
山片蟠桃『夢ノ代』
大阪の両替商・升屋の経営を立て直した大番頭の山片蟠桃は、1802年(享和2年)に天文、宗教、経済、歴史等を百科全書的に論じた『夢ノ代』の執筆に着手。冒頭の天文編では、地動説や万有引力の法則を紹介し、オルバースのパラドックスに気づき、無限宇宙と宇宙人の存在にまで想像を広げた。刊行の途中で失明するが、1820年(文政3年)に全12巻を完成させる。

山片蟠桃
山片蟠桃は1811年(文化8年)に彗星の観察記録を残しており、それがニュートン力学にしたがって運動している太陽系内天体であることを確認している。西洋からもたらされた書物の内容を仮説として、自ら検証する姿勢は、今日の科学者と何ら変わるところがない。こうした市井の啓蒙活動が、1869年(明治2年)の明治維新をして、わが国の産業革命をもたらしたのである。
参考書籍
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江戸の宇宙論 | ||
著者 | 池内 了 | ||
出版社 | 集英社 | ||
サイズ | 新書 | ||
発売日 | 2022年03月17日頃 | ||
価格 | 1,034円(税込) | ||
ISBN | 9784087212068 | ||
19世紀初頭、実は日本の天文学は驚くべき水準に達していたーー。 知られざる「天才」たちの活躍を通して、江戸の科学史の側面を描いた画期的一冊! 今日ではノーベル物理学賞を獲得する水準に至った日本の天文学研究。 そのルーツを辿ると、江戸時代後期の「天才たち」の功績にまで遡る。 「重力」「遠心力」「真空」など現在でも残る数多の用語を生み出した翻訳の達人・志筑忠雄。 「無限の広がりを持つ宇宙」の姿を想像し、宇宙人の存在さえ予言した豪商の番頭・山片蟠桃。 そして超一流の絵師でありながら天文学にも熱中し、人々に地動説などを紹介した司馬江漢。 彼らはそれぞれ長崎通詞(オランダ語の通訳者)・豪商の番頭・画家という本業を持ちつつ、好奇心の赴くままに宇宙に思いを馳せたのであった。 本書は現代日本を代表する宇宙物理学者が、江戸時代後期を生きた知られざる天才たちとその周辺人物らによる破天荒な活躍を負いつつ、日本の天文学のルーツに迫った驚きの科学史である。 【目次】 はじめに第一章 蘭学の時代第二章 長崎通詞の宇宙 2─1 志筑忠雄という人 2─2 『暦象新書』と無限宇宙論 第三章 金貸し番頭の宇宙 3─1 山片蟠桃という人 3─2 大宇宙論の展開 終 章 「歴史の妙」補 論 日本と世界の認識 補論─1 志筑忠雄の『鎖国論』をめぐって 補論─2 山片蟠桃の世界認識 あとがき【著者略歴】 池内 了(イケウチ サトル) 1944年兵庫県生まれ。京都大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学/京都大学)。名古屋大学名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。 『お父さんが話してくれた宇宙の歴史』(岩波書店、全4巻)で産経児童出版文化賞JR賞および日本科学読物賞を、『科学の考え方・学び方』(岩波ジュニア新書)で講談社出版文化賞科学出版賞(現・講談社科学出版賞)を、『科学者は、なぜ軍事研究に手を染めてはいけないか』(みすず書房)で第73回毎日出版文化賞特別賞を受賞。 その他の著書は『物理学と神』(講談社学術文庫)、『宇宙論と神』『司馬江漢』(いずれも集英社新書)、『科学・技術と現代社会 上・下』(みすず書房)、『科学者と戦争』『科学者と軍事研究』(いずれも岩波新書)など多数。 | |||
この時代の世界
(この項おわり)