宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学 | |||
著者 | 浅田 秀樹 | ||
出版社 | 講談社 | ||
サイズ | 新書 |
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発売日 | 2024年06月20日頃 | ||
価格 | 1,100円(税込) | ||
ISBN | 9784065359044 |
この超長波長のナノヘルツ重力波検出の報告は、天文学だけでなく世界に衝撃を与えました。パルサー・タイミング・アレイの観測データを解析した結果として得られた代表的な成果を、あのヘリングス‐ダウンズ曲線と解析結果のつじつまが合うという点から、彼らは「重力波の証拠を得た」と報告したのです。
概要
著者は、一般相対性理論、重力理論、理論宇宙物理学がご専門で、弘前大学大学院・宇宙物理学研究センターのセンター長・教授である浅田秀樹さん。『三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題』(2021年3月、講談社ブルーバックス)の著者でもある。
本書は、2023年に国際研究チーム「ナノグラブ」が重力波を捉えたという衝撃の発表を皮切りに、重力波の発生メカニズムやそれを観測する方法、さらにはインフレーション理論の痕跡とされる原始背景重力波に話が及ぶ――。
第1章は「重力とはなに」をテーマに、ケプラーの法則、ニュートンの万有引力の法則、アインシュタインの特殊相対性理論・一般相対性理論を振り返る。
第2章は、アインシュタインの方程式から予言された重力波の性質と、その性質を利用した望遠鏡の仕組みを紹介する。2015年に、アメリカの重力波望遠鏡「LINGO」が、ついに重力波を捉えた。データ解析の結果、2つのブラックホールの合体現象から生じたものだった。
第3章は、パルサー(中性子星)の成り立ちと、そこから発せられる電波について解説する。パルサーがきわめて近い距離で連星系を構成している場合、相対論的効果による近日点移動と、重力波を発生することによってエネルギーが失われ、公転周期が徐々に小さくなる。また、重力によって電波パルスの伝搬経路が引き伸ばされ、「シャピロの時間遅れ」と呼ばれる現象が発生する。パルサーは固体であり、角運動量保存の法則により、そこから発生する電磁パルスは非常に正確な周期を刻む。こうした前提から「パルサータイミング法」が導かれる。
第4章では、素粒子理論に触れつつインフレーション理論を紹介する。インフレーション理論は、現時点で証拠がつかめていないが、ビッグバン理論が抱えていたマイクロ波背景放射が高い精度で等方的であること、宇宙の曲率が限りなくゼロに近いこと、モノポールやグラビティーノが検出されないこと、宇宙の大規模構造があることなどを説明できることから、多くの研究者たちに受け入れられているという。インフレーション理論を裏付ける証拠として、原始背景重力波が注目されている。重力波は物質ではないので、変換されることなく、時間とともに引き伸ばされているはずだ。
第5章では、相対性理論から導かれるブラックホールの性質を概説する。2012年に地球上にある複数の電波望遠鏡の観測データを合成することで、地球サイズの口径に匹敵するバーチャルな巨大電波望遠鏡を構成するイベント・ホライズン・テレスコープ(ETH)が発足し、2017年4月に20マイクロ秒角という角度分解能を達成し、約6000万光年彼方にあるM87銀河の中心に太陽質量の約60億倍の巨大ブラックホールを発見した。そして2022年5月には、天の川銀河の中心に太陽質量の約400万倍の巨大ブラックホールがあることを発見した。しかし、現時点では、巨大ブラックホールの生成メカニズムは解明されていない。
第6章では、いよいよナノヘルツ重力波を捉えることができるパルサータイミング法の基本原理を解説する。複数の安定したパルサーの電波パルスは、重力波が通過したときにパルス間隔が揺らぐ。さまざまなノイズを除去した結果、その揺らぎがヘリングス‐ダウンズ曲線に一致すれば、重力波を観測したと言える。
1990年、パルサー・タイミング・アレイ・プログラム(PTA)がスタートして、現在、5つの国際研究チームが観測を続けている。そして、2023年6月28日、5チームが、それぞれの研究成果を公開し、超長波長のナノヘルツ重力波を検出したと報告した。独立したチームが異なる観測方法、集計方法で検出したという報告の信頼性は高く、最も精度の高い報告で4シグマ(99.994%の確率)を達成しているという。国際PTAチームは素粒子実験に求められる5シグマを目標としている。
第7章では、PTA以外の重力波観測方法として位置天文学を紹介する。欧州宇宙機関(ESA)は三角測量によって恒星の位置を直接観測するヒッパルコス衛星やガイア衛星を打ち上げ、20億の恒星の位置が特定された。これらの恒星は固有運動をしているが、もし一定の方向性があれば重力波が通った証拠になる。まだその証拠はつかめていないが、日本が計画している赤外線位置天文衛星「JASMINE」や、アメリカが計画している「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」が稼動を始めれば、さらにデータが集まるだろう。
第8章では、PTAが観測した重力波は、巨大ブラックホール連星からのものと考えられることを紹介する。そして、原始背景重力波を検出する方法として、巨大ブラックホール連星からの重力波を丹念に取り除くことや、宇宙背景輻射の波長の揺らぎを検出する方法を提案する。
第1章は「重力とはなに」をテーマに、ケプラーの法則、ニュートンの万有引力の法則、アインシュタインの特殊相対性理論・一般相対性理論を振り返る。
第2章は、アインシュタインの方程式から予言された重力波の性質と、その性質を利用した望遠鏡の仕組みを紹介する。2015年に、アメリカの重力波望遠鏡「LINGO」が、ついに重力波を捉えた。データ解析の結果、2つのブラックホールの合体現象から生じたものだった。
第3章は、パルサー(中性子星)の成り立ちと、そこから発せられる電波について解説する。パルサーがきわめて近い距離で連星系を構成している場合、相対論的効果による近日点移動と、重力波を発生することによってエネルギーが失われ、公転周期が徐々に小さくなる。また、重力によって電波パルスの伝搬経路が引き伸ばされ、「シャピロの時間遅れ」と呼ばれる現象が発生する。パルサーは固体であり、角運動量保存の法則により、そこから発生する電磁パルスは非常に正確な周期を刻む。こうした前提から「パルサータイミング法」が導かれる。
第4章では、素粒子理論に触れつつインフレーション理論を紹介する。インフレーション理論は、現時点で証拠がつかめていないが、ビッグバン理論が抱えていたマイクロ波背景放射が高い精度で等方的であること、宇宙の曲率が限りなくゼロに近いこと、モノポールやグラビティーノが検出されないこと、宇宙の大規模構造があることなどを説明できることから、多くの研究者たちに受け入れられているという。インフレーション理論を裏付ける証拠として、原始背景重力波が注目されている。重力波は物質ではないので、変換されることなく、時間とともに引き伸ばされているはずだ。
第5章では、相対性理論から導かれるブラックホールの性質を概説する。2012年に地球上にある複数の電波望遠鏡の観測データを合成することで、地球サイズの口径に匹敵するバーチャルな巨大電波望遠鏡を構成するイベント・ホライズン・テレスコープ(ETH)が発足し、2017年4月に20マイクロ秒角という角度分解能を達成し、約6000万光年彼方にあるM87銀河の中心に太陽質量の約60億倍の巨大ブラックホールを発見した。そして2022年5月には、天の川銀河の中心に太陽質量の約400万倍の巨大ブラックホールがあることを発見した。しかし、現時点では、巨大ブラックホールの生成メカニズムは解明されていない。
第6章では、いよいよナノヘルツ重力波を捉えることができるパルサータイミング法の基本原理を解説する。複数の安定したパルサーの電波パルスは、重力波が通過したときにパルス間隔が揺らぐ。さまざまなノイズを除去した結果、その揺らぎがヘリングス‐ダウンズ曲線に一致すれば、重力波を観測したと言える。
1990年、パルサー・タイミング・アレイ・プログラム(PTA)がスタートして、現在、5つの国際研究チームが観測を続けている。そして、2023年6月28日、5チームが、それぞれの研究成果を公開し、超長波長のナノヘルツ重力波を検出したと報告した。独立したチームが異なる観測方法、集計方法で検出したという報告の信頼性は高く、最も精度の高い報告で4シグマ(99.994%の確率)を達成しているという。国際PTAチームは素粒子実験に求められる5シグマを目標としている。
第7章では、PTA以外の重力波観測方法として位置天文学を紹介する。欧州宇宙機関(ESA)は三角測量によって恒星の位置を直接観測するヒッパルコス衛星やガイア衛星を打ち上げ、20億の恒星の位置が特定された。これらの恒星は固有運動をしているが、もし一定の方向性があれば重力波が通った証拠になる。まだその証拠はつかめていないが、日本が計画している赤外線位置天文衛星「JASMINE」や、アメリカが計画している「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」が稼動を始めれば、さらにデータが集まるだろう。
第8章では、PTAが観測した重力波は、巨大ブラックホール連星からのものと考えられることを紹介する。そして、原始背景重力波を検出する方法として、巨大ブラックホール連星からの重力波を丹念に取り除くことや、宇宙背景輻射の波長の揺らぎを検出する方法を提案する。
レビュー
重力波というと、SFによく出てくる単語だが、本書を読んで、それが空間そのものの横波であり、検出可能なものであることがよく分かった。
ただ、お恥ずかしながら、序章でつまづいた。キロヘルツやメガヘルツではなく、ナノヘルツ――SI単位系では10のマイナス乗になるから、波長は無茶苦茶長くなることが、しばらく頭に入らなかった。普段見たことも聞いたこともない波長だということを、あらためて思い知らされる。
それにしても、十数年間にわたってパルサーを観測し続けるという研究の継続性に驚かされる。
重力波が見つかったからといって、私たちの日々の生活が便利になるわけではない。それでも、ビッグバン宇宙論をサポートするインフレーション理論の確証としての原始背景重力波が見つかったら、科学は確実に前進する。そして、それを追うように技術が進歩し、いずれは私たちの生活をさらに豊かなものにしてくれるだろう。
私たちの多くは研究者ではないので、24時間365日、科学に関心を持とうと言うつもりはないが、せめて生活時間の1%を、所得の1%を科学に向けてみてはどうだろうか。その果実を収穫する、私たちの子どもや孫世代のために――。
それにしても、十数年間にわたってパルサーを観測し続けるという研究の継続性に驚かされる。
重力波が見つかったからといって、私たちの日々の生活が便利になるわけではない。それでも、ビッグバン宇宙論をサポートするインフレーション理論の確証としての原始背景重力波が見つかったら、科学は確実に前進する。そして、それを追うように技術が進歩し、いずれは私たちの生活をさらに豊かなものにしてくれるだろう。
私たちの多くは研究者ではないので、24時間365日、科学に関心を持とうと言うつもりはないが、せめて生活時間の1%を、所得の1%を科学に向けてみてはどうだろうか。その果実を収穫する、私たちの子どもや孫世代のために――。
(2024年9月13日 読了)
参考サイト
- 宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学:講談社
- 『三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題』(浅田 秀樹,2021年03月)
- 『ホーキング 宇宙の始まりと終わり? 私たちの未来』(スティーヴン・ウィリアム・ホーキング/向井国昭,2008年10月)
- 『真空のからくり』(山田 克哉,2013年10月)
- 『大人が知っておきたい物理の常識』(左巻健男/浮田裕,2015年12月)
- 『宇宙は「もつれ」でできている』(ルイーザ・ギルダー/山田 克哉,2016年10月)
- 『超巨大ブラックホールに迫る』(平林久,2017年02月)
- 『時間は存在しない』(カルロ・ロヴェッリ/冨永 星,2019年08月)
- 『宇宙はなぜ哲学の問題になるのか』(伊藤 邦武,2019年08月)
- 『三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題』(浅田 秀樹,2021年03月)
- 『宇宙の終わりに何が起こるのか』(ケイティ・マック/吉田 三知世,2021年09月)
- 『宇宙はなぜ物質でできているのか』(小林 誠,2021年10月)
- 『宇宙を支配する「定数」』(臼田 孝,2022年02月)
- 『宇宙検閲官仮説』(真貝 寿明,2023年02月)
- 『宇宙最強物質決定戦』(高水 裕一,2023年02月)
- 『時間の終わりまで』(ブライアン・グリーン/青木 薫,2023年05月)
- 『宇宙・0・無限大』(谷口義明,2023年06月)
- 『重力のからくり』(山田 克哉,2023年08月)
- 『多元宇宙(マルチバース)論集中講義』(野村泰紀,2024年03月)
- 西暦1666年 - 万有引力の法則
- 西暦1705年 - ハレー彗星を予言
- 西暦1964年 - 宇宙背景輻射の発見/世界初のスーパーコンピュータ
- 西暦1970年 - ペンローズ・ホーキングの特異点定理
(この項おわり)