西暦1964年 - 宇宙背景輻射の発見/世界初のスーパーコンピュータ

ビッグバン宇宙論の確証/CDC 6600の登場

目次

宇宙背景輻射の発見

ベル研究所のホーンアンテナ
ベル研究所のホーンアンテナ
1964年(昭和39年)、ベル研究所のアーノ・ペンジアスロバート・ウッドロウ・ウィルソンは、電波天文学のために口径15メートルの超高感度低温マイクロ波アンテナ(ホーンアンテナ)を設置している最中に、正体不明の電波ノイズに悩まされていた。
ノイズの強度は天の川銀河の放射より強いものであったため、当初、2人は地上の雑音源からの干渉を受けていると考え、すべての雑音源を特定し、ついに、このノイズが宇宙背景輻射(CMB)であることを発見した。
エドウィン・ハッブル
エドウィン・ハッブル
1922年(大正11年)、ソ連の宇宙物理学者アレクサンドル・フリードマンは、一般相対性理論のアインシュタイン方程式の厳密解の一つであるFLRW計量から得られる時空の運動方程式「フリードマン方程式」を定式化する。この方程式からから膨張宇宙のモデルが得られた。
1929年(昭和4年)、ウィルソン天文台に勤務するエドウィン・ハッブルが銀河の赤方偏移を観測したことによって、宇宙の膨張は確かなものになった。
ジョルジュ・ルメートル
ジョルジュ・ルメートル
この頃、ベルギーの宇宙物理学者ジョルジュ・ルメートルは、一般相対性理論に基づき、膨張宇宙論を発表し、「宇宙卵(Cosmic Egg) が創生の瞬間に爆発した」と説いた。
当時、アインシュタインは膨張宇宙論を否定しており、また、司祭でもあるルメートルの論文が聖書の天地創造を連想させるものであったことから、学界での評判は散々であった。彼は、宇宙の年齢が100~200億歳だと推測した。
ジョージ・ガモフ
ジョージ・ガモフ
1940年代に入ると、ロシア生まれのアメリカの理論物理学者ジョージ・ガモフが「火の玉宇宙」というアイデアを発表し、ルメートルの説を支持した。そして、膨張する宇宙には原初の火の玉のエネルギーが輻射として残っており、絶対温度で5Kだと推測した。
実際に、ペンジアスとウィルソンが発見した背景輻射は3Kであった。2人は、1978年(昭和53年)のノーベル物理学賞を受賞した。
プランクの最終版CMBデータ
プランクの最終版CMBデータ
1989年(昭和64年)、宇宙背景輻射を観測するための人工衛星 COBE(コービー)が打ち上げられる。宇宙での観測は7年に及び、宇宙背景輻射が2.725Kの黒体放射に極め似ていること、全天にわたって一様に広がっているが、局所的な揺らぎがあることが分かった。
さらに、2001年(平成13年)のWMAP衛星、2009年(平成21年)のプランク衛星によって、宇宙背景輻射の観測と研究が続けられている。

CDC 6600の登場

CDC 6600
CDC 6600
1964年(昭和39年)9月、アメリカ合衆国の電気工学者シーモア・クレイが率いるコントロール・データ・コーポレーションCDC 6600 の販売を始める。計算能力で IBM 7030 Stretch の3倍となる最大3MFLOPS、2MIPSを誇り、世界で初めて商業的に成功したスーパーコンピュータとなった。1969年(昭和44年)に後継機 CDC 7600 が登場するまで、世界最速であった。
CDC 6600
CDC 6600
1950年(昭和25年)、クレイはエンジニアリング・リサーチ・アソシエーツ (ERA) 社に就職し、科学技術計算用コンピュータ ERA 1103 を設計した。コントロール・データ・コーポレーションに転職すると、1960年(昭和35年)に ERA 1103 を改良した、低価格にした CDC 1604 を設計する。つづいて CDC 6600 の設計に取りかかる。
シーモア・クレイ
シーモア・クレイ
クレイは、コンピュータの計算スピードは中央演算処理装置(CPU)の能力ではなく、システム全体のパフォーマンスにかかっていることに気づいていた。この頃、CPUの処理速度は主記憶装置(メモリ)よりも遅く、メモリは常にCPUの処理結果を待ち受けるという待ち時間があった。

そこでクレイは、CPUは演算に特化させ、メモリとの入出力を切り離した。こうしてCPU回路を小さくすることで、CDC 6600 のクロックは10MHzまでアップすることができた。これは、今日で言う RISC の考え方である。
ただし、CPUに待ち時間は発生しないよう、タイミングを考えたプログラミングを行う必要があった。
CDC 7600
CDC 7600
CDC 6600 の1号機はローレンス・リバモア国立研究所に納品され、全部で50台が製造された。

クレイは、1969年(昭和44年)に、CPUにおいて複数の命令を同時に処理するパイプライン処理を採用した CDC 7600 を設計し、約10MFLOPSという CDC 6600 の5倍の計算性能を実現した。
Cray-1
Cray-1
クレイは、コントロール・データ・コーポレーションを離れクレイ・リサーチを設立し、1976年(昭和51年)に、ICを採用し、コンピュータ全体が高速となるよう配線にも注意が払われ円筒形の独特のデザインとなるベクトル演算型スーパーコンピュータ Cray-1 を発売する。演算性能は約160MFLOPSに達した。
タイタン
タイタン
クレイの設計手法は、高速プロセッサとシステム全体の同期にあった。だが、1990年代に入ると、超並列マシンを使ったスーパーコンピュータが登場するようになる。
クレイ・リサーチは、1996年(平成8年)2月にシリコングラフィックス (SGI) に吸収合併され、2012年(平成24年)11月にCray XK7ベースのタイタンがTOP500ランキングのトップに踊りである。ピーク演算性能は20PFlops。

IBM System/360 発表

IBM System/360 Model 65
IBM System/360 Model 65
1964年(昭和39年)4月、IBMはメインフレーム「System/360」を発表する。モデルチェンジしながら、1965年(昭和40年)から1977年まで出荷。コンピュータ・アーキテクチャと回路実装を明確に区別した最初のコンピュータで、後のコンピュータの設計に影響を与え続けた。
System/360 は、同一の命令セット・アーキテクチャを、最上位機種では可能な限りハードウェアで直接的に実装し、下位機種ではマイクロプログラム方式の活用により比較的低コストで実装するというコンピュータ・アーキテクチャを確立したことで、IBMはさまざまな価格帯のモデルを、さまざまな市場へ展開していくことになる。
1964年(昭和39年)当時の最上位機種は、計算性能は約1MIPS、主記憶容量は8MB、補助記憶装置は最大8MB。

System/360 は8ビットを1バイトとして扱ったが、この後のコンピュータの標準規格となる。
同一の命令セット・アーキテクチャを維持したことから、それまでコンピュータ毎に作られてきた基本制御プログラムが共通化され、やがて OS(基本ソフトウェア)と呼ばれるようになる。
System/360 は、あらゆる分野で利用できることを目的とし、スーパーコンピュータの対極にある汎用機と呼ばれるようになる。IBMは、科学技術計算用のプログラミング言語 FORTRAN と、事務処理用の COBOL の両方の特性を兼ね備えた PL/ISystem/360 用のプログラミング言語として完成させた。
IBMは System/360 に開発に、国家事業のアポロ計画を超える3兆円を投入したといわれる。

ダートマスBASIC

ダートマスBASIC
ダートマスBASIC
1964年(昭和39年)6月、米ダートマス大学はプログラミング言語「BASIC」をリリースする。
それまでのプログラミングは、いちいちパンチカードを作成し、コンピュータを使ってバッチ・コンパイルする必要があったが、BASIC はメインフレームのTTS(Time Sharing System)で対話しながら入力することを目指した。
コンパイラはオンメモリで動作し、1パスでコンパイルできたことから、インタプリタと同じ使い勝手であった。
言語仕様は、FORTRANALGOL の影響を受けている。

ダートマス大学は、教育用として BASIC を開発したことから、次第に学外に広まり、1975年(昭和50年)には、ビル・ゲイツとポール・アレンが世界初のパソコン「アルテア8800」用のBASICを開発。同じ頃、西海岸ではスティーブ・ウォズニアックが Apple I用のBASICを開発する。こうしてBASICは、パーソナルコンピュータ用のプログラミング言語として花開くこととなる。

この時代の世界

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