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宇宙を支配する「定数」 | ||
著者 | 臼田 孝 | ||
出版社 | 講談社 | ||
サイズ | 新書 |
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発売日 | 2022年02月17日頃 | ||
価格 | 1,100円(税込) | ||
ISBN | 9784065273296 |
一定不変と思われた地球の自転が、じつはゆらいでいたように、測定技術の進歩によって物理定数の変動が認められる可能性も否定できないのです。(227ページ)
概要

著者は、振動計測、光波干渉計などの研究に従事し、国際度量衡幹事の臼田孝さん。
科学は「この宇宙が何でできているのか」「どんなしくみに従っているのか」を追求する学問――つまり、「物質」と「法則」の探求をする学問と言える。そして、万有引力の法則から相対性理論、量子力学まで、宇宙の成り立ちを説明する物理法則は「数式」として表現できるが、その数式の中には必ず「固有の値」=物理定数が登場する。
科学は「この宇宙が何でできているのか」「どんなしくみに従っているのか」を追求する学問――つまり、「物質」と「法則」の探求をする学問と言える。そして、万有引力の法則から相対性理論、量子力学まで、宇宙の成り立ちを説明する物理法則は「数式」として表現できるが、その数式の中には必ず「固有の値」=物理定数が登場する。
もし物理定数が「定数」でなかったなら、「変化する」ものであったなら、因果関係が崩れ、ある原因によって生じる物理現象の結果が異なることになってしまう。
そんな重要な役割を担っている物理定数の数々を、本書では順を追って見ていく。
そんな重要な役割を担っている物理定数の数々を、本書では順を追って見ていく。
レビュー

ショート時計

オーレ・レーマー
1676年、デンマークの数学者オーレ・レーマーが、木星による衛星イオの食の周期の変動光の速度を計算する。
1960年、メートルの定義が「決められた条件下のクリプトン86の波長の165万763.73倍」と定められた。金属のメートル原器では100万分の2の精度が限界だったが、これが1億分の1まで正確に測れるようになった。
1960年、メートルの定義が「決められた条件下のクリプトン86の波長の165万763.73倍」と定められた。金属のメートル原器では100万分の2の精度が限界だったが、これが1億分の1まで正確に測れるようになった。

アイザック・ニュートン
1973年、光速がついに確定値=「不確かさのない値」となる。数値によって定義されたのは、物理定数として初めてのことだった。1983年には、光速がメートルの定義の基準となった。

古代ギリシアの時代に認識されていながら、17世紀半ばになってようやくアイザック・ニュートンが万有引力を理論化した。だが、万有引力定数の決定にはなお時間がかかった。それは、引力が極端に小さい(同じ距離だと静電気力に比べ36桁も小さい)ためだった。

古代ギリシアの時代に認識されていながら、17世紀半ばになってようやくアイザック・ニュートンが万有引力を理論化した。だが、万有引力定数の決定にはなお時間がかかった。それは、引力が極端に小さい(同じ距離だと静電気力に比べ36桁も小さい)ためだった。

ヘンリー・キャベンディッシュ
ニュートンから100年以上たった1798年、イギリスのヘンリー・キャヴェンディッシュが初めて万有引力定数の測定に成功した。不確かさは100分の8だった。2018年では10万分の2まで縮まっているが、200年以上かけても、4桁目(1万分の1レベル)までしか信頼できないという意味であり、原子時計の正確さや、光速が9桁に及んでいるのに比べて大きく劣る。

シャルル・ド・クーロン
電気や磁気によって生じる引力・斥力を初めて定量的に評価したのは、フランスの物理学者、シヤルル・ド・クーロンで、1785年のことだった。20世紀には、電流天びんによる精密測定により、電流の再現性は100万分の1(6桁)の精度で一致させることができるようになった。

シャルル・ド・クーロン

アルベルト・アインシュタイン
国家計計量標準機関(National Metrology Institute;NMI)が国際キログラム原器とプランク定数との比較を30年以上にわたって継続し、2017年に、1億分の5程度の再現性を達成した。
これにより、電気素量の定義値も決まり、国際キログラム原器は基準としての地位を失い、逆に測定対象となった。そして、2018年に、プランク定数をもとにキログラムが定義し直された。
これにより、電気素量の定義値も決まり、国際キログラム原器は基準としての地位を失い、逆に測定対象となった。そして、2018年に、プランク定数をもとにキログラムが定義し直された。

アルベルト・アインシュタイン
1877年、オーストリアの物理学者ルートヴィッヒ・ボルツマンは、温度とは、粒子が熱によって運動エネルギーを得た結果だと提唱し、粒子の運動エネルギーと熱エネルギーの関係式で用いる定数(ボルツマン定数)を提唱する。
その後、ボルツマン定数は、気体だけでなく、あらゆる原子、分子、電子に適用できることがわかった。デジタル式体温計は、温度センサの抵抗や電圧値が温度によって変化することを利用しているが、その変化の割合もボルツマン定数から導くことができる。
その後、ボルツマン定数は、気体だけでなく、あらゆる原子、分子、電子に適用できることがわかった。デジタル式体温計は、温度センサの抵抗や電圧値が温度によって変化することを利用しているが、その変化の割合もボルツマン定数から導くことができる。
ボルツマンは、エントロピー増大の法則にもボルツマン定数を導入した。
ボルツマン定数は、理想気体を前提とする気体定数とアボガドロ定数から求めなければならず、測定には困難を極めた。だが、ここでも国家計計量標準機関が協力し、2018年に、ついにボルツマン定数を100万分の1を切る正確さで決定することができた。
ボルツマン定数は、理想気体を前提とする気体定数とアボガドロ定数から求めなければならず、測定には困難を極めた。だが、ここでも国家計計量標準機関が協力し、2018年に、ついにボルツマン定数を100万分の1を切る正確さで決定することができた。
臼田さんは「科学の基本はまず、自然ありのままの姿を注意深く観測すること」(23ページ)と言い、「科学論文として意味のある報告とするためには、測定値に不確かさの評価がともなっている必要」(39ページ)があるという。
また、「科学は、仮説と検証の繰り返しです。物理法則とそこに現れる物理定数も、検証の対象です。法則自体が問違っていたら、物理定数も意味を失います。逆に、物理定数の評価結果から法則が修正を迫られることもあります。そう考えると、物理定数を正確に測ること自体が、科学理論の検証にもなります」(23ページ)という。

本書の後半で、キログラムがプランク定数で定義し直された経緯が説明されるが、臼田さんが言うとおり、「直感的にも、人間の実感である『なんらかの実体がもつ重さ』とはかけ離れたもの」(185ページ)と感じるかもしれない。だが、キログラム原器のようにヒトの手になるものを排除し、宇宙のどこにあっても通用する普遍の定数で表現するのが〈科学〉である。あらゆる偏りを排除しようと努力する科学は、きわめて〈民主主義的〉であると言えよう。

そして、はたして物理定数は不変なのか――将来の話として興味は尽きない。
本書で触れられていないが、物理定数が今の値だから、生物が進化し人類が誕生したとする「人間原理」という考え方がある。私は、この考え方は受け容れがたいので、ぜひとも異なる物理定数の宇宙が存在しており、そこにも知的生命体が存在することを検証してほしい。
また、「科学は、仮説と検証の繰り返しです。物理法則とそこに現れる物理定数も、検証の対象です。法則自体が問違っていたら、物理定数も意味を失います。逆に、物理定数の評価結果から法則が修正を迫られることもあります。そう考えると、物理定数を正確に測ること自体が、科学理論の検証にもなります」(23ページ)という。

本書の後半で、キログラムがプランク定数で定義し直された経緯が説明されるが、臼田さんが言うとおり、「直感的にも、人間の実感である『なんらかの実体がもつ重さ』とはかけ離れたもの」(185ページ)と感じるかもしれない。だが、キログラム原器のようにヒトの手になるものを排除し、宇宙のどこにあっても通用する普遍の定数で表現するのが〈科学〉である。あらゆる偏りを排除しようと努力する科学は、きわめて〈民主主義的〉であると言えよう。

そして、はたして物理定数は不変なのか――将来の話として興味は尽きない。
本書で触れられていないが、物理定数が今の値だから、生物が進化し人類が誕生したとする「人間原理」という考え方がある。私は、この考え方は受け容れがたいので、ぜひとも異なる物理定数の宇宙が存在しており、そこにも知的生命体が存在することを検証してほしい。
(2022年4月30日 読了)
参考サイト
- 宇宙を支配する「定数」:講談社
- 西暦1676年 - 光速度の計算:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1666年 - 万有引力の法則:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1775年 - クーロンの法則の発見:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1877年 - ボルツマンの関係式:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1900年 - プランクの法則の発見:ぱふぅ家のホームページ
- 『宇宙はなぜ物質でできているのか』――素粒子物理学最後の課題:ぱふぅ家のホームページ
- 『宇宙の終わりに何が起こるのか』:ぱふぅ家のホームページ
- 『宇宙人と出会う前に読む本』――知識の棚卸しと掘り下げ:ぱふぅ家のホームページ
- 『物理学者、SF映画にハマる』――科学に対する情熱:ぱふぅ家のホームページ
- 『時間は存在しない』――もう同じ時は過ごせない:ぱふぅ家のホームページ
- 『時計の科学 人と時間の5000年の歴史』:ぱふぅ家のホームページ
- 『科学という考え方』――科学は楽しい:ぱふぅ家のホームページ
- 『科学報道の真相』――報道の品質を考える:ぱふぅ家のホームページ
- 『科学的とはどういう意味か』――理系/文系の垣根を越えて:ぱふぅ家のホームページ
- 『科学の方法』――科学は自然と人間との協同作業:ぱふぅ家のホームページ
- 『時間はどこで生まれるのか』――エントロピー増大は生命の都合:ぱふぅ家のホームページ
- 『まだ科学で解けない13の謎』:ぱふぅ家のホームページ
- 『99.9%は仮説』――科学は99.9%が仮説:ぱふぅ家のホームページ
(この項おわり)