西暦1528年 - パラケルススが放浪の旅へ

医学界の権威主義に反旗を翻しバーゼルを追放
パラケルスス
1528年2月、バーゼル大学医学部教授で、のちに医化学の祖と呼ばれることになるパラケルスス(本名:テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム)は、医学界の権威主義に反旗を翻し、バーゼルの町を追われ、放浪の旅に出る。

パラケルススは、古代ローマの医学者で『医学論』を著したアウルス・コルネリウス・ケルススを凌ぐ(Para-)という意味で使ったペンネームだと言われている。
アソット剣
アソット剣
パラケルススに肖像画に描かれている剣はアゾット剣(Azoth)と呼ばれ、賢者の石が入っていたとも、使い魔が封じられていたとも言われている。

1493年、パラケルススは、スイスの山村アインジーデルンで生まれた。父は、ドイツ人の放浪の医師ヴィルヘルムである。父から医学や化学を学んだパラケルススは、ドイツの修道院長で隠秘学者ヨハンネス・トリテミウスから魔術を学ぶ。
パラケルスス像(独ベラッツハウゼン)
パラケルスス像(独ベラッツハウゼン)
1510年頃、スイスのバーゼル大学で学び、イタリアのフェラーラ大学医学部で医学博士となり、1515年頃に卒業する。だが、大学の学問より現場に学ぶことの重要性に気づいたパラケルススは、10年間、ヨーロッパ各地を放浪する。イギリスやオランダで軍医として活躍した記録が残っている。
1526年、バーゼルに戻り開業するとともに、バーゼル大学医学部教授に就任した。この頃、オランダの人文学者エラスムスを治療し、交流を深めた。
1527年6月、バーゼル大学で、これまでの医学を改革すると宣言した貼り紙をすると、それまでラテン語で行われてきた講義を、庶民が使っているドイツ語で行うようになった。また、教授が講義を行うときに纏うガウンではなく、薬品でボロボロになった服装で講義に臨み、ガレノスやイブン・スィーナー(アヴィケンナ)など、ルネサンス期に再評価された権威者を公然と批判した。パラケルススを「医学界のルター」と賞賛する者もあったが、彼は「私をあんな下らぬ異端者と一緒にするな」と一蹴したという。
また、医師と薬剤師にあった汚職を弾劾し、街中の医療者を敵に回す結果となった。
1528年2月、パラケルススはバーゼルから追放され、再び放浪の旅に出ることになった。

この間、鉱山病の研究を通じて、最初の職業病の研究者となった。また、水銀が梅毒の進行を遅らせることを発見し、当時梅毒の特効薬とされたユソウボクの輸入で巨万の富を稼いだフッガー家を敵に回すことになった。

パラケルススの考え方が、当時主流であったスコラ哲学ではなく、自然を直接に観察し、マクロコスモスとミクロコスモスの対応を求めるものであった。
パラケルススは、医学書や錬金術書、占星術や魔術に関する多くの著作を書き残した。それらは、現代科学から見たら滑稽な内容のものが多いが、彼の実践主義は、近代医学に至る通過点だったと言えよう。
パラケルススは、伊パドヴァ大学のアンドレアス・ヴェサリウスが『ファブリカ』(人体の構造)を出版する2年前に他界した。

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参考書籍

表紙 パラケルススからニュートンへ―魔術と科学のはざま
著者 チャ-ルズ・ウェブスタ-/金子務
出版社 平凡社
サイズ 単行本
発売日 1999年10月20日頃
価格 2,750円(税込)
rakuten
ISBN 9784582841985
科学史研究の泰斗、ニーダムとパーゲルによって拓かれた科学研究に及ぼす宗教的動機の分析を継承し、16、17世紀ヨーロッパの社会的・宗教的動揺のなかで、パラケルススとパラケルスス学派の果たした役割を積極的に再評価した科学史の名著。自然探究の新しい方策、化学的分析法を大胆に導入し、実験と観察にもとづく研究を提唱したパラケルススこそ、知の革命における真の革新者の名に値することが明らかになる。
 
表紙 奇蹟の医の糧―医学の四つの基礎
著者 フィリップス・アウレオルス・パラケルスス/大槻真一郎
出版社 工作舎
サイズ 単行本
発売日 2004年11月
価格 4,180円(税込)
rakuten
ISBN 9784875023821
文献に医学の真理があると信じて患者を診ようとしない医者、金持に親切な反面、貧乏人には目もくれない医者、既得権益を守るのに汲々としている医者…現代にも通じる「とんでもない医者たち」に鉄槌をくだし本来あるべき医術の四本柱を提唱する。ミクロコスモス(人間)とマクロコスモス(宇宙)が響き合う世界の実現にむけて、代替医療から統合医療への道はつとに拓かれていた。
 
表紙 自然の光
著者 パラケルスス/ヨランデ・ヤコビ
出版社 人文書院
サイズ 単行本
発売日 1984年09月
価格 3,850円(税込)
rakuten
ISBN 9784409030301
 
(この項おわり)
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