西暦2012年 - スーパーコンピュータ「京」稼動

スーパーコンピュータ「京」
スーパーコンピュータ「京」
スーパーコンピュータ「京」
スーパーコンピュータ「京」
2012年(平成24年)9月28日、理化学研究所と富士通が共同開発した国産スーパーコンピュータ「京」が稼動開始した。その名は、浮動小数点数演算を1秒あたり1京回おこなう処理能力(10PFLOPS)に由来する。ただ速いだけでなく、幅広い用途に応用できる汎用計算機として設計された。

1972年(昭和47年)11月、富士通と日立製作所は、世界ではじめて全面的にLSIを採用した大型コンピュータ(メインフレーム)「FACOM M-190」を発表する。開発チームを率いた池田敏雄は、発表直前にくも膜下出血で他界する。
FACOM 230-75 APU
FACOM 230-75 APU
池田が検討していたベクトル計算機は、航空宇宙技術研究所の三好甫 (みよし はじめ) に受け継がれ、1977年(昭和52年)に FACOM 230-75 APUとして完成する。アメリカのスーパーコンピュータ「Cray-1」発売の翌年のことであった。
当時、CPUの処理速度は主記憶装置(メモリ)よりも遅く、メモリは常にCPUの処理結果を待ち受けるという待ち時間があった。そこで、CPUのハードウェアを計算処理に特化させ、同時に複数の計算ができるSIMD命令を実装したのがベクトル計算機である。
NEC SX-2
NEC SX-2
国の支援を受けていたこともあり、国産ベクトル計算機は急速に性能を向上させ、1982年(昭和57年)から1983年にかけ、日本初のスーパーコンピュータである富士通「FACOM VP-100」、日立製作所「HITAC S-810」、NEC「SX-1/SX-2」を誕生させた。SX-2は、メインフレーム用の ACOS (エイコス)  をベースにしたOS上で、FORTRAN 77にベクトル演算ライブラリを追加した環境でプログラムの開発を行い、演算速度はGFLOPSを超えた。
NEC SX-3
NEC SX-3
1980年代後半に入ると国産スーパーコンピュータの性能が世界に肩を並べるようになり、1990年(平成2年)に登場したNEC SX-3/44Rは23GFLOPSの演算速度を叩き出し、ついに世界一の座を獲得する。1995年(平成7年)には富士通の数値風洞が、1996年(平成8年)には日立製作所のSR2201とCP-PACSが世界一となった。
バブル期の東京証券取引所
バブル期の東京証券取引所
国産スーパーコンピュータは海外に輸出されるようになり、これに脅威を感じたアメリカは、1996年(平成8年)にNEC SXシリーズへのスーパー301条を発動し、日米スパコン貿易摩擦が起きる。
間もなくバブル経済が崩壊し、各社とも、莫大な開発予算がかかるスーパーコンピュータ開発事業からの撤退を模索し始める。
地球シュミュレータ
地球シュミュレータ
そんな中の2002年(平成14年)3月、SXシリーズの流れを汲む地球シュミュレータが稼動開始し、ピーク性能40.96TFLOPSで5回連続して世界一の座に君臨した。
数値風洞や地球シュミュレータの開発を主導した三好甫は、その本稼働を見ることなく2001年(平成13年)11月に他界する。
IBM Blue Gene
IBM Blue Gene
2005年(平成17年)、文部科学省と理化学研究所は、地球シュミュレータの後継スーパーコンピュータ・プロジェクトを立ち上げる。しかし、バブル経済崩壊の影響は深刻で、長い間、ベクトル計算機を主導してきたメーカーのNECと日立製作所が撤退し、富士通だけが残った。また、世界的にもベクトル計算機に代わって、IBMのスーパーコンピュータ「Blue Gene (ブルージーン) 」のようにスカラ計算機を大量に並列稼働させるアーキテクチャが有力になりつつあった。
SPARC64 VIIIfx
SPARC64 VIIIfx
富士通は、井上愛一郎を開発責任者とする400人のメンバで次世代スーパーコンピュータの開発に着手した。
CPU開発担当だった浅川岳夫と吉田利雄は「性能3倍、電力消費量半分」という目標に呆然とする中、スパコン・プロジェクトの経験豊富な追永勇次 (おいなが ゆうじ) は「エンジニアの“責任とをとる”って何かと言ったら、責任をとって辞めるとかそんなんじゃなくて、最後までやりにくことだ」と叱咤激励した。こうしてCPU「SPARC64 VIIIfx」が誕生した。
Tofu 概念図
Tofu 概念図
SPARC64 VIIIfxを〈超並列〉で稼動させるために、30代の若手技術者、安島雄一郎 (あじま ゆういちろう) が設計した「Tofu (トーフ) 」と呼ばれる独自の6次元メッシュ/トーラスのインターコネクトが導入された。
当初、「自分だけが分かっていればいい」と考えていた安島は、設計完了後に追永が「『俺のTofu』って言ってくれたことが一番嬉しかった」と振り返る。
京のシステムボード
京のシステムボード
2009年(平成21年)11月の事業仕分けで民主党の蓮舫・内閣府特命担当大臣が「一番じゃなきゃダメですか?」と発言しプロジェクトが凍結しかけたが、12月に予算復活。開発中の2011年(平成23年)6月と11月にスーパーコンピュータの世界ランキングである「TOP500」で立て続けに世界一位を獲得した。
スーパーコンピュータ「京」
スーパーコンピュータ「京」
スーパーコンピュータ「京」は、総開発費1,120億円を投じ、2012年(平成24年)6月に完成、9月に共用稼働を開始した。完成直前に米タイタンに1位の座を奪われるが、より汎用的な性能を評価する「HPCチャレンジ賞」で5年連続1位(うち2年は4部門独占)を獲得した。
スーパーコンピュータ「富岳」
スーパーコンピュータ「富岳」
2019年(令和元年)8月30日にシャットダウンし、2021年(令和3年)3月に性能が100倍アップした次世代の「富岳 (ふがく) 」に置き換えられた。

この時代の世界

1875 1900 1925 1950 1975 2000 2025 2050 1900 1900 1900 1900 1900 1900 2000 2000 2000 2000 2000 2000 2012 スーパーコンピュータ「京」稼動 1957 井上愛一郎 1951 追永勇次 1973 安島 雄一郎 1999 「2ちゃんねる」開設 1976 西村博之 1987 パソコン「X68000」発売 1990 DOS/Vパソコン発表 1994 PlayStation発売 1950 久夛良木健 1995 スクリプト言語「Ruby」 1965 松本行弘 1999 「iモード」サービス開始 1993 バブル崩壊 2010 日産・リーフ発売開始 2011 東日本大震災 1946 菅直人 1947 鳩山由紀夫 1942 小泉純一郎 1954 2022 安倍晋三 麻生太郎 1995 阪神・淡路大震災 1995 地下鉄サリン事件 1911 2017 日野原重明 1998 iMac発売 2007 iPhone発売 1955 2011 スティーブ・ジョブズ 1943 2005 ジェフ・ラスキン 1950 スティーブ・ウォズニアック 1950 アラン・ケイ 1954 ビル・ジョイ 1991 スクリプト言語「Python」 2006 Twitterサービス開始 2009 プログラミング言語「Go」 1995 スクリプト言語「PHP」 1969 リーナス・トーバルズ 1984 マーク・ザッカーバーグ 1932 2017 ロバート・テイラー 1941 2011 デニス・リッチー 1942 ブライアン・カーニハン 1941 アルフレッド・エイホ 1942 ピーター・ワインバーガー 1942 マイク・マークラ 1943 ケン・トンプソン 1938 アイバン・サザランド 1950 ビャーネ・ストロヴストルップ 1956 グイド・ヴァンロッサム 1955 ビル・ゲイツ 1990 ハッブル宇宙望遠鏡打ち上げ 2009 SF映画『スター・トレック』 1929 2021 キャロライン・シューメーカー 2001 9.11全米同時多発テロ 1957 2011 オサマ・ビン・ラディン 1924 2018 ジョージ・ブッシュ 1946 クリントン 1946 ジョージ・W・ブッシュ 1989 ベルリンの壁崩壊 1917 2008 アーサー・C・クラーク 1942 2018 スティーブン・ホーキング 1926 2022 エリザベス2世 1931 ロジャー・ペンローズ 1931 2007 エリツィン 1931 2022 ゴルバチョフ 1952 プーチン 1965 メドヴェージェフ 1989 天安門事件 1921 2008 華国鋒 1919 2005 趙紫陽 1926 2022 江沢民 1926 2016 フィデル・カストロ Tooltip

参考サイト

(この項おわり)
header