Core™ Ultraシリーズはタイル・アーキテクチャ採用

2023年12月リリース
スケーラブルアーキテクチャ - Core™ Ultra
スケーラブルアーキテクチャ - Core™ Ultra
インテルは2023年(令和5年)12月、Core iの後継CPUブランドとして、初めて Intel 4プロセスを採用し、各機能をタイルに分割して1つのパッケージに集約するタイル・アーキテクチャーを採用する Core™ Ultra シリーズをリリースした。
2024年(令和6年)5月現在、シリーズ1にあたる Meteor Lakeが販売中だ。

Core™ Ultraシリーズ

  アーキテクチャ CPU型番 Pコア数 Pコア
最大周波数
(GHz)
Eコア数 LP-E
コア数
グラフィック プロセス
ルール
1 Meteor Lake 105UL~185H 2~6 4.2~5.1 4~8 2 Arc Graphics
Intel Graphics
Intel 4
2 Lunar Lake
モバイル向け
200V 4 3.5~5.1 - 4 Arc 130V~140V TSMC N3B
2 Arrow Lake-S
AI PC向け
200S 6~8 3.7~5.7 16 - Xe LPG Graphics TSMC N3B

シリーズ1:Meteor Lake

Meteor Lakeのダイ
Meteor Lakemのダイ
Core™ Ultra シリーズは、コンピューティング(CPU)、グラフィックス(GPU)、SoC(従来のチップセットの役割などを担当)、I/O(Thunderbolt 4などのインタフェースを搭載)のタイルに分割し、Foveros (フォベロス)  と呼ぶ3D技術を使って1つのパッケージに集約している。タイル間のデータ転送速度は非常に高速で、電力効率も高い。コンピューティング・タイルはインテル初となるプロセスルール Intel 4 を採用した。
Meteor Lakeのブロック図(予想)
Meteor Lakeのブロック図(予想)
また、グラフィックス・タイルは台湾TSMCの TSMC N5、SoCタイルとI/Oタイルは同じくTSMCの TSMC N6 という異なるプロセス技術を組み合わせており、高性能な製品を低コストで実現できた。また、タイル単位での機能のアップグレードも期待できる。

コンピューティングを担当する PコアEコア は、Intel 4 の採用により電力効率が向上した。

SoCタイルはチップセットの役割を担い、AI推論エンジン NPULP-Eコア(低電力Eコア)を搭載する。Eコアでも性能を持て余すシーンが多いことから、まず消費電力の小さい LP-Eコア に処理を担当させ、能力不足であれば、EコアPコアの順に処理を移していくことで、消費電力を低減する。
また、これまでGPUに搭載されていた動画エンコードやデコードを担うメディアエンジンと、映像出力関連を制御するディスプレイエンジンSoCタイルに搭載し、ネット配信動画くらいであれば、コンピューティング・タイルとグラフィックス・タイルを動かさなくても再生できる。
さらに、SATA、USB、LAN、オーディオ機能なども SoCタイルに搭載する。

グラフィックス・タイルには、ゲーマー向けグラフィックスボードに採用されている「Xe-HPG」アーキテクチャーをベースに、レイトレーシング機能を搭載するなど機能も充実させた「Xe-LPG」アーキテクチャー(LPGはLow Power Graphicsの略)を採用した Arc Graphics が搭載されている。

I/Oタイルには、PCIe Gen5やThunderbolt 4などの高速インタフェース類を搭載する。

SoCタイルに搭載する NPU(Neural network Processing Unit)は、CPUよりも低消費電力で高速のAI推論を実行できるプロセッサだ。
Core™ UltraNPU には、MACアレイ(行列演算器)とDSP(Digital Signal Processor)のSHAVE(Streaming Hybrid Architecture Vector Engine)などで構成された2つのNeural Compute Engineが内蔵されており、インテルのAI開発キット「OpenVINO」のAPIを介して利用できる。
なお、2024年(令和6年)1月にリリースされたUシリーズ(3桁の型番の末尾にUがつくもの)は、Core™ Ultra ブランドを冠しているものの、廉価モバイルデバイス向けに販売するもので、第13世代Core iプロセッサー Raptor Lakeを搭載するもので、NPUやLP-Eコアは搭載せず、グラフィックもIntel Grraphicsである。

シリーズ2:Lunar Lake (モバイル向け)

Lunar Lake
Lunar Lake
2024年(令和6年)9月3日、インテルはモバイル向けの新型SoC「Intel Core Ultra Mobile プロセッサ(シリーズ2)」(開発コード名:Lunar Lake)を発表した。型番は Core Ultra 200V シリーズ。

Core Ultra 200V シリーズは、いずれも4基のPコア(開発コード名:Lion Cove)と4基のEコア(開発コード名:Skymont)の8コア8スレッドで動作する。
後者はCore Ultraプロセッサ シリーズ1(開発コード名:Meteor Lake)のLP Eコア(低消費電力Eコア)をベースに改良を施してパフォーマンスの向上が図られている。

ハイパースレッディング(マルチスレッド)機構は廃止された。これは、Pコアをマルチスレッド対応させるよりも、非対応にすることで余裕ができたリソースを活用してLPEコアを増やした方が消費電力あたりの波トーマンス(ワッパ)が向上するという考えに基づく。
実際、パッケージの消費電力を17Wにそろえて比較すると、Lunar Lake は、Meteor Lake (シリーズ1)の16コア22スレッドモデル(Pコア6基12スレッド+Eコア8基8スレッド+LP Eコア2基2スレッド)よりも性能がよくなるという。

32GBまたは16GBのLPDDR5Xのメモリを一体化することで、パッケージサイズの小型化と省電力化/性能強化、長時間のバッテリー駆動を実現した。LPDDR5X-8533規格のメモリが128bitで接続されており、理論上の最大アクセス速度は毎秒約136GBとなる。

内蔵GPUは、レイトレーシングユニットを8基に増やし、行列演算を行うXMXエンジンを搭載し、アーキテクチャが Xe2(開発コード名:Battlemage)に刷新された。
Intel Arcシリーズ(Xe/Xe2アーキテクチャ)のGPUは、Xeコアと呼ばれるGPUコアが、複数基のベクトル演算エンジン「XVE(Xe Vector Engine)」を内包する構成となっている。上位モデルに搭載されるArc 140VではXeコア(SIMD16)は8基なので、XVEは計128基搭載されていることになる。
計算上では約4.2TFLOPSの性能を有し、Xbox Series S の約4TFLOPSを超え、プレイステーション4 Pro の約4.3TFLOPSに迫る値となる。
メディアエンジン(ビデオプロセッサ)回りも進化している。H.264(MP4)やH.265(HEVC)は当然のこと、採用事例が増えているAV1のエンコード/デコードに加え、次世代コーデックである「H.266(VCC)」のデコードもサポートしている。

Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)で省かれた推論アクセラレータ XMX(Xe Matrix Engine)が復活した。INT8演算時における理論性能値は、XVEによるDP4a演算と、XMXによる演算の合算で67TOPS(1秒当たり67兆回)とされている。

Xe2アーキテクチャのGPUコアでは、ピーク時で67TOPSのAI処理性能を確保。CPUコアでもVNNI系やAVX系命令セットを活用することで、ピーク時で5TOPSのAI処理性能を得られる。さらに、Core Ultra 200V プロセッサでは、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)よりも世代の新しい推論アクセラレータ NPU4 が搭載されており、5基搭載モデルでは40TOPS、6基搭載モデルでは47~48TOPSのピーク処理性能を備えている。
NPUのピーク性能は、4月にMicrosoftが発表した「新しいAI PC(Copilot+ PC)」の性能要件である「40TOPS以上」を満たしている。

シリーズ2:Arrow Lake-S (AI PC向け)

Arrow Lake-S
Arrow Lake-S
2024年(令和6年)10月10日、インテルはデスクトップAI PC向けの新型プロセッサ「Intel Core Ultra 200S」(開発コード名:Arrow Lake-S)を発表した。

次世代Performance-cores(Pコア)を最大8個、次世代Efficient-cores(Eコア)を最大16個搭載しており、マルチスレッドのワークロードで前世代製品より最大14%のパフォーマンス向上を実現したとという。
また、Intel製のデスクトップPC向けのCPUとしては初めて,AIアクセラレータである NPU(Neural Processing Unit)を搭載した。

これまでのモデルと比較して大幅に消費電力が抑えられており、日常的なアプリケーションの利用時の消費電力を最大58%削減し、ゲーム時のシステム消費電力も最大165W削減したという。

主要な競合プロセッサと比較し、AI対応のクリエイター向けアプリケーションで最大50%の性能向上を実現したという。
NPU の性能は13TOPSだが、Microsoftが提唱するAI処理対応PC「Copilot+ PC」の条件である40 TOPSには遠く及ばない。GPUは8TOPSで、CPUが15TOPSの最上位「Core Ultra 9 285K」の場合、プロセッサ全体で36TOPSとなる。

対応ソケットおよびチップセットが変更になった。ソケットは新型の LGA1851 で、チップセットは Intel 800シリーズだ。従来のソケットとは互換性がない。
Intel 800シリーズは、最大20レーンのPCI Express 5.0バス、最大10基のUSB 3.2ポートを搭載できるほか、標準でThunderbolt 4、Wi-Fi 6E 、Bluetooth 5.3に対応。オプションでThunderbolt 5やWi-Fi 7、Bluetooth 5.4などへのアップデートに対応する。

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラPowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleM164bit3.49GHz
2023年インテルCore Ultra 9 / 7 / 564bit5.1GHz

参考サイト

(この項おわり)
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