AMD Ryzenはインテル製CPUを超えるパフォーマンス

2017年11月発売開始
Ryzen 9 6980HX
Ryzen 9 6980HX
AMDは2016年(平成28年)12月、マイクロアーキテクチャ Zen (ゼン)  を搭載した新型CPU「Ryzen (ライゼン) 」を発表した。2017年(平成29年)3月に最上位モデルの Ryzen 7 1800X から順次発売が開始された。
2022年(令和4年)9月現在、Zen 4 アーキテクチャを搭載する Ryzen 7000シリーズが発売されている。

Ryzen シリーズ

No. アーキ
テクチャ
CPU型番 コア数 プロセス
ルール
トランジ
スタ数
内蔵GPU
1 Zen Ryzen 7 1800X, Ryzen 5 1600X, Ryzen 3 1300Xなど 4~16 14nm 約48億 Radeon Vega
2 Zen+ Ryzen 7 2700X, Ryzen 5 2600X, Ryzen 3 2300Xなど 4~32 12nm 約48億 Radeon Vega
3 Zen 2 Ryzen 9 3950X, Ryzen 7 3800X, Ryzen 5 3600X, Ryzen 3 3300Xなど 4~64 7nm 約60億 Radeon Vega
4 Ryzen 9 4900H, Ryzen 7 4800H, Ryzen 5 4600H, Ryzen 3 4300Uなど 4~16
5 Zen 3 Ryzen 9 5950X, Ryzen 7 5800X, Ryzen 5 5600X, Ryuzen 3 5400Uなど 4~64 7nm 約107億 Radeon Vega
6 Zen 3+ Ryzen 9 6980X, Ryzen 7 6800H, Ryzen 5 6600Sなど 6~8 6nm --- Radeon RDNA2
7 Zen 4
Zen 4c
Ryzen 9 7950X, Ryzen 7 7700X, Ryzen 5 7600X
Ryzen 7 8700G, Ryzen 5 8600Gなど
6~16 5~4nm --- Radeon RDNA2×2
Radeon RDNA3
8 Zen 5 Ryzen 9 9950X, Ryzen 7 9700X, Ryzen 5 9600X 6~16 5~3nm --- Radeon RDNA3.5

Zen アーキテクチャ

Ryzen 7 1800Xのダイ
Ryzen 7 1800Xのダイ
Zen マイクロアーキテクチャは、ライバルの Intel Core i プロセッサに対抗するため、Core i向けに最適化されているソフトウェアでもパフォーマンスを発揮できるように、シングルスレッド性能を大幅に向上させると同時に、マルチスレッディング機能(SMT)を採用した。そのため、これまでの Bulldozer マイクロアーキテクチャを捨て、完全新設計となっている。

Zen では、x64命令(CICS命令)を内部RISC命令の Micro-Op (マイクロオプ) に変換する。クロックあたり最大6個のMicro-Opを内部演算ユニットに対して発行可能であり、これは Bulldozer の1.5倍になる。
分岐予測ユニット Branch Predictionは、分岐予測が外れた場合のペナルティが3クロックと、Bulldozer の6分の1以下になった。さらに、Neural Networkが分岐先を予測する。
内部レジスタは168個になり、Bulldozer の1.75倍となった。整数と浮動小数点それぞれのパイプラインにおいて,整数命令なら84個,浮動小数点命令なら96個まで溜め込んだうえでのスケジューリングを行える。
Zenのブロック図
Zenのブロック図
Zen では4コア8スレッドを1つの構成単位として、CCX(Core Complex)という名が与えられている。Ryzen 7 は8コアであり、2基のCCXが1パッケージになっている。CCX同士は、Infinity Fabric という内部バスで接続される。
Ryzen 7 では,CPUコアあたりのL1データキャッシュが容量32KB、L2キャッシュが容量512KB、そしてCCX全体で共有する総容量16MBのL3キャッシュが搭載される。
プロセスルールが14nmと微細化されたこと、内部にある1300個以上のセンサーからの情報を元にプロセッサを制御することによって、同じ電力消費と熱出力でより多くの演算が可能になった。

Zen+ アーキテクチャ

Ryzen Threadripper 2990WX
Ryzen Threadripper 2990WX
2018年(平成30年)4月に発表された Ryzen 2000 シリーズに搭載されている Zen+ マイクロアーキテクチャは、プロセスルールを12nmに変更することで動作クロックが向上し、自動オーバークロック機能 Precision Boost 2 に対応した。Ryzen Threadripper 2990WX では、Ryzen 7のダイ4基を1つにパッケージングすることで、32コア・64スレッドという構成にしている。

Zen 2 アーキテクチャ

Zen 2 CCD
Zen 2 CCD
2019年(令和元年)7月に発表された Ryzen 3000シリーズに搭載されている Zen 2 マイクロアーキテクチャは、CPU(CCD;CPU Complex Die)とI/O(cIOD;Client I/O Die)に分離することで、スケーラビリティと製造コストが向上した。
CCDのプロセスルールは7nmで、最大8コア16スレッド。動小数点SIMD演算ユニットを256ビットに拡張し、分岐予測機構にTAGE分岐予測を加えてテーブルが大型化した。
cIODは12nmで、DDR4-3200をサポートしたメモリコントローラ、PCI Express 4.0コントローラなどを集積する。
Ryzen 9 3950X
Ryzen 9 3950X
Ryzen 9 シリーズが新設され、メインストリーム向けで初めてとなる12コア24スレッドの Ryzen 9 3950X がリリースされた。

Zen 2は、インテルの第10世代Core iプロセッサ(Comet Lake)より低い消費電力でより高いパフォーマンスを実現できる。2020年(令和2年)1月にグラフィック性能が向上した Ryzen 4000シリーズが登場する。

Zen 3 アーキテクチャ

Zen 3 CCX
Zen 3 CCX
2020年(令和2年)10月に発表された Ryzen 5000シリーズに搭載されている Zen 3 マイクロアーキテクチャは、4コアで構成されていたCCX(Core Complex)が8コア構成に変更され、CCD内のCPUコアすべてでL3キャッシュを共有する仕様となった。これにより、同じクロックで19%のIPCの向上を実現している。

Zen 3+ アーキテクチャ

Ryzen 7 6800HSのダイ
Ryzen 7 6800HSのダイ
2022年(令和4年)1月に発表された Ryzen 6000シリーズに搭載されている Zen 3+ マイクロアーキテクチャは、プロセスルールを6nmに変更し、対応メモリーはLPDDR5/DDR5となっている。
GPUはVegaからRDNA2へと刷新され、メディアエンジンや出力パイプラインが強化され、AV1のハードウェアデコード、HDMI 2.1やDisplayPort 2.0への対応が行われている。

Zen 4 アーキテクチャ

Ryzen 7000シリーズ
Ryzen 7000シリーズ
2022年(令和4年)8月に発表された Ryzen 7000シリーズに搭載されている Zen 4 マイクロアーキテクチャは、プロセスルールを5nmに微細化し、Zen 3に比べてIPCを平均13%向上させ、最大5.7GHz駆動をサポートすることで、シングルスレッド性能を最大29%向上した。Intelが開発した機械学習用命令 AVX-512もサポートする。
競合するIntelの第12世代Coreプロセッサと比べると、CPUコアとL3キャッシュの合計面積は約半分で、電力効率は最大で47%向上するという。
CPUソケットがLGAタイプの「Socket AM5」に一新された。
チップセットは、ハイエンド向けに AMD X670EAMD X670 の2種類、メインストリーム向けに AMD B650EAMD B650 の2種類が用意された。EがつくチップセットはPCI Express 5.0接続のSSDに対応できる。
2024年(令和6年)1月に、デスクトップ向けの Ryzen 8000シリーズの販売が始まった。Ryzen 7000シリーズとの違いは、
  • 製造プロセスが5nmから4nmに微細化
  • 上位2製品にNPU(AIアクセラレーター)を搭載
  • 下位2製品にZen4cコア採用
  • 内蔵GPUをRDNA2×2コアからRDNA3にグレードアップ
  • L3キャッシュが半分に
といったところである。ソケットは Socket AM5のまま。

Zen 5 アーキテクチャ

Ryzen 9000シリーズ (イメージ)
Ryzen 9000シリーズ (イメージ)
2024年(令和6年)6月に発表された Ryzen 9000シリーズに搭載されている Zen 5 マイクロアーキテクチャは、分岐予測の高性能化や実行パイプラインの拡張、並列実行時のウインドウサイズ拡大といった大幅な改良が行われているという。前世代の Zen 4 と比べ、命令デコーダーや命令・データキャッシュの帯域幅、そして AVX-512命令セットのスループットが、いずれも2倍に向上しているという。
あらたに搭載したデュアルパイプフェッチは、高度な分岐予測(Advanced Branch Prediction)機能と組み合わせることで、レイテンシーを低減し、精度を犠牲にすることなくデータの流れと処理速度を向上させることを実現した。
整数演算パフォーマンスも改善されており、8ワイドのディスパッチ/リタイアシステムを備えた。ALUスケジューラによって制御される6つのALUと3つの乗算器や、より大きな実行ウィンドウも含まれている。
Zen 4 よりもデータ帯域幅が広く、4サイクルのロードにも対応できる48KBの12ウェイL1データキャッシュが搭載されている。Zen 4 と比べると、L1キャッシュで利用できる最大帯域幅が2​​倍となり、浮動小数点ユニッ2倍になっている。
Zen 4でも AVX-512命令セットをサポートしていたが、これは互いに連携して動作する2つの256ビットデータパスを使用している。Zen 5 では、完全な512ビットAIデータパスと、6つのパイプラインを備えた2サイクルレイテンシーFADDが導入された。
これらの改良により、Zen 5Zen 4 と比較してIPCが平均16%向上したという。
また、8コアの Ryzen 7 9700X と6コアの Ryzen 5 9600Xは,TDPが65Wになっている。Ryzen 7000シリーズの8コア・6コアモデルは105Wだったので、消費電力が低く抑えられている。
16コアのフラッグシップ Ryzen 9 9950Xは、ゲーム性能において現行世代で最強を誇る Core i9-14900K を上回るとしている。

参考サイト

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラPowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleM164bit3.49GHz
2023年インテルCore Ultra 9 / 7 / 564bit5.1GHz
(この項おわり)
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