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宇宙線のひみつ | ||
著者 | 藤井 俊博 | ||
出版社 | 講談社 | ||
サイズ | 新書 |
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発売日 | 2025年07月17日頃 | ||
価格 | 1,320円(税込) | ||
ISBN | 9784065404294 |
粒子加速器で $ 10^{20} $電子ボルトのエネルギーまで到達させるためには、「10まんボルト」が使えるピカチュウなら1000兆匹が必要、ただし「1000まんボルト」を使える超全力のピカチュウなら10兆匹いれば大丈夫
概要

2021年5月27日に、米ユタ州の砂漠地帯でにある北半球最大の宇宙線観測所「テレスコープアレイ実験」で、観測史上最高クラスのエネルギーをもつ宇宙線「アマテラス粒子」を発見した、大阪公立大学大学院理学研究科准教授の藤井俊博さんの著書である。藤井さんは、2022年2月にサイエンス誌へ論文を投稿し、2023年11月24日にその論文が公開された。
アマテラス粒子のエネルギー量は244エクサ電子ボルト(2垓4,400京ボルト)もあり、ピカチュウなら24兆匹、「君のひとみは10000ボルト」なら2.4京個の「君のひとみ」が必要な計算だ。もしこのようなエネルギーをもつ粒子を1グラム集めることができれば、日本全体の年間電気使用量(約1000テラワット時)を約1000万年分もまかなうことができる。アマテラス粒子は、有力な発生源としての候補天体がほとんどない「局所的空洞」と呼ばれる方向から来たという。
藤井さんは、1991年に発見された観測史上最強の極高エネルギー宇宙線「オーマイゴッド粒子」(320エクサ電子ボルト)に倣い、また、アメリカ現地時間の明け方に検出されたことなどから、アマテラス粒子と命名したのだが、それが Twitter(現・X) の日本トレンド1位になるとは予想していなかったという。

宇宙線をシンプルに定義すれば、「宇宙空間に存在する高エネルギーの粒子で、放射線の一種」ということになる。広義には、陽子、中性子、原子核、電子、陽電子、ニュートリノ、光子、重力波なども、宇宙線に含まれるが、研究者が宇宙線と言うときは、「電荷をもった原子核」を指すことがほとんどだ。宇宙線の「エネルギー」がひと桁大きくなると、「頻度」は同じエネルギー幅とくらべて約3桁も低下する。
藤井さんは、1991年に発見された観測史上最強の極高エネルギー宇宙線「オーマイゴッド粒子」(320エクサ電子ボルト)に倣い、また、アメリカ現地時間の明け方に検出されたことなどから、アマテラス粒子と命名したのだが、それが Twitter(現・X) の日本トレンド1位になるとは予想していなかったという。

宇宙線をシンプルに定義すれば、「宇宙空間に存在する高エネルギーの粒子で、放射線の一種」ということになる。広義には、陽子、中性子、原子核、電子、陽電子、ニュートリノ、光子、重力波なども、宇宙線に含まれるが、研究者が宇宙線と言うときは、「電荷をもった原子核」を指すことがほとんどだ。宇宙線の「エネルギー」がひと桁大きくなると、「頻度」は同じエネルギー幅とくらべて約3桁も低下する。
![霧箱 - [/athome/album/2025/album20250516-11.html#img20250516-123616:title=日本科学未来館] @date@撮影](/athome/album/2025/img20250516-123616r.jpg)
霧箱 - 日本科学未来館 2025年5月16日撮影
1897年に、C・T・R・ウィルソンが発明した霧箱によって、身の回りに存在する放射線を可視化できるようになった。当初、放射線は地中からやってくるものだと考えられていたが、1912年に、V・F・ヘスが気球を使って上空 5キロメートルまでに存在する放射線量を測定した。すると、上空に向かうにつれて放射線量は増えることが判明し、宇宙線が発見された。
ヘスによる7度目の気球実験が着陸した1912年の8月7日は、「宇宙線の発見の日」とされた。1936年に、ヘスはノーベル物理学賞を受賞した。
ヘスの発表した論文では「宇宙放射線(cosmic radiation)」という用語を使ったが、1925年にロバート・ミリカンが発表した論文では「宇宙起源の高周波線(High frequency rays of cosmic origin)」という呼び方に変わった。

宇宙線は光速に近い速度で飛んでくるため、特殊相対論効果によって寿命が延びる。たとえば、約2.2マイクロ秒の寿命しかないミューオンは光速で飛んだとしても700メートルしか進めないが、実際には特殊相対論効果によって時間の進み方が遅れ、上空10キロメートルでつくられたミューオンが地上まで到達する。
1930年に B・ロッシは宇宙線は電荷を持っており、地磁気によって曲がることを予言し、1933年にはT・H・ジョンソンやE・C・スティーブソンによって確認された。
1938年、P・オージェは、複数の検出器が同時にシグナルを検出したことから、大気に突入した宇宙線がシャワー状に粒子群を撒き散らす空気シャワーを発見した。どれくらいの範囲に空気シャワーが広がっているかを測定すると、1次宇宙線のエネルギーを推定することができる。
ヘスの発表した論文では「宇宙放射線(cosmic radiation)」という用語を使ったが、1925年にロバート・ミリカンが発表した論文では「宇宙起源の高周波線(High frequency rays of cosmic origin)」という呼び方に変わった。

宇宙線は光速に近い速度で飛んでくるため、特殊相対論効果によって寿命が延びる。たとえば、約2.2マイクロ秒の寿命しかないミューオンは光速で飛んだとしても700メートルしか進めないが、実際には特殊相対論効果によって時間の進み方が遅れ、上空10キロメートルでつくられたミューオンが地上まで到達する。
1930年に B・ロッシは宇宙線は電荷を持っており、地磁気によって曲がることを予言し、1933年にはT・H・ジョンソンやE・C・スティーブソンによって確認された。
1938年、P・オージェは、複数の検出器が同時にシグナルを検出したことから、大気に突入した宇宙線がシャワー状に粒子群を撒き散らす空気シャワーを発見した。どれくらいの範囲に空気シャワーが広がっているかを測定すると、1次宇宙線のエネルギーを推定することができる。

ベル研究所のホーンアンテナ
1965年に宇宙マイクロ波背景放射が発見されると、G・T・ザチェピンとV・A・クズミンがそれぞれ独立に、50エクサ電子ボルトよりも大きいエネルギーをもった陽子は、宇宙マイクロ波背景放射とデルタ粒子の共鳴反応を経てパイ中間子を生成するため、エネルギーを大きく失い、宇宙線のもつエネルギーには上限が存在するという「GZK限界」を予言する。
GZK限界の反応が起こるまでに進む距離は約1.5億光年と算出され、50エクサ電子ボルト以上の宇宙線は比較的近傍の宇宙空間からやって来ると予想された。1962年に100エクサ電子ボルトの宇宙線が検出された。

宇宙線は、われわれの生活にどう影響を及ぼしているのだろうか。
宇宙線は、紫外線では届かない部分にも貫通できるため、原始惑星系円盤を駆動するために必要なエネルギーを供給していたと考えられる。
地球の生命はL体アミノ酸から構成されるが、生命誕生時に降り注いだ宇宙線の影響でD体とL体のバランスが崩れたのかもしれない。太陽活動が活発な時期は太陽圏の磁場が強くなり、また太陽風が強く吹くことで地磁気が圧縮され、結果的に宇宙線が曲げられて地上に届きにくくなる。霧箱と同じ原理で、宇宙線が大気圏に突入すると雲を生成するきっかけになる。

宇宙線は、われわれの生活にどう影響を及ぼしているのだろうか。
宇宙線は、紫外線では届かない部分にも貫通できるため、原始惑星系円盤を駆動するために必要なエネルギーを供給していたと考えられる。
地球の生命はL体アミノ酸から構成されるが、生命誕生時に降り注いだ宇宙線の影響でD体とL体のバランスが崩れたのかもしれない。太陽活動が活発な時期は太陽圏の磁場が強くなり、また太陽風が強く吹くことで地磁気が圧縮され、結果的に宇宙線が曲げられて地上に届きにくくなる。霧箱と同じ原理で、宇宙線が大気圏に突入すると雲を生成するきっかけになる。

スーパーカミオカンデの光電子増倍管 - 日本科学未来館 2025年5月16日撮影
宇宙線の観測装置としては、大気蛍光望遠鏡、チェレンコフ望遠鏡、地表粒子検出器アレイなど様々なものがあり、国際宇宙ステーションに搭載されているものもある。また、すばる望遠鏡では、1枚の写真を撮るときに平均して150秒間の光を集めるが、除去したノイズを集めると、それが宇宙線であることが可視化できる。
宇宙線はどこからやって来るのか、どこで加速されるのか――超新星の残骸、中性子星、巨大ブラックホール、ガンマ線バーストなど、さまざまな候補があるが、これ以外にも、現代科学では未解明のダークマターやモノポールに由来するという説もある。最近の研究で、天の川銀河での宇宙線の発生源が超新星残骸や中性子星である証拠が少しずつ明らかになってきているという。
最新の観測で、10エクサ電子ボルト以上のエネルギーをもつ宇宙線の到来方向の分布に偏りがあり、近傍の銀河が多く存在する方向とおおむね矛盾しないことがわかってきた。つまり、10エクサ電子ボルト以上のエネルギーをもつ宇宙線は、天の川銀河より離れた系外起源の宇宙線であったことを指示している。さらに50エクサ電子ボルト以上になると、近傍の宇宙大規模構造である「超銀河面」に沿って分布している。しかし、100エクサ電子ボルト以上では、分布の偏りが見られない。
アマテラス粒子の到来方向近くに「PKS 1717+177」という活動銀河核がある。だが、距離は約18億光年で、GZK限界よりもはるかに遠い。現時点で、アマテラス粒子の出自は分かっていない。
2030年代にかけ、現行の宇宙線観測施設の拡充計画があり、さらに近い将来、宇宙空間から観測する装置や、木星すべての大気に入射する宇宙線を検出する「スーパーゴッズアイ計画」も考えられる。この規模になると、1ヨタ電子ボルトの宇宙線を検出できるようになり、ビッグバンの謎に迫ることができるかもしれない。
あまてらす まだ観ぬ宇宙の みちしるべ
最新の観測で、10エクサ電子ボルト以上のエネルギーをもつ宇宙線の到来方向の分布に偏りがあり、近傍の銀河が多く存在する方向とおおむね矛盾しないことがわかってきた。つまり、10エクサ電子ボルト以上のエネルギーをもつ宇宙線は、天の川銀河より離れた系外起源の宇宙線であったことを指示している。さらに50エクサ電子ボルト以上になると、近傍の宇宙大規模構造である「超銀河面」に沿って分布している。しかし、100エクサ電子ボルト以上では、分布の偏りが見られない。
アマテラス粒子の到来方向近くに「PKS 1717+177」という活動銀河核がある。だが、距離は約18億光年で、GZK限界よりもはるかに遠い。現時点で、アマテラス粒子の出自は分かっていない。
2030年代にかけ、現行の宇宙線観測施設の拡充計画があり、さらに近い将来、宇宙空間から観測する装置や、木星すべての大気に入射する宇宙線を検出する「スーパーゴッズアイ計画」も考えられる。この規模になると、1ヨタ電子ボルトの宇宙線を検出できるようになり、ビッグバンの謎に迫ることができるかもしれない。
あまてらす まだ観ぬ宇宙の みちしるべ
レビュー

「偶然も努力のうち」と言われるが、かつて、カミオカンデを使って超新星爆発からのニュートリノを観測し、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さん(本書でも触れられている)のように、藤井俊博さんも相当な努力をされてきたのだろう。テレスコープアレイ実験には多くの研究者が参加しているので、論文を上梓するまでに彼らの了解を得なければならないこと、地上にある多くの検出器は故障したり、壊されたりもする。そうした努力の跡を見せずに、一般読者向けに書かれた本書は、淡々とした筆致の中に迫力を感じさせる。それと、アマテラス粒子をバズらせたのは、1985年生まれの藤井さんならではだと思う。
アマテラス粒子発見の報は、私もネットニュースで読んだが、宇宙線というと、大気圏外からやって来るなどの放射線、それが増えると雲が増える、という程度の知識しかなかった。これまで宇宙の観測といえば、光やX線、電波を使った電磁波で行うものだと思っていたが、宇宙線を組み合わせたマルチメッセンジャー天文学を駆使することで、ビッグバンの瞬間に迫ることもできるという。目から鱗が落ちた思いだ。

そういえば学生の頃、流線観測をしていて、流星が大気をイオン化することで一時的に遠方からのFM電波が反射し、これを複数箇所で観測し、流星の立体的な位置を特定していた。さらに光学写真を組み合わせることで、観測の精度が上がる。これらは普段全く交流のない学校や団体との協同作業であり、目的のために一致団結できることは天文学の意外な効用だと思う。
天文学は明日の生活の役には立たないかもしれないけれど、地域や国を超えて協力できるというのは、とても大切なことではないだろうか。
藤井俊博さんの今後の活躍を期待したい😀

そういえば学生の頃、流線観測をしていて、流星が大気をイオン化することで一時的に遠方からのFM電波が反射し、これを複数箇所で観測し、流星の立体的な位置を特定していた。さらに光学写真を組み合わせることで、観測の精度が上がる。これらは普段全く交流のない学校や団体との協同作業であり、目的のために一致団結できることは天文学の意外な効用だと思う。
天文学は明日の生活の役には立たないかもしれないけれど、地域や国を超えて協力できるというのは、とても大切なことではないだろうか。
藤井俊博さんの今後の活躍を期待したい😀
(2025年7月25日 読了)
参考サイト
- 宇宙線のひみつ:講談社
- Toshihiro FUJII@pagochan:Twitter(現・X)
- 宇宙線物理学研究室:大阪公立大学
参考書籍
- 『宇宙線のひみつ』(藤井俊博,2025年7月)
- 『宇宙が見える数学』(小笠英志,2024年10月)
- 『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』(浅田 秀樹,2024年06月)
- 『多元宇宙(マルチバース)論集中講義』(野村泰紀,2024年03月)
- 『重力のからくり』(山田 克哉,2023年08月)
- 『宇宙・0・無限大』(谷口義明,2023年06月)
- 『時間の終わりまで』(ブライアン・グリーン/青木 薫,2023年05月)
- 『宇宙検閲官仮説』(真貝寿明,2023年02月)
- 『宇宙最強物質決定戦』(高水裕一,2023年02月)
- 『なぜ宇宙は存在するのか』(野村泰紀,2022年4月)
- 『宇宙を支配する「定数」』(臼田孝,2022年2月)
- 『物理学者、SF映画にハマる』(高水裕一,2021年10月)
- 『宇宙人と出会う前に読む本』(高水裕一,2021年7月)
- 『宇宙の終わりに何が起こるのか』(ケイティ・マック,2021年9月)
- 『宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅』(谷口義明,2020年07月)
- 『時間は存在しない』(カルロ・ロヴェッリ,2019年8月)
- 『宇宙はなぜ哲学の問題になるのか』(伊藤邦武,2019年8月)
- 『宇宙は「もつれ」でできている』(ルイーザ・ギルダー/山田 克哉/窪田 恭子,2016年10月)
- 『超巨大ブラックホールに迫る』(平林久,2017年02月)
- 『時間はどこで生まれるのか』(橋元淳一郎,2016年12月)
- 『真空のからくり』(山田 克哉,2013年10月)
- 『時間泥棒』(J.P.ホーガン,1995年12月)
- 『ホーキング 宇宙の始まりと終わり? 私たちの未来』(スティーヴン・ウィリアム・ホーキング/向井国昭,2008年10月)
- 『宇宙消失』(グレッグ・イーガン/山岸真,1999年08月)
(この項おわり)