シャープ「MZ-1500」でパソコンデビュー

1984年9月 購入
MZ-1500
シャープのパソコン「MZ-1500」を購入した。それまで、ワンボードマイコンを組み立てたり、プログラム電卓でプログラミングしたことはあったが、パーソナル・コンピュータを購入したのは、これが初めてである。
大学では電算実習でFACOMを使ってFORTRANでプログラミングを学び、先輩のPC-8801mkIIを使って「信長の野望」で遊び、研究室にあったPC-9801VMを使って「一太郎」で原稿を作成してきたのだが、いざ自分で買おうとしても、ディスクドライブを搭載したPCには手が届かない。そんな中発売された MZ-1500 は“クイックディスクドライブ”を搭載しながら89,800円という破格の値段――が、騙された。

目次

クイックディスク

クイックディスク
クイックディスク(QD)というのは、見た目は3.5インチ・フロッピーディスクを二回り小さくしたような形をしているが、構造的にはカセットテープの延長線上にある。つまり、シーケンシャルアクセスのみで、フロッピーディスクのようにランダムアクセスができない。
シーケンシャルアクセスというのは、メディアの指定された場所から順次データを読み書きする方式のことである。
バックアップ用のテープ装置のように、一度に大量のデータを保存し、あとで何度も読み出すようなことがない場合には便利なのだが、細切れのデータを自由に読み書きすることはできない。
シーケンシャルアクセス
クイックディスクの場合、片面64Kバイト、両面128Kバイトの容量があるが、左図のようにデータが記録されているトラックが螺旋状になっており、ドライブの構造を単純化させたことでシーケンシャルアクセス(※1)しかできない。それでもカセットテープより高速に読み書きができるので、後述するクリーンコンピュータにするには打って付けだった。
ランダムアクセス
一方、フロッピーディスクの場合、左図のようにトラックが同心円状になっており、ヘッドを移動させることで、自由にトラックの間を行き来し、指定したトラックを読み書きできるようになっている。
さらに、1つのトラックの中が複数のセクタに別れており、実際にはセクタ単位で読み書きが可能になっている。これはハードディスクも同じである。
クイックディスクのジャケットの厚み、形状を変更した「ファミリーコンピュータ ディスクカード」が、任天堂のファミリーコンピュータ・ディスクシステムで採用されている。
(※1)プログラムやデータは、DATA FILEという可変長のファイル構造(BTX、OBJ、BSD形式)によって読み書き可能になっているが、ドライブ構造を簡素化してコストダウンをはかったことから、ディスクアクセスの時には一度最外周までヘッドを移動してから読み書きを行うというシーケンシャルアクセスしかできない。

トライアングル設計

メモリマップ
シャープは、他社に比べて非力な性能を補うべく、大仰なキャッチフレーズを用いるのが好きだった。MZ-1500 は「トライアングル設計」というキャッチフレーズがついた。

1つ目はクイックディスクの搭載。これは先述の通り。

2つ目は クリーンコンピュータ――システムプログラムは外部記憶メディアから主記憶に読み込んでスタートする仕組みなっていた。いまでこそ当たり前の仕組みなのだが、当時はまだ珍しかった。
MZ-80K試作機で、ROMに収めたシステムプログラムにバグがあり、これを交換することが難しかったため、交換が容易な外部記憶メディアを読み込む方式に変えたという経緯がある。怪我の功名ではあるものの、シャープがクリーンコンピュータというフレーズを積極的に使うようになるのは、1980年(昭和55年)の製品カタログや解説書からになる。
1978年(昭和53年)11月に発売された MZ-80K(※2)では、別売のカセットテープからBASICインタプリタを読み込めるようになった(SP-5010、5020、5030の3つのバージョンが販売された)。だが、テープの読み込むに数分かかり、シャープのパソコンを起動している間にインスタント麺が茹で上がるというネタになったほどである。
それがクイックディスクになり、ほんの数秒でBASICインタプリタが起動できるようになった。これは、Windowsを起動するより早いかもしれない。

3つ目は RAMファイル――オプションではあるが、クイックディスクは64Kバイトを一気に読み書きするバッファメモリが用意されている。
だが、MZ-1500 のCPU [Z80 は64Kバイトのメモリしか扱うことができないから、バッファだけで全メモリを使い切ってしまう。
そこで、Z80 I/Oアドレス空間が16ビット(64Kバイト)であることを利用し、メモリアクセスとは別に、64Kバイト分のバッファ(RAMファイル)を制御することに成功している。
無い袖が振れないなら、他所からパッチ用の布地を持ってこよう――このアイデアを考えついた技術者は大したものである。
BASICや機械語からは、このRAMファイルにランダムアクセスすることができるようになっている。
(※2)東京大学が運営する近代科学資料館には、後継機の MZ-80B が常設展示されている。

テレビがモニタ代わりに

MZ-1500 BASIC
MZ-1500 にはデジタルRGB出力端子が内蔵されているが、当時、パソコン用のRGBモニタは高価であった。
そこで、コンポジットビデオ出力端子やRF出力端子も内蔵されている。とくにRF出力は、ファミコンと同じで、テレビの1チャンネルまたは2チャンネルで見ることができた。
テキスト表示は40文字×25行、グラフィック表示は320×200ドットと低解像度であり、テレビでも十分に見ることができたのである。
というわけで、しばらくは家のテレビをモニタ代わりに使っていた。

漢字ROMボードと辞書ROMボード

MZ-1500 漢字ROM
JIS第一水準だけではあるが、オプションで漢字ROMボードが用意されている。
ユニークなのは、辞書ROMボードである。
当時、PC-8801mkIIやPC-9801VMのように、ランダムアクセス可能なフロッピーディスクドライブを搭載しているパソコンでは、フロッピー上に日本語変換辞書を持たせていた。登場したばかりの ATOK もこの方式であった。
QDしか持たない MZ-1500 は、シャープのワープロ専用機「書院」で培ってきた辞書ROMをオプションとして販売したのである。
結局、辞書ROMをサポートしたワープロソフトはユーカラJJしか販売されなかったが、16ビットPCにも引けをとらないスピードで日本語変換ができた。

PCGとゲーム

グラフィックは PCG(Programmable Character Graphic)という特殊なハードで実現している。
これは、8×8ドット、8色から任意の色指定ができるキャラクタを1024個定義できるというものである。ここで、横方向に40個、縦方向に25個のキャラクタを並べると、(8×40)×(8×25)=320×200ドットの疑似グラフィックを描くことが可能となる。
付属のS-BASICにはLINEやCIRCLEといったグラフィック命令が用意されているが、これは内部的にPCGを定義することで実現している。ただし、8色混在グラフィックを描画するには工夫が必要であった。また、PCGへのデータ書き込みは水平ブランキング期間に行うというハードウェア制約があり、グラフィック描画に時間がかかった。
一方、あらかじめPCGを定義しておけば表示やスクロールは高速で、後述するように、アーケードゲームの移植が行われた。

ハドソンが販売する HuBASIC は、グラフィック命令がN88-BASICやF-BASICに近く、タイリングペイントを行うことが可能であった。
ドルアーガの塔
一方で、ハードから見た場合にはキャラクタを操作しているので、画面上の移動は用意であった。さらに、320×200ドットを使っても、PCGは24個余るので、この余りを自機や敵キャラに割り当てて、グラフィック上を自在に動かすことができた。
SN76489チップを2個使ったPSGステレオ音源が利用できることも相まって、「パックマン」「ギャラガ」「ドルアーガの塔」といったアーケードゲームが移植された。
サンダーフォース
ゼビウスをベースに開発されたサンダーフォースは、8方向に高速スクロールするうえ、PSGによる音声合成で「サンダーフォース」と叫んだものである。

MZ-1500 ではゲームで遊びことが多く、本格的にプログラミングを始めるのは1年後に購入する MZ-2500 からであった。
スペック
項目 仕様 コメント
CPU Z80A
約3.58MHz
 
RAM 64KB  
テキストおよびアトリビュートVRAM 4KB
40文字×20行(8色)
 
グラフィックVRAM 24KB
320×200ドットと24文字のPCG(8色)または1000文字(1024文字)のPCG(8色)
ROM MZ-700互換モニタ(1Z-009B) 4KB
MZ-1500用モニタ(9Z-502M) 8KB
CGROM 4KB
JIS第1水準の漢字ROMボードはオプション
サウンド SN76489×2 6オクターブ・3重和音+1ノイズのステレオ出力が可能
内蔵スピーカー出力は最大500mW
外部記憶装置 5インチ 2DD×2台 別売品
ボイスレコーダー クイックディスクドライブ×1 片面64KB、両面使用時128KB
拡張スロット 汎用拡張I/Oスロット×1
RAMファイル専用スロット×1
ボイスボード専用スロット×1
 
インターフェース デジタルRGB出力(8ピンDIN)×1
コンポジットビデオ出力×1
RF出力×1
ジョイスティック×2
データレコーダ用端子×1
プリンター(セントロニクス準拠)×1
 
同梱ソフト QD BASIC  
消費電力 28W  
外形寸法(突起部除く) 幅440mm×奥行305mm×高さ109mm  
質量 約5kg  

1984年までに発売された主なパソコン

メーカー
機種
発売時期
定価
CPU OSなど 主記憶
外部記憶
画像表示
MITS
Altair 8800
1974年12月
約400ドル~
8ビット
8080
2MHz
ROM なし 256バイト なし
IBM
IBM 5100
1976年5月
約400万円~
16ビット
IBM PALM
約1.9MHz
ROM 54Kバイト~
APL, BASIC
16~64Kバイト
別売磁気テープ
5インチ
モノクロ
Apple
Apple II
1977年4月
約30万円
8ビット
MOS6502
約3.58MHz
ROM 8Kバイト
6K BASIC
4~64Kバイト
別売FDD
280×192ドット
6色カラー
シャープ
MZ-80K
1978年11月
19万8千円
8ビット
Z80A 2MHz
ROM:
12K BASIC
20~48Kバイト
カセットテープ
320×200ドット
モノクロ
富士通
FM-8
1981年5月
21万8千円
8ビット
メイン:
68A09 1.2MHz
サブ:
6809 1.0MHz
ROM:
F-BASIC
64Kバイト
別売FDD,バブルカセット
640×200ドット
8色カラー
別売漢字ROM
IBM
IBM PC
1981年8月
34万5千円
16ビット
8088 4.77MHz
ROM:
IBM BASIC
FD:PC-DOS
16~256Kバイト
FDD
640×200ドット
モノクロ
NEC
PC-8801
1981年9月
22万8千円
8ビット
Z80A 4MHz
ROM:
N-BASIC
N88-BASIC
別売漢字ROM
64Kバイト
カセットテープ
別売FDD
640×200ドット
8色カラー
シャープ
MZ-2000
1982年7月
21万8千円
8ビット
Z80A 4MHz
ROM:
BOOT ROM
64Kバイト
カセットテープ
640×200ドット
8色カラー(オプション)
NEC
PC-9801
1982年10月
29万8千円
16ビット
8086 5MHz
ROM:
N88-BASIC
別売漢字ROM
FDD:MS-DOS
CP/M-86
OS/2
128Kバイト
別売FDD
640×400ドット
8色カラー
富士通
FM-7
1982年11月
12万6千円
8ビット
68B09 8MHz
ROM:
F-BASIC
FDD:OS-9
64Kバイト
別売FDD,バブルカセット
640×200ドット
8色カラー
別売漢字ROM
PSG 3音
シャープ
X1
1982年11月
15万5千円
8ビット
Z80A 4MHz
ROM:
BOOT ROM
カセットテープ:Hu-BASIC
64Kバイト
カセットテープ
別売FDD
640×200ドット
8色カラー(オプション)
PSG 3音
シャープ
MZ-700
1982年11月
7万9800円
8ビット
Z80A 3.6MHz
ROM:
BOOT ROM
カセットテープ:S-BASIC
64Kバイト
カセットテープ
別売FDD
40桁×25行
8色カラー
ソニー
SMC-777
1983年9月
14万8千円
8ビット
Z80A 4MHz
ROM:
777-BASIC
LOGO
FDD:CP/M
64Kバイト
FDD
640×200ドット
4色カラー
PSG 3音
シャープ
MZ-5500
1983年9月
21万8千円~
16ビット
8086 5MHz
ROM:
BOOT ROM
漢字ROM
辞書ROM
128~256Kバイト
FDD
640×400ドット
8色カラー
PSG 3音
NEC
PC-100
1983年10月
39万8千円
16ビット
8086 7MHz
ROM:
N88-BASIC
別売漢字ROM
FDD:MS-DOS
N88-DISK BASIC
128~768Kバイト
FDD
720×512ドット
16色カラー
Apple
Macintosh
1984年1月
69万8千円
16ビット
68000 8MHz
ROM:
System 1.0~
128~768Kバイト
FDD
512×342ドット
モノクロ
富士通
FM-77
1984年5月
19万8千円
8ビット
68B09 8MHz
ROM:
F-BASIC
FDD:OS-9
64~256Kバイト
FDD
640×200ドット
8色カラー
別売漢字ROM
PSG 3音
IBM
IBM PC/AT
1984年8月
--
16ビット
80286 6MHz
ROM:
IBM BASIC
FD:PC-DOS
OS/2
256~512Kバイト
FDD
640×350ドット
16色カラー
シャープ
X1 turbo
1984年11月
16万8千円~
8ビット
Z80A 4MHz
FDD:Hu-BASIC
漢字ROM
64Kバイト
FDD
640×400ドット
8色カラー
PSG 3音
富士通
FM-16β
1984年12月
35万円~
16ビット
80186 8MHz
FDD:CP/M-86K
MS-DOS
漢字ROM
512K~1Mバイト
FDD
別売HDD
640×400ドット
16色カラー

参考サイト

参考書籍

表紙 DIGITAL RETRO
著者 ゴードン・ライング/森美樹
出版社 トランスワールドジャパン
サイズ 単行本
発売日 2006年09月
価格 3,300円(税込)
ISBN 9784925112659
本書は、70〜80年代に登場した市場に革命をもたらし、あるいはひっそりと消えていった家庭用コンピューターを、開発秘話からその後の展開まで、詳細にわたって紹介している。シンクレア社の精密な技術、エイコーン社「アルキメデス」の素晴らしいつくり。また、IBM社とクローン製の戦いやアップル社の動乱期など、世界中で起こったコンピュータ史に残る出来事もカバー。
 
表紙 ザイログZ80伝説
著者 鈴木哲哉
出版社 ラトルズ
サイズ 単行本
発売日 2020年08月24日頃
価格 2,398円(税込)
ISBN 9784899774815
約半世紀に渡ってマニアを魅了し続けるZ80の、あの話とかこの話とか。
 

これまでお世話になったコンピュータ

ぱふぅ家の歴代パソコン
(この項おわり)
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