『パーツのぱ』――秋葉原の小さなパーツショップの日常

藤堂あきと=著

シリーズ概要

T・ZONE吉祥寺店 2001年8月23日撮影
T・ZONE吉祥寺店 2001年8月23日撮影
秋葉原にある小さなパーツショップ「こんぱそ」の日常を描く、『週刊アスキー』 2007年11月20日号から2014年6月24日号まで連載されたコミック。
秋葉原は日々変化している。いわゆる電気街と秋葉原駅を挟んで反対側には、2005年9月にヨドバシカメラ マルチメディアAkibaがオープン、2006年3月には駅の向かい側に秋葉原UDXが開業し、急速に一帯の再開発が進んだ。
ツクモ吉祥寺店 2001年8月23日撮影
ツクモ吉祥寺店 2001年8月23日撮影
この波を受けて、PCパーツショップは一気に衰退へ向かう。この連載が始まった1年後には、老舗パーツショップの「T・ZONE.PC DIY SHOP」を運営するT・ZONEストラテジィが解散した。T・ZONEは、マイコンブームを担い、Apple Macintosh や IBM PS/2シリーズを輸入していた亜土電子工業を母体とする企業だった。

パーツのぱ 第1巻

表紙 パーツのぱ 第1巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2009年05月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048678735
本楽「店長! やりましたぁ! さっき 8GHz越えましたよぅ!
中学生のような容姿ながらパーツに関する深い知識と経験を持つ女性アルバイトの本楽 (もとら) 、彼女の下でこき使われる男性アルバイトの入輝 (いりてる) 。人は良いのに仕事はサッパリの店長の3人が繰り広げるドタバタコメディ――。
後半では、大手ショップ・プラントPCから転職してきた謎の男性・手木崎 (てきざき) 、背が高くやる気満々ながらパーツの知識は皆無の女性アルバイトの天戸 (あまと) が加わり、こんぱそのドタバタぶりがヒートアップ。
新製品のCPUやグラフィックボードなどのパーツをめぐるトラブルや、競合店との安売り競争など、半ばリアルな話をオモシロおかしく紹介。登場人物の名前は、もちろん、半導体メーカーに由来する。

パーツのぱ 第2巻

表紙 パーツのぱ 第2巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2010年02月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048684347
吉田「新OSセブンへの期待や不安をぶっちゃけてもらおうっていう覆面座談会を企画してまして
販促用のポップや新製品販売イベントといった話にはじまり、秋葉原やPC関連のニュースサイト「アキバ24」の吉田記者の取材にかき回される「こんぱそ」の面々。一方、怪しげな社長から人員削減の命令が。どうする店長!?
さらに、(Windows7をイメージさせる)新OS「セブン」の深夜販売はどうなるのか? パスタ事件とは一体何なのか!?――3巻へ続く。

本紙連載は毎週2ページから4ページに倍増。電撃コミックにしては萌え要素は皆無だが、そこが人気の秘密かも。

パーツのぱ 第3巻

表紙 パーツのぱ 第3巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2010年11月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048689793
菜瀬美「お店のようすを正直にまとめたら、マンガみたいだって怒られちゃって
冒頭で、第2巻巻末から引っ張っていた「パスタ事件」の顛末が明かされる。そして、菜瀬美 (なせみ) の正体も判明。
そんな「こんぱそ」は、最新OSの深夜販売へ向けて大盛り上がり。一方で、萌えな看板を掲げたライバル店「COMPASO」が登場。その店を一撃で葬り去った「こんぱそ」社長とは、一体何者? なぜ、「こんぱそ」に流し台やカウンターを送りつけたのか‥‥次巻に続く。

ところで、5インチフロッピーって‥‥本楽 (もとら) さんは30代目前かっ!? お兄さんって誰??
算盤を巧みに操り、学校でAGPのグラボを勝手に増設する菜瀬美は、本当に小学生なのか!?

パーツのぱ 第4巻

表紙 パーツのぱ 第4巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2011年06月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048705615
本楽「ナニよ、わかんないハード、気になるじゃん!
本誌連載が4ページになったことで、刊行期間が短くなった。例によって、カバーをめくるとニヤリとさせる仕掛けが‥‥。

第3巻巻末で「こんぱそ」に持ち込まれていた流し台やカウンターの用途が明らかになる。というわけで、新キャラ、武度 (ぶど) 詩緒州 (しおす) の名前の由来は何でしょう?
新製品発売のドタバタは毎度のこと。お正月の福袋でも一騒動。そして、本巻では女性キャラの浴衣姿も拝めますよ。

パーツのぱ 第5巻

表紙 パーツのぱ 第5巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2011年11月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048860413
ヤリ手のツインテール店員に見積もり依頼殺到!?
第4巻最後に起きた窃盗団事件を軽く解決した本楽さん。突然、入輝に告られる!?
パーツライブスの西福田菜瀬美 (なせみ) 手木崎 (てぎさき) をめぐる恋のライバルか? プラントPCで買ったパソコンが動かなかったワケは?
不況にめげずに頑張るパーツ屋さんのドタバタコメディ。

パーツのぱ 第6巻

表紙 パーツのぱ 第6巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2012年06月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048866590
本楽「マキビシね。おもしろいけど‥‥今のCPUはピン無いのよね
第5巻最後で、ツインテールにした天戸の背後に現れた男の正体は‥‥?
武度 (ぶど) がプレイしているゲーム「フルーツの国のイチゴ姫」から始まるレトロゲーム談義‥‥「バグテランド」‥‥皆さん、お幾つですか🤪 リスキーオンラインの「マジカルプリンセスオンライン」の特典アイテムをどうするか?
スマホにはまる菜瀬美 (なせみ) を見た店長、心配はピークに。
本楽がデザインしたキャラクターが電源メーカーのマスコットキャラ「トライ子ちゃん」に!? 店長がイベントのたびに出してくるコスプレ衣装は、どこにあるのか?

パーツのぱ 第7巻

表紙 パーツのぱ 第7巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2012年11月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048911184
本楽兄「これも炎上マーケティングって言うのかな?
リスキーオンライン「マジカルプリンセスオンライン」の特典アイテムのマントをデザインしたのは本楽 (もとら) の兄? リスキーから50万円の領収証を受け取った社長は、店長に詰め寄る。

パーツのぱ 第8巻

表紙 パーツのぱ 第8巻
著者 藤堂あきと
出版社 アスキー・メディアワークス
サイズ コミック
発売日 2013年06月27日頃
価格 858円(税込)
ISBN 9784048916950
本楽「お客さんを大事にしないで、安売りだけの商売なんか、いつまでも続かないよ!
天戸 (あまと) がプラントPCに引き抜かれる? 本楽 (もとら) は、いまはプラントPCの総店長になっている松永との出会いを思い出す。松永と、同じプラントの店員だった最炉奈 (さろな) 、店長の関係とは‥‥?

パーツのぱ 第9巻

表紙 パーツのぱ 第9巻
著者 藤堂あきと
出版社 KADOKAWA
サイズ コミック
発売日 2013年11月
価格 858円(税込)
ISBN 9784048660365
店長「プラントもやるんなら、うん! やっぱりいい企画だったんだ!! 秋葉原の恒例行事になるといいよね!」
第8巻につづき、最炉奈 (さろな) と店長の話――店長の福袋企画はどうなる?
「こんぱん」の姉弟の運命は!?
新OS「エイト」の販売が近づくが、「こんぱそ」最大の危機に手木崎 (てぎさき) の爆弾発言! 不況にめげずに頑張るパーツ屋さんのドタバタコメディ。

パーツのぱ 第10巻

表紙 パーツのぱ 第10巻
著者 藤堂あきと
出版社 KADOKAWA
サイズ コミック
発売日 2014年07月26日頃
価格 880円(税込)
ISBN 9784048666251
本楽(兄)「懐かしいなぁ この活気!! やっぱアキバは こうじゃないと」
第9巻の最後で「こんぱそ」を辞めると言い出した手木崎 (てぎさき) の行き先とは? 店長がよく通っているメイド喫茶の経営者は? 店長の意外な才能と、社長の真っ当なビジネスセンス。秋葉原に帰ってきた本楽(兄)は、日本最大の量販店トヨシマが秋葉原にやって来ることを告げる。
連載7年間に登場したオールキャストが秋葉原を元気にしようと大団円を迎える。

登場人物の名前の由来

登場人物の名前は、半導体関連の企業やキーワードを元ネタにしたものが多い。
名前 よみ 元ネタ
本楽 もとら モトローラ(Motorola)
入輝 いりてる インテル(Intel)
手木崎 てぎさき テキサスインスツルメンツ(TI)
天戸 あまと AMD
菜瀬美 なせみ ナショナルセミコンダクター(NSC)
武度 ぶど Voodoo(グラフィックカード)
詩緒州 しおす CMOS(シーモス; 半導体素子の構造の一種)

レビュー、というか、PC業界と秋葉原の思い出

Core i3/i5/i7
パーツのぱ』連載中の秋葉原、パソコン界隈の歴史を振り返ってみたい。
連載から1年後の2008年11月、インテルは Core i シリーズの販売をはじめ、クアッドコアの時代が到来。この様子は物語の中に盛り込まれている。
PC-9801BX3
PC-9801BX3
天戸がPC-9800シリーズを使っているという設定だが、1982年に発売された国民機は、1998年にPC-9821が市場から撤退したものの、業務用の受注生産が続いており、2003年9月30日に正式に受注終了した。が、サポートを継続し、本連載が始まり、98シリーズの最後の対応OSであるWindows 2000の延長サポートが終了した2010年7月から少し間を空けた10月末に全てのサポートを終了したのだった。
Windows 7 Professional 64bit DSP版
Windows 7 Professional 64bit DSP版
Windows 7の一般販売開始は2009年10月22日――PCパーツとセット販売できるDSP版は、現実の秋葉原で深夜販売のお祭り状態となり盛り上がりを見せた。かく言う私も、iMacのBootcamp上に載せる Windows 7をDSP版で購入した。
東芝製 128GB SSD (2008年12月)
東芝製 128GB SSD (2008年12月)
本シリーズで何度も登場するSSD(Solid State Drive)だが、NANDフラッシュメモリを開発した東芝は、2008年に独自技術による128GB SSDを搭載したノートPC「dynabook SS RX」を発売し、SSD単体での発売もはじめた。しかし、海外メーカーの前に、まったく歯が立たなかった。
個人的には、2018年から Let's note CF-SZ6でSSDを使い始めたのだが、256GBは少々心許なかった。VersaPro UltraLite タイプVNの512GBで一安心といったところ。
3D映画のイラスト
2009年12月公開の映画『アバター』は3Dフルハイビジョンで制作されたことから、3Dがブームになる。2010年頃から、各社から偏光式3D液晶ディスプレイを搭載したPCが販売されるようになる。
3Dは、1970年代に『仮面ライダー』『イナズマン』といった特撮ヒーローの映画で使われ、劇場では赤青メガネが配られた。1980年代には液晶シャッター・メガネが販売された。そして、2011年2月に裸眼3D対応の携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」が登場する。
デゼニランド
第6巻に登場するレトロゲームの元ネタは、ハドソンの「デゼニランド」(1983年9月発売)、「サラダの国のトマト姫」(1984年3月発売)――本シリーズの25年前のことだから、まだ、「こんぱそ」の面々は生まれていなかったのでは?
というツッコミはさておき、「デゼニランド」は、黎明期のアドベンチャーゲームの名作(迷作)であることは確か。そのパッケージからして、1983年4月に開業したディズニーランドのパロディである。フロッピーディスクですら標準装備していない8ビット・パソコン向けに、カセットテープで供給され、画像は機械語で描画命令を組んで、いちいち画面に〈描いて〉いたという、技術屋集団ハドソンの面目躍如といったゲームである。
シャープ X68000
シャープ X68000
その後、ハドソンはゲームソフト「桃太郎伝説」でブレイクし、高橋名人をメディア露出させ、任天堂とタッグを組んでファミコン向けゲームを次々にリリースした。その一方で、ファミコン向けBASIC言語「ファミリーベーシック」を共同開発したり、シャープのパソコン向けのBASICインタプリタや、名機X68000のOSを開発したりと、技術力の高さを見せつけてくれた。
しかし、1997年11月に北海道拓殖銀行が破綻した余波で資金繰りが悪化し、2005年にコナミの完全子会社となり、本シリーズ連載中の2012年にハドソン・ブランドは消滅してしまう。
在りし日の西川電子部品
在りし日の西川電子部品
9巻で、グラフィックボードを固定するネジの欠品が話題になるが、ネジは自作の要――買えないネジはないと言われた秋葉原の西川電子部品(外神田1-9-9内田ビル1・2階)は、私が産まれる前からネジを売っていた老舗なのだが、2023年12月に廃業することを発表した。そこで、こちらも50年以上の歴史を誇る電子部品の老舗、千石電商が事業を引き継ぐことを決断。これぞ秋葉原魂❗
インチネジとミリネジ
インチネジとミリネジ
ネジは、その太さとピッチによって、インチネジミリネジに大別できる。
私はもともと趣味で電子工作をやっており、筐体も自作していた。国産の部品ばかりだったから、ミリネジしか見たことがなかった。それが、初めて3.5インチHDDを増設した時に驚いた。マウンタに取り付けるのが、何とも無骨なインチネジだったからである。超精密部品のはずなのに‥‥。
万世橋交差点
万世橋交差点
秋葉原には数え切れないほどの小さなショップが軒を連ねる。チェーン店もあるが、そのほとんどが零細ショップだ。
自作電子機器のパーツを集めるのに、IC、トランジスタ、ダイオード、抵抗、LED‥‥ネジ‥‥部品によって買う店が違ったから、一覧をメモに書いて、国鉄に乗って片道1時間。ほぼ半日掛けて、秋葉原を回遊しながらパーツを買い集めた。ショップの定員さんとの話も勉強になった。欠品があっても、代替品と、私が作った回路図の修正箇所を提案してくれる。
基板は自分でエッチング。筐体は出来合いの樹脂ケースか、ノイズが気になるときには板金屋に発注した。CADなどあろうはずもなく、図面は全て手書き。
そして、半日歩くと腹が減る。だが、当時は食べ物屋が少なかった。自販機でコーラを買って腹を膨らませる。

本シリーズが連載されていた『週間アスキー』は、1997年11月に週刊誌化した『EYE-COM (アイコン) 』の名前が変わったもので、2004年には実売部数16万部を超えた。しかし、2015年5月に紙媒体を休止。ネット上での情報発信に変わった。
インプレスが発行していた自作パソコン専門雑誌『DOS/V POWER REPORT』は、DOS/V登場に合わせるように1991年に創刊。1995年から月刊誌化したが、2023年12月に休刊。

日々変わっていく秋葉原は、次へどこへ行くのだそうか‥‥。

参考サイト

(この項おわり)
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