スパコン「京」「富岳」から生まれた FUJITSU-MONAKA

2026年11月販売開始
FUJITSU-MONAKA
FUJITSU-MONAKA は、富士通 が国内で設計・開発したデータセンター向け64ビットCPUである。1基に144個のコアを搭載し、最大3.8GHzで動作する。最先端の2nmプロセスと3D積層技術を採用し、AI推論ではCPU単体で他社CPUの2倍の処理量を実現する。2026年(令和8年)11月から、CPU単体と搭載サーバーを世界市場へ販売する。

目次

開発の背景

SPARC64からA64FXを経てFUJITSU-MONAKAへ続くプロセッサー開発の系譜
スーパーコンピューター「京」「富岳」で培った技術をFUJITSU-MONAKAへ継承
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FUJITSU-MONAKA には、富士通 がスーパーコンピューター「京」と「富岳」の開発で培った、高速演算、省電力、高信頼性の技術が受け継がれている。命令セットは途中でSPARCからArmへ変わったが、CPUを自ら設計し、ハードウェアとソフトウェアを一体で最適化する開発思想は一貫している。

「京」は2012年(平成24年)に本格稼働したスーパーコンピューターで、富士通 が開発したSPARC64 VIIIfxを8万基以上搭載した。SPARC64は、SPARC命令セットを使う64ビットCPUである。VIIIfxは8コアとベクトル演算を強化するHPC-ACEを備え、2011年(平成23年)6月に計算速度世界一を達成した。高性能と省電力を両立する設計は、後継CPUの出発点となった。

「富岳」は2021年(令和3年)に共用を始め、富士通 製CPU「A64FX」を約15万基搭載する。A64FXは命令セットをSPARCからArmv8.2-Aへ切り替え、Armのベクトル拡張SVEを世界で初めて採用したCPUである。48個の計算コア、7nmプロセス、広帯域メモリHBM2を組み合わせ、AIと科学技術計算の双方を高速化した。

FUJITSU-MONAKA はA64FXで得たArm向けCPU設計やベクトル演算の経験を、一般のデータセンターへ広げる。NEDOの「次世代グリーンデータセンター技術開発」の成果も活用した。富士通 は2026年(令和8年)9月14日に製品を発表し、同年11月からCPU単体と搭載サーバーを世界市場へ販売する。

2nmと3Dチップレット

FUJITSU-MONAKAの2nmコアダイ、5nm SRAMダイ、I/Oダイを組み合わせた3Dチップレット構造
4個のコアダイとSRAMダイをI/Oダイの周囲に配置する3Dチップレット構造
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FUJITSU-MONAKA は、Armv9-A命令セットに対応する144個のCPUコアを搭載する。大きなチップを一体で作るのではなく、機能ごとに分けた小さな半導体を組み合わせる「チップレット」方式である。演算を担うコアダイは2nm、キャッシュ用SRAMダイとI/Oダイは5nmで製造し、シリコンインターポーザー上に3D積層する。

機能に適した製造プロセスを使い分けることで、製造コストを抑えながら性能と電力効率を高める。メモリはDDR5を12チャネル備え、転送速度は8800MT/sである。外部機器との接続にはPCI Express 6.0とCXL 3.0を採用し、メモリやAIアクセラレーターなどを柔軟に拡張できる。

AI推論をCPUだけで高速化

最大動作周波数は3.8GHzで、ベクトル演算拡張「SVE2」に加え、AI推論の中心となる行列演算を高速化する専用命令を備える。富士通によれば、ソフトウェア最適化と組み合わせることで、他社CPUと比べてAI推論の処理量を2倍にできる。GPUを使わずCPUだけでも実用的な推論性能を得られる点が特徴である。
SVE2(Scalable Vector Extension 2)は、Armv9-Aで利用できるベクトル演算拡張である。1つの命令で複数の数値をまとめて計算するSIMD処理を行い、画像、音声、科学技術計算などを高速化する。FUJITSU-MONAKAは256ビット幅に対応し、32ビットの数値なら8個を一度に扱える。処理する要素数を意識しにくい命令体系のため、ソフトウェアを将来のArm CPUへ移しやすい。
AI推論では、学習済みモデルの重みと入力データを掛け合わせて足し込む「行列積」を大量に繰り返す。専用命令は、この乗算と加算を多くのデータに対してまとめて実行し、通常の命令を何度も発行する手間やデータ移動を減らす。SVE2によるベクトル処理、専用命令、ソフトウェア最適化を組み合わせることで、GPUを使わないCPU単体のAI推論を高速化する。
生成AIの学習には大量のGPUが使われる一方、学習済みモデルから回答を作る推論処理では、導入費用や消費電力を抑えたい需要が大きい。FUJITSU-MONAKAはAIだけでなく、科学技術計算、流体解析、リアルタイムの大規模データ処理など、並列演算を多用するHPC用途も想定する。

高性能と省電力を両立

データセンターでは、生成AIの普及による消費電力と冷却設備の増大が課題となっている。FUJITSU-MONAKA は富士通独自の超低電圧動作技術を使い、同じ処理量に必要なサーバー台数と電力を他社CPUの場合の半分にできるとしている。高性能化だけでなく、電力料金と二酸化炭素排出量の削減を重視した設計である。

安全なソブリンAI基盤

Arm CCAを利用した「コンフィデンシャルコンピューティング」に対応する。これは、メモリ上で処理中のデータやプログラムを暗号化し、OSやハイパーバイザーの管理者権限を持つソフトウェアからも守る仕組みである。複数の利用者が設備を共有するクラウドでも、機密情報を扱うAI処理の安全性を高める。
CPUと搭載サーバーを国内で設計・開発し、サーバーを富士通の笠島工場で製造することで、部品の由来や製造履歴を追跡しやすくする。行政、金融、医療、防衛など、自国・自組織でデータと計算基盤を管理する「ソブリンAI」の需要に応える狙いがある。

MONAKA Server

Fujitsu MONAKA Server
搭載製品「Fujitsu MONAKA Server」は、1U型と2U型を用意する。1U型はCXLを使い、筐体を越えてメモリやアクセラレーターを共同利用するCDI技術に対応する。空冷では周囲温度40度、水冷では水温45度まで動作でき、冷却電力を最大80%削減するという。特殊な冷却設備を持たない場所にもAI基盤を導入しやすい。
学術・HPC向けには、2個のCPUを積んだノードを4台収容する2Uマルチノード型も販売する。主権用途向けサーバーは2026年(令和8年)11月から日本と欧州で販売し、2027年(令和9年)4月から順次出荷する計画である。CPUだけを販売することで、他社製サーバーやクラウドサービスへの採用も目指す。

主要スペック

項目仕様
開発元富士通
販売開始2026年11月
命令セットArmv9-A
CPUコア数144コア
最大動作周波数3.8GHz
ベクトル演算SVE2(256ビット)、AI向け行列演算専用命令
実装3Dチップレット
製造プロセスコアダイ:2nm、SRAM/I/Oダイ:5nm
メモリDDR5、12チャネル、8800MT/s
外部接続PCI Express 6.0、CXL 3.0
セキュリティArm CCAによるコンフィデンシャルコンピューティング
冷却方式空冷/水冷
主な用途AI推論、データセンター、クラウド、HPC

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1970年Garrett
AiResearch
MP944 (軍用)20bit375KHz
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1983年NECV3016bit16MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年インテルi96032bit100MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1985年エイコーンARM132bit6MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1988年MIPSR300032bit40MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1989年インテルi86032bit50MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1992年DECAlpha 2106464bit200MHz
1993年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60132bit120MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleAppleシリコン64bit3.49GHz
2023年インテルCore Ultra 9 / 7 / 564bit5.1GHz
2026年富士通FUJITSU-MONAKA64bit3.8GHz

参考サイト

(この項おわり)
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