『みんなの高校地学』――最新科学を学ぼう

鎌田浩毅、蜷川雅晴=著
表紙 みんなの高校地学
著者 鎌田 浩毅/蜷川 雅晴
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2024年12月26日頃
価格 1,430円(税込)
ISBN 9784065377970
地学の勉強は頭の中だけでするのではなく、実際に手を動かしてみると理解度が格段に上がります。

概要

プレートテクトニクスからみた日本列島
プレートテクトニクスからみた日本列島
序章 日本列島と巨大災害
蜷川さんは、序章で南海トラフ地震について解説する。政府の地震調査委員会は南海トラフ地震の発生確率を広報しているが、これでは緊急性が伝わらないので、
①南海トラフ巨大地震は約10年後に必ず襲ってくる(2030年~2040年)
②その災害規模は東日本大震災より1桁大きい
というメッセージにしたらどうかと提案する。
チバニアン
チバニアン 2020年3月6日撮影
第1章 地球の姿としくみ
緯度の長さ、ジオイド、地球楕円体、モホロビチッチ不連続面、グーテンベルク不連続面、レーマン不連続面、プルーム、地磁気と残留磁気、パンゲア、プレートテクトニクス‥‥地学で学んだ用語が並ぶ。プルームテクトニクスやチバニアンは新しい用語だ。
地球の (コア) にある鉄が流動することで電流が流れ、そのまわりに磁場ができ、地磁気を生み出している。火成岩や堆積岩には、岩石ができたときの地磁気が記録されているが、これを調べると、何十万年という周期で地磁気が逆転することがわかった。地磁気の逆転が縞模様のように海底が広がっており、これが大陸が動いている証拠となり、1912年にアルフレッド・ウェゲナーが唱えた大陸移動説が、1960年代後半にプレートテクトニクスとして確立した。
野島断層
野島断層 2023年8月26日撮影
太平洋プレートは、ハワイから日本へ向かって年間約6.1㎝の速さで動いており、これは人間の爪が伸びる速さとほぼ同じという。
地震波は、岩盤のやわらかいアセノスフェアでは減衰しやすく、沈み込んだ海洋プレートの内部では伝わりやすいという性質がある。
旧南三陸町防災対策庁舎
旧南三陸町防災対策庁舎 2024年9月7日撮影
日本列島では、太平洋側から日本海側へプレートが沈み込んでいるため、日本海の深いところで発生した地震波は、沈み込んだプレートに沿って太平洋側へ伝わりやすく、太平洋側の地域で震度が大きくなる異常震域を観測することがある。
地震は、プレートの沈み込み境界で発生する地震をプレート境界地震(海溝型地震)、大陸地殻の浅いところで発生する大陸プレート内地震(内陸地殻内地震)、
海溝から日本列島の下に沈み込んだ海洋プレートの内部で発生する震源の深い海洋プレート内地震(スラブ内地震)、海溝の沖側でプレートが大きく曲がるときに起きるアウターライズ地震などがあり、それぞれ性質が異なる。
津波の速度は水深の浅いところほど遅くなり、水深4000mの海では約200m/s(時速720km)ですが、水深40mの海では約20m/s(時速72km)になる。
過去1万年以内に噴火したことがある火山および現在活発な噴気活動のある火山を活火山といい、世界には約1500の活火山があり、そのうち日本には111の活火山がある。火山の形は、主にマグマの粘性によって決まる。マグマの粘性は、マグマの温度とマグマに含まれる二酸化ケイ素(SiO2)の量が多いほど粘性が高くなる。SiO2が多いほうから順に、火山岩は流紋岩、安山岩、玄武岩に分けられ、深成岩は花岩、閃緑岩、斑岩、かんらん岩に分けられる。流紋岩と安山岩の中間的な化学組成をもつ火山岩をデイサイトと呼ぶこともある。
キラウエア火山
キラウエア火山 2013年6月13日撮影
第2章 46億年の地球史
日本列島のようなプレートの沈み込み境界で発生するマグマは、海嶺やホットスポットで発生するマグマとは生成過程が異なる。日本の地下には海洋プレートが沈み込むことによって水が供給され、この水が地下のかんらん岩に含まれると、かんらん岩の融け出す温度が低下するため、マグマが発生しやすくなる。
サーストン溶岩トンネル
サーストン溶岩トンネル 2013年6月13日撮影
海水中には炭酸カルシウム(CaCO3)の殻をもつ有孔虫が生息しているが、炭酸カルシウムは浅い海では溶けないが、深い海では溶けてしまうため堆積しない。礫、砂、泥などの砕屑物、火山灰などの火山砕屑物、生物の遺骸などが特定の場所に積み重なった堆積物は長い時間をかけて固結していく圧密作用と、
波浮港の地層切断面
波浮港の地層切断面 2020年12月13日撮影
水中から炭酸カルシウムや二酸化ケイ素などが、堆積物の粒子のすき間に晶出して粒子どうしを結びつける膠結作用により、堆積物は硬く固結した堆積岩となる。堆積岩は、堆積物の種類やでき方によって、砕屑岩、火山砕屑岩、化学岩、生物岩に分類される。
東尋坊の千畳敷
東尋坊の千畳敷 2017年9月23日撮影
火成岩や堆積岩などが、地球内部の温度や圧力の高い場所に長くおかれると、鉱物の結晶構造が変化したり、他の鉱物に変化したりして、別の岩石(変成岩)になる。海溝付近では、大陸プレートと海洋プレートの収束によって、圧力が高くなっており、結晶片岩などの低温高圧型変成岩が形成される。結晶片岩は、柱状の鉱物が一定の方向に配列してできる面状の構造をもっているため、平行な面で割れやすい性質(片理)をもつ。
地層を調べることによって地球の歴史を明らかにすることができる。放射性同位体は温度や圧力によらず一定の割合で崩壊する性質があり、これを使って地層の年代(放射年代)を求めることができる。
ストロマトライト - 福井県立恐竜博物館
ストロマトライト - 福井県立恐竜博物館 2024年8月13日撮影
原始海洋は今から約40億年前に形成され、同時期に「生物に由来する炭素」が堆積岩を起源とする変成岩から見つかっている。
生物の外形を残す最古のものは、約35億年前の原核生物の化石だ。原生代(約25億~約5億3900万年前)にはシアノバクテリアの光合成によって海水中に酸素が増え、縞状鉄鉱層と呼ばれる地層が形成された。約21億年前には真核生物が登場し、15億年前に多細胞生物になった。約23億~22億年前と約7億5000万~6億年前には、地球のほぼ全体が氷に覆われた全球凍結(スノーボールアース)になった。
アンモナイト - 日本橋高島屋
アンモナイト - 日本橋高島屋 2007年4月28日撮影
カンブリア紀には、硬い殻や骨をもつ多様な無脊椎動物が一斉に出現するカンブリア爆発が起き、デボン紀には魚類が多様化し、陸上ではシダ植物が繁栄して森林を形成した。ペルム紀には、世界の大陸が集まって超大陸パンゲアが形成された。
中生代(約2億5200万~約6600万年前)は全体的に温暖で、恐竜が登場した。新生代(約6600万年前以降)は、主に哺乳類や被子植物が繁栄した。
マンモス - 福井県立恐竜博物館
マンモス - 福井県立恐竜博物館 2024年8月13日撮影
今から約1500万年前(新第三紀)に、アジア大陸の東側の一部が大陸から離れ、日本列島が誕生した。第四紀(約260万年前~現在)は特に寒冷な時代で、約7万~1万年前が最後の氷期だ。海面が100メートル以上低下したため、日本列島が大陸と陸続きになり、このときに人類が日本列島へやってきたと考えられている。
航空機から見下ろす富士山
航空機から見下ろす富士山 2013年1月24日撮影
第3章 地球をめぐる大気と海洋
対流圏では高度とともに気温が低下し、成層圏ではオゾンが耒陽からの紫外線を吸収するために高度とともに気温が上昇する。さらに、中間圏では再び高度とともに気温が低下し、熱圏では窒素や酸素が太陽からの紫外線やⅩ線を吸収するため再び高度とともに気温が上昇する。熱圏の中で特に電子の密度が高い層を電離層という。
サムネイル
霧箱 - 国立科学博物館 2005年5月2日撮影
地球の大気圏に入射した太陽放射エネルギーは、約20%が大気圏に、約50%が地表に吸収される。残りの約30%は雲、大気、地表などによって反射され、宇宙へ放出される。地球が受け取る太陽放射エネルギーと、地球が宇宙へ放出する地球放射エネルギーはつり合っており、このときの放射平衡温度はシュテファン・ボルツマンの法則から約-18℃と計算される。実際の地球表面の平均温度は15℃と高く、これは待機中の温室効果ガスなどによる効果である。
コリオリの力により、北半球の低気圧では反時計回り、高気圧では時計回りに風が吹く。南半球はこの逆になる。貿易風が赤道付近で収束して上昇気流となり、対流圏の上層を高緯度方向へ流れ、緯度20~30度付近で下降する大気の流れをハドレー循環と呼ぶ。中緯度の対流圏では、西から東へ吹く偏西風が強く吹いており、対流圏の上層では風速が最大となり、ジェット気流と呼ぶ。北太平洋の西部で発生した熱帯低気圧のうち、最大風速が約17m/s以上になったものを台風と呼ぶ。
地球の公転軌道は、約10万年周期で円に近い軌道となったり、やや長い楕円となったりしている。地球の公転軌道の変化、地軸の傾斜角度、地球の歳差運動によって、地球の日射量が変化する周期をミランコビッチサイクルと呼び、気候変動を引き起こす。
フーコーの振り子 - 国立科学博物館
フーコーの振り子 - 国立科学博物館 2004年1月10日撮影
第4章 はてしなき宇宙の構造
1851年に、フランスの物理学者レオン・フーコーは、振り子の実験(フーコーの振り子)によって地球が自転していることを証明した。
主系列星の大きさは太陽半径の約0.1~10倍、赤色巨星は10倍以上、白色矮星は0.1倍以下で、主系列星の光度は恒星の質量の約4乗に比例し、寿命は質量の約3乗に反比例する。太陽質量の8倍以上の恒星は、赤色巨星となった後、超新星爆発を起こし、中心部は中性子星になったりブラックホールになる。
若い恒星が集まっている散開星団には、ヘリウムよりも重い元素を多く含む種族Iの恒星からなる。太陽も種族Iだ。これに対し、バルジや円盤部を取り囲む半径約7.5万光年の球形のハローには、年齢が古く、ヘリウムよりも重い元素の少ない種族IIから成る球状星団がある。

おわりに 高校地学のエッセンス
高校地学は第二次世界大戦後、高校の教科「理科」の1科目として設定された。高校地学はたいへん広い領域の現象を扱いますが、他の科学分野とは違う特徴を持っています。そのひとつは、高校生に学問の最先端の内容をすぐ教える、という点だ。

レビュー

世界保健デー
豊富な図版のおかげで、とても分かりやすい。蜷川さんが「おわりに」に記しているように、「地学で出てくる図や式は、ただ眺めたり覚えたりするのではなく、自分でその意味を考えながら描いたり計算したりしてみましょう。地学の勉強は頭の中だけでするのではなく、実際に手を動かしてみると理解度が格段に上がります」と書いてあるとおり――いまはスマホやパソコンで簡単にシミュレーションできるから、本書に出てくる数式ぜひプログラミングしてほしい。
「おわりに」で、蜷川さんは「高校で地学を学習する生徒はたいへん少ない」と嘆いている。「脱炭素やカーボンニュートラルの時代に地球環境の基礎を知るという、崇高な目標」画あるにも関わらずだ。
じつは私も高校地学を履修していない。にもかかわらず、共通一次試験(当時)の地学の模試の得点は常に満点だった(本番は生物・化学で受験)。これには裏があって、中高一貫校だったのだが、地学部に所属していたのだ。顧問は理学博士でもある地学教師。その学校では、高校の教師が中学も教えるのだが、地学の授業では教科書や副読本は一切使わず、ほぼ新聞の切り抜きで講義をした――本書の「おわり」に記されている「高校地学はたいへん広い領域の現象を扱いますが、他の科学分野とは違う特徴を持っています。そのひとつは、高校生に学問の最先端の内容をすぐ教える」ということを、中学で実践されていたわけだ。
部活では、理系大学へ進学したOBたちが、最新の話題をレクチャしてくれた。そして、日帰りで地質観察や気象観測をしたり、毎月1回は学校に寝泊まりして天体観測をした。昼休みの太陽観測も欠かさなかった。
なぜ地学部に入部したかといえば、地球環境を考えるといった崇高な目的の欠片もなく、ただ、小学生時代のUFOブームの延長で、「宇宙人に会ってみたい」という好奇心からだった。
その後、地球で進化した生物とは全く異なるであろう「宇宙人」を調べてみたいから生物学に興味を持ち、その生理を知りたくて化学に興味を持ち、宇宙船の仕組みを推測するのに物理学に興味を持ち、その延長線上で数学にのめり込んだ――地学からスタートした好奇心は、理科4教科と数学をマスターし、それがベースになってIT業界で40年以上生きていくことができている。無目的に生きていても、なんとか生活はできるものだ。
私にとっての「青い鳥」は「宇宙人」である。ただ闇雲に探して出てくるはずもはない。常に最新科学の情報を集め、学び、吸収する必要がある。
本書では、中高校時代には仮説の域を出ていなかったり、未発見だったもの――プルームテクトニクス、スノーボールアース、バージェス動物群、チクシュルーブ・クレーター、矮惑星、エッジワース・カイパーベルト、ダークマター、宇宙の大規模構造――が登場し、知識の更新ができた。木星や土星の衛星数も3桁になるなど、天文学も大きく進歩した。
40年でこれだけ科学が進歩するなら、もしかしたら、生きているうちに「宇宙人」に会えるかもしれない――そんな明るい気分になることができた。
(2025年7月12日 読了)

参考サイト

(この項おわり)
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