowerPC 601 アーキテクチャ
PowerPC 601 アーキテクチャ
PowerPC 603
PowerPC 603
Power PC は、命令セットやレジスタセット、アドレッシング、キャッシュなどの基本アーキテクチャの動作を規定するのみで、それらをどう実装するかはCPUメーカーに委ねる形をとった。これは、Windows NT、OS/2、Solaris、AIXといった複数のOSを動かすことを目的とした戦略であったが、結局、インテルの牙城を崩すことはできなかった。
Performa 5220
Performa 5220
わが家に最初にやってきたのは、アップル Performa 5220 に搭載されていた PowerPC 603 である。
POWERプロセッサをベースに設計されたPowerPC 601、602の次の世代(G2)であり、低消費電力に主眼を置いて開発され、アルミ配線となっている。
消費電力は3W以下と、同クロックの PowerPC 601Pentium の半分以下である。
ニンテンドーゲームキューブ メイン基板
ニンテンドーゲームキューブ メイン基板
MacOS 8.5からPowerPC専用となったが、それまでは68k命令をソフトウェア・エミュレーションして実行していたため、動作が遅かった。

Power PC は、Macintosh以外に、ニンテンドーゲームキューブ、Wii、Wii U、PlayStation 3(Cellプロセッサ)、Xbox 360などに搭載された。また、NASやルーターなどの組み込み機器での利用も多い。

PowerPC 603 アーキテクチャ

PowerPC 603e
PowerPC 603e
1クロックあたり3命令(うち1つは分岐)を実行できるスーパースカラ構造で、4ステージのパイプラインと5つの実行ユニット(整数ユニット、浮動小数点ユニット、 分岐予測ユニット、ロード/ストアユニットおよびシステムレジストリユニットを搭載する。L1キャッシュは16KB(命令8Kバイト、データ8Kバイト)。L2キャッシュはシステムバス上に搭載する。
PowerPC 603e ダイ
PowerPC 603e ダイ
コア2.5V、I/O 3.3Vの低電圧動作が可能で、さらにパワーマネジメントシステムを搭載しており、スリープモード時にはわずか2mWしか消費しない。

CPU単体の性能としては先行する Pentium に引けを取らず、消費電力が圧倒的に低いというアドバンテージがあったにも関わらず、MacOSを含むソフトウェア製品のPowerPC対応が遅れ、大半のユーザーが64kエミュレーションモードを利用していたために、PowerPCは遅いという印象を与えてしまった。
PowerPC 603e ではL1キャッシュを32Kバイトに増やし、最終的なクロックは300MHzに達した。

PowerPC 604

PowerPC 604
PowerPC 604
Power PC 603 と同じ時期、演算性能を高めたCPUとして PowerPC 604 がリリースされた。
4命令実行可能なスーパースカラ構造に、整数演算ユニットを3つ、浮動小数点演算ユニットを1つ、32~64KバイトのL1キャッシュを搭載した。マルチプロセッサにも対応していた。
消費電力は Power PC 603 よりは多いが、それでも平均6W、最大10Wと、Pentium よりも省電力だった。
しかし、構造が複雑なために高クロック化が難しく、Macintoshに搭載された動作クロックは350MHzが最高だった。

PowerPC G3

PowerPC G3
PowerPC G3
Apple、IBM、モトローラは共同で PowerPC 603 の改良を行い、1997年(平成9年)12月、PowerPC 750 としてリリースした。Appleでは第3世代のPowerPCという意味で、PowerPC G3 と呼んだ。
L1キャッシュを64Kバイトと倍増し、その帯域も16バイト/サイクルに倍増させた。また、L2キャッシュを専用バスを介してCPUに直結させることで、アクセスを高速化した。
PowerPC G3 ダイ
PowerPC G3 ダイ
整数演算ユニットを2つに増やし、多くの整数演算命令を2つ同時に実行することが可能になった。動的分岐予測機構を採用し、1サイクル早く命令キューに分岐先の命令を入れることができるようになった。
消費電力は、500MHzで平均6.0W、最大7.5Wと、そのままノートPCにも搭載することができた。
しかし、純粋な演算性能では PowerPC 604 に劣り、これを超えるにはAltiVecを搭載する PowerPC G4 の登場を待たねばならなかった。

主要スペック

項目 仕様
メーカー IBM, モトローラ
発売開始 1994年
トランジスタ数 160万~260万
データバス 32ビット
1次キャッシュ 命令:8~16KB
データ:8~16KB
物理メモリ 4GB
CPUクロック 66~300MHz
プロセスルール 0.5~0.29μm
ソケット 240ピンQFP
最大消費電力 2.5~6.0W

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラPowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleM1/M264bit3.49GHz

参考サイト

(この項おわり)
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