シリーズ概要

『チ。-地球の運動について-』は、魚豊さんが、「ビッグコミックスピリッツ」2020年9月から2022年4月まで連載していた漫画で、15世紀のヨーロッパを舞台に、禁じられた地動説を命がけで研究する人間たちの生き様と信念を描いている。
ジョルダーノ・ブルーノの火刑やガリレオ裁判の史実を逆手にとったフィクションであるが、最後にどんでん返しが用意されている。2024年10月から2025年3月までNHK総合にてテレビアニメが放送された。
チ。-地球の運動について- 第1巻
フベルト「不正解は無意味を意味しない。」
舞台は15世紀前期のP王国――C教の異端審問官ノヴァクはネグリを拷問し、異端研究の資料のありかを聞き出そうとしていた。
一方、合理的に生きることを信条とする12歳の少年ラファウは、大学への切符を手に入れ、神学を専攻するという。だが、本心では天文学の研究をしたかった。ラファウの義父で聖職者のポトツキは、ラファウに、異端者として捕まっていた学者フベルトの引き取りを命じた。アストロラーベを持ち歩いているラファウを見たフベルトは、やり残した研究があるからフベルトに天体観測を手伝えと脅迫する。
フベルトが唱える「地動説」は、教会が教える「天動説」に比べて合理的であり、ラファウは美しいと思ってしまった。
ラファウの研究ノートを発見したノヴァクは、「何コレ?」とラファウに問いかける。そこにフベルトが現れ、ノヴァクに「私の物だ」と言う。フベルトはラファウに惑星のネックレスを渡す。「やり残したことは!?」と問いかけるラファウに、ブベルトは「たった今やったよ」と答える。フベルトは焼かれて死んだ。
フベルトの研究資料を燃やすことができなかったラファウは、大学で天文を学ぶと宣言し、フベルトから託された惑星のネックレスをつけて、「地球を動かす」と決意する。

ポトツキには異端の前科があった。ノヴァクはポトツキに「火刑において肉体的苦痛なんて些細なことだ。肉体が灰になっちまうんだ。最後の審判で復活する身体がなくなる」と警告する。捕まったラファウは、異端裁判で「僕は、地動説を信じています」と宣言する。ラファウは、牢屋で毒をあおって死に、燃やされて灰になってしまった。

10年後――ラファウが隠した研究書類が詰まった箱が発見される。
一方、合理的に生きることを信条とする12歳の少年ラファウは、大学への切符を手に入れ、神学を専攻するという。だが、本心では天文学の研究をしたかった。ラファウの義父で聖職者のポトツキは、ラファウに、異端者として捕まっていた学者フベルトの引き取りを命じた。アストロラーベを持ち歩いているラファウを見たフベルトは、やり残した研究があるからフベルトに天体観測を手伝えと脅迫する。
フベルトが唱える「地動説」は、教会が教える「天動説」に比べて合理的であり、ラファウは美しいと思ってしまった。
ラファウの研究ノートを発見したノヴァクは、「何コレ?」とラファウに問いかける。そこにフベルトが現れ、ノヴァクに「私の物だ」と言う。フベルトはラファウに惑星のネックレスを渡す。「やり残したことは!?」と問いかけるラファウに、ブベルトは「たった今やったよ」と答える。フベルトは焼かれて死んだ。
フベルトの研究資料を燃やすことができなかったラファウは、大学で天文を学ぶと宣言し、フベルトから託された惑星のネックレスをつけて、「地球を動かす」と決意する。

ポトツキには異端の前科があった。ノヴァクはポトツキに「火刑において肉体的苦痛なんて些細なことだ。肉体が灰になっちまうんだ。最後の審判で復活する身体がなくなる」と警告する。捕まったラファウは、異端裁判で「僕は、地動説を信じています」と宣言する。ラファウは、牢屋で毒をあおって死に、燃やされて灰になってしまった。

10年後――ラファウが隠した研究書類が詰まった箱が発見される。
チ。-地球の運動について- 第2巻
バデーニ「もっと端的に言うと、地球は動いていると書いてある」
金で決闘の代行を引き受ける代闘士のオクジーは、仕事仲間のグラスから火星の観測記録を見せられる。2年にわたる観測の末、天空における火星の移動が一周して円環が閉じるはずだった‥‥だが、火星は逆行を始めた。グラスは絶望に打ちひしがれた。
オクジーとグラスは異端者移送の護衛業務を引き受けた。異端者は2人に「この地球は、天国なんかよりも美しい」と語り、すべての証拠は、あの山の中腹に置かれた石箱の中にあるという。グラスは異端者を逃がそうとするが、ノヴァクに気付かれてしまう。ノヴァクの隙が無い剣の構えにオクジーは死を覚悟するが、異端者は間に入って楯となり、「歴史が君を必要としたからだ」と語り、惑星のネックレスをオクジーに手渡し絶命する。ノヴァクの追っ手を逃れたオクジーとグラスは、山の中腹で石箱を発見する。
下山途中、2人は橋の崩壊に巻き込まれ、グラスは「私が死んでもこの世界は続く。だったら、そこに何かを託せる」と言い、オクジーに観測記録とネックレスを渡すと、谷底へ落ちて命を落とす。

グラスに頼まれ、オクジーは村の聖職者バデーニに本を渡そうと現れた。バデーニはかつて、異端の禁書を読んで片目を焼かれ眼帯をしている。バデーニは石箱の中身を見て、「宇宙が変わるぞ」と断言する。バデーニから地球が動いていると説明されたオクジーは、それまで怖くて見ることが出来なかった星空を眺め、「今日の空、なんか綺麗じゃないですか?」と言った。
オクジーとグラスは異端者移送の護衛業務を引き受けた。異端者は2人に「この地球は、天国なんかよりも美しい」と語り、すべての証拠は、あの山の中腹に置かれた石箱の中にあるという。グラスは異端者を逃がそうとするが、ノヴァクに気付かれてしまう。ノヴァクの隙が無い剣の構えにオクジーは死を覚悟するが、異端者は間に入って楯となり、「歴史が君を必要としたからだ」と語り、惑星のネックレスをオクジーに手渡し絶命する。ノヴァクの追っ手を逃れたオクジーとグラスは、山の中腹で石箱を発見する。
下山途中、2人は橋の崩壊に巻き込まれ、グラスは「私が死んでもこの世界は続く。だったら、そこに何かを託せる」と言い、オクジーに観測記録とネックレスを渡すと、谷底へ落ちて命を落とす。

グラスに頼まれ、オクジーは村の聖職者バデーニに本を渡そうと現れた。バデーニはかつて、異端の禁書を読んで片目を焼かれ眼帯をしている。バデーニは石箱の中身を見て、「宇宙が変わるぞ」と断言する。バデーニから地球が動いていると説明されたオクジーは、それまで怖くて見ることが出来なかった星空を眺め、「今日の空、なんか綺麗じゃないですか?」と言った。
チ。-地球の運動について- 第3巻
ヨレンタ「文字は、まるで奇蹟ですよ」
バデーニは、石箱に入っていた書類の内容を

3人は死期が近いピャスト泊を訪問した。バデーニは単刀直入に、地動説を証明するために記録が欲しいと申し出る。ピャスト伯は、かつて、満ちた金星を見たことがあると言った。彼はそれが見間違えだという確信を得るために、オクジーに金星を観測させる――その結果こそが真理だった。ピャスト伯は2000年に及ぶ記録庫の鍵をバデーニに渡した。
- 惑星の中心は太陽である
- 軌道は真円である
- 惑星は一定の速度で運行する

3人は死期が近いピャスト泊を訪問した。バデーニは単刀直入に、地動説を証明するために記録が欲しいと申し出る。ピャスト伯は、かつて、満ちた金星を見たことがあると言った。彼はそれが見間違えだという確信を得るために、オクジーに金星を観測させる――その結果こそが真理だった。ピャスト伯は2000年に及ぶ記録庫の鍵をバデーニに渡した。
チ。-地球の運動について- 第4巻
オクジー「俺は地動説を信仰してる」
オクジーは本を書きたくて、ヨレンタから文字を教わっている。
同僚のクラボフスキは、バデーニに、なぜ学問や研究から離れないのか問うと、彼は「神が人間に与えてくださった理性を自ら放棄したくないからです」と答えた。クラボフスキは、必要以上に多くを知ろうという欲望には際限はなく、非道徳的なことまで知ろうとするようになると警告する。だが、バデーニは、既にこの世は非道徳的なことで溢れかえっており、そういう世界を変えるために「知」が必要だという。

納屋で研究を続けるバデーニは、惑星の軌道が真円だとするとピャスト伯の記録と完全に合致しないことで悩んでいた。ふと、壁を見ると、そこには惑星のネックレスがかかっていた。その日もの部分を見てバデーニは閃いた。バデーニはオクジーがパンを与えている貧民たちに、頭を貸せと言う。バデーニはオクジーに「地動説が完成した」と伝えた。

一方、ノヴァクは新人異端審問官たちを教育していた。ノヴァクは、世界を今のままに保持するために「血」が必要だと説く。
街の居酒屋で、バデーニ、オクジー、ヨレンタは地動説の完成に祝杯をあげていた。そこへノヴァクが現れた。ヨレンタはノヴァクを「私の父です」と紹介する。
ヨレンタを帰宅させたノヴァクは、バデーニとオクジーの研究が異端であることを確認する。オクジーは剣を手にすると、バデーニを捕らえようとやってきた異端審問官たちの前に立ち塞がる。
同僚のクラボフスキは、バデーニに、なぜ学問や研究から離れないのか問うと、彼は「神が人間に与えてくださった理性を自ら放棄したくないからです」と答えた。クラボフスキは、必要以上に多くを知ろうという欲望には際限はなく、非道徳的なことまで知ろうとするようになると警告する。だが、バデーニは、既にこの世は非道徳的なことで溢れかえっており、そういう世界を変えるために「知」が必要だという。

納屋で研究を続けるバデーニは、惑星の軌道が真円だとするとピャスト伯の記録と完全に合致しないことで悩んでいた。ふと、壁を見ると、そこには惑星のネックレスがかかっていた。その日もの部分を見てバデーニは閃いた。バデーニはオクジーがパンを与えている貧民たちに、頭を貸せと言う。バデーニはオクジーに「地動説が完成した」と伝えた。

一方、ノヴァクは新人異端審問官たちを教育していた。ノヴァクは、世界を今のままに保持するために「血」が必要だと説く。
街の居酒屋で、バデーニ、オクジー、ヨレンタは地動説の完成に祝杯をあげていた。そこへノヴァクが現れた。ヨレンタはノヴァクを「私の父です」と紹介する。
ヨレンタを帰宅させたノヴァクは、バデーニとオクジーの研究が異端であることを確認する。オクジーは剣を手にすると、バデーニを捕らえようとやってきた異端審問官たちの前に立ち塞がる。
チ。-地球の運動について- 第5巻
オクジー「今ある規範を疑えないなら、それも獣と大して変わらない」
ノヴァクと剣を交えるオクジーは、「死ぬ怖さなんて、この世を肯定する怖さと比べたら軽いものだ」と言い切る。だが、オクジーもバデーニも捕らえられてしまう。ノヴァクはオクジーに「何故、異端が現れるのか」と問いかける。オクジーは自由と求めるからだと言うが、ノヴァクは「自由なんて聞こえはいいが、規範がないなら獣と変わらないじゃないか」と反論する。オクジーは、「今ある規範を疑えないなら、それも獣と大して変わらない」と応じる。
ノヴァクはオクジーを拷問し、それを見せつけられたバデーニは、ついに石箱の場所を教えてしまう。バデーニとオクジーは絞首刑にされた。

父である司教にうまくとりいっているノヴァクを快く思わない息子のアントニは、新人異端審問官にヨレンタを捕らえさせ、拷問にかける。だが、新人異端審問官の一人がヨレンタを逃がす。アントニは彼を火刑にし、それをノヴァクに見せた。焼き殺されているのがヨレンタだと信じたノヴァクは意気消沈した。
一方、クラボフスキはバデーニからの手紙を見つけ、貧民たちに会った。貧民たちの頭皮には、バデーニが刺青で文字を刻み込んでいた。全部で60ページあるという。クラボフスキは「私の番なのか?」とつぶやいた。
ノヴァクはオクジーを拷問し、それを見せつけられたバデーニは、ついに石箱の場所を教えてしまう。バデーニとオクジーは絞首刑にされた。

父である司教にうまくとりいっているノヴァクを快く思わない息子のアントニは、新人異端審問官にヨレンタを捕らえさせ、拷問にかける。だが、新人異端審問官の一人がヨレンタを逃がす。アントニは彼を火刑にし、それをノヴァクに見せた。焼き殺されているのがヨレンタだと信じたノヴァクは意気消沈した。
一方、クラボフスキはバデーニからの手紙を見つけ、貧民たちに会った。貧民たちの頭皮には、バデーニが刺青で文字を刻み込んでいた。全部で60ページあるという。クラボフスキは「私の番なのか?」とつぶやいた。
チ。-地球の運動について- 第6巻
ドゥラカ「金が欲しかったら、重要なのは生産」
25年後――囚われたシュミットは、捕らえた異端審問官に向かい「君らが神を殺しているのだ」と指摘する。レヴァンドロフスキとフライは、爆薬を使ってシュミットを救出する。シュミットは教会にあった1冊の本を回収し、「地球を、動かすとしよう」と言う。

移動民族のドゥラカは叔父ドゥルーヴに「個人の自由競争で集団全体の利益を増やせるんじゃないか」と問いかける。叔父は我々の共同体は少なすぎるし、弱者を救済する仕組みがないといって反対する。ドゥルーヴは、父の死に落ち込むドゥラカに信念を持って生きろと教えたが、命惜しさにドゥラカをアントニに売ってしまう。そんなとき、ドゥラカは偶然にもシュミットたちが隠した本を読み、地動説を知ることになる。
そこへシュミットたちが本の回収に現れ、ドゥルーヴは斬り殺されてしまう。ドゥラカは本を焼くが、内容は覚えているといい、命を助けられた。シュミットたち異端解放戦線は、あの本を活版印刷を使って出版することが目的だという。それはドゥラカの見立てに合致していた。シュミットはドゥラカに「情報を解放するのだ」と言う。ドゥラカは異端解放戦線組織長ヨレンタに会う。

移動民族のドゥラカは叔父ドゥルーヴに「個人の自由競争で集団全体の利益を増やせるんじゃないか」と問いかける。叔父は我々の共同体は少なすぎるし、弱者を救済する仕組みがないといって反対する。ドゥルーヴは、父の死に落ち込むドゥラカに信念を持って生きろと教えたが、命惜しさにドゥラカをアントニに売ってしまう。そんなとき、ドゥラカは偶然にもシュミットたちが隠した本を読み、地動説を知ることになる。
そこへシュミットたちが本の回収に現れ、ドゥルーヴは斬り殺されてしまう。ドゥラカは本を焼くが、内容は覚えているといい、命を助けられた。シュミットたち異端解放戦線は、あの本を活版印刷を使って出版することが目的だという。それはドゥラカの見立てに合致していた。シュミットはドゥラカに「情報を解放するのだ」と言う。ドゥラカは異端解放戦線組織長ヨレンタに会う。
チ。-地球の運動について- 第7巻
レヴァンドロフスキ「仕事だ。良いも悪いもない」
教皇直属の部下で異端審問官アッシュは、35年前に地動説を担当していたというノヴァクを訪ね、異端解放戦線への捜査協力を取り付ける。ノヴァクは、「諸悪の根源を、地動説を打ち殺す」と宣言する。
ヨレンタはドゥラカから本の内容を聞き取り、写本を書き上げ、それと活字、父系型、母型、モールドをシュミットたちに手渡し、自分はここに残ると告げる。ノヴァクが異端審問官たちを率いてやって来ると、ヨレンタは追っ手が父親であることも気付かずに火薬を使って自爆する。
ドゥラカはヨレンタが自爆したことを知らされ、シュミットに「貴方達がヨレンタさんの計画を引き継ぐなら、私はヨレンタさんの想いを引き継ぐ」と言う。

シュミット達は印刷工房に到着するが、いくつかの活字が割れてしまっていた。ドゥラカは父親の血の付いた鉛銭を差し出し、溶かして使ってほしいと申し出る。表紙にヨレンタの名前を加え、活版印刷が始まった。だが、裏切り者がいた。異端審問官の追っ手が迫っていた。ドゥラカは自分を逃がすことを提案する。シュミットは提案に乗り、部下達に命令する。レヴァンドロフスキは「仕事だ。良いも悪いもない」といって引き受ける。
ヨレンタはドゥラカから本の内容を聞き取り、写本を書き上げ、それと活字、父系型、母型、モールドをシュミットたちに手渡し、自分はここに残ると告げる。ノヴァクが異端審問官たちを率いてやって来ると、ヨレンタは追っ手が父親であることも気付かずに火薬を使って自爆する。
ドゥラカはヨレンタが自爆したことを知らされ、シュミットに「貴方達がヨレンタさんの計画を引き継ぐなら、私はヨレンタさんの想いを引き継ぐ」と言う。

シュミット達は印刷工房に到着するが、いくつかの活字が割れてしまっていた。ドゥラカは父親の血の付いた鉛銭を差し出し、溶かして使ってほしいと申し出る。表紙にヨレンタの名前を加え、活版印刷が始まった。だが、裏切り者がいた。異端審問官の追っ手が迫っていた。ドゥラカは自分を逃がすことを提案する。シュミットは提案に乗り、部下達に命令する。レヴァンドロフスキは「仕事だ。良いも悪いもない」といって引き受ける。
チ。-地球の運動について- 第8巻
ラファウ「知が人や社会の役に立たなければいけないなんて発想はクソだ。知りたいからやる。それだけだよ」
ドゥラカはアントニ司教に会い、この本は儲かるし、地動説は異端なのかと問いかける。そこへノヴァクが現れる。アントニはノヴァクに、「この騒動は、C教世界や人々の信仰を守る聖戦などではなく、一部の人間が起こした、ただの勘違い、だったという訳だ」と言う。だがノヴァクは納得ができなかった。
ノヴァクはアントニを殺すが、ドゥラカに胸を刺されてしまう。死の間際、ノヴァクの前にラファウの幻が現れ、「今、たまたまここに生きた全員は、たとえ殺し合うほど憎んでも、同じ時代を作った仲間な気がする」と告げた。
一方、ノヴァクに腹を刺されたドゥラカは、美しい日の出を見ながら絶命するのだった。

1468年、ポーランド王国の都市部でパン屋の手伝いをしている青年アルベルト・ブルゼフスキは、相場の予測をして店を儲けさせていた。パン屋の主人は彼が大学へ行く費用を全額負担するという。アルベルトは教会にパンを届けようとして告解室に入ってしまう。
アルベルトは子どもの頃のことを思い出していた。彼の父は、「探究心に歯止めが利かなくなったとき、ゆっくり疑って、人の役に立たない道なら止まるべきだ」と教える。家庭教師のラファウは、「知が人や社会の役に立たなければいけないなんて発想はクソだ。知りたいからやる。それだけだよ」と言う。ラファウはアルベルトの父を殺してしまう。
アルベルトは悩んでいた――硬貨を捧げれば、パンを得られる。税を捧げれば、権利を得られる。労働を捧げれば、報酬を得られる。なら一体何を捧げれば、この世の全てを知れるのか。それを知るために、アルベルトはクラクフ大学へ進学した。
アルベルトはクラクフ大学で20年にわたり数学と自然哲学を教え、1482年には、当時の天文学の教科書『惑星の新理論』への注釈書を書いた。1491年、この注釈書を読んで学んだ学生の一人に、ニコラス・コペルニクスがいた。
ノヴァクはアントニを殺すが、ドゥラカに胸を刺されてしまう。死の間際、ノヴァクの前にラファウの幻が現れ、「今、たまたまここに生きた全員は、たとえ殺し合うほど憎んでも、同じ時代を作った仲間な気がする」と告げた。
一方、ノヴァクに腹を刺されたドゥラカは、美しい日の出を見ながら絶命するのだった。

1468年、ポーランド王国の都市部でパン屋の手伝いをしている青年アルベルト・ブルゼフスキは、相場の予測をして店を儲けさせていた。パン屋の主人は彼が大学へ行く費用を全額負担するという。アルベルトは教会にパンを届けようとして告解室に入ってしまう。
アルベルトは子どもの頃のことを思い出していた。彼の父は、「探究心に歯止めが利かなくなったとき、ゆっくり疑って、人の役に立たない道なら止まるべきだ」と教える。家庭教師のラファウは、「知が人や社会の役に立たなければいけないなんて発想はクソだ。知りたいからやる。それだけだよ」と言う。ラファウはアルベルトの父を殺してしまう。
アルベルトは悩んでいた――硬貨を捧げれば、パンを得られる。税を捧げれば、権利を得られる。労働を捧げれば、報酬を得られる。なら一体何を捧げれば、この世の全てを知れるのか。それを知るために、アルベルトはクラクフ大学へ進学した。
アルベルトはクラクフ大学で20年にわたり数学と自然哲学を教え、1482年には、当時の天文学の教科書『惑星の新理論』への注釈書を書いた。1491年、この注釈書を読んで学んだ学生の一人に、ニコラス・コペルニクスがいた。
レビュー

アストロラーベ
NHKでの放映が終わった後にネット配信でアニメを見て、日本科学未来館で開催中の特別展「チ。 ―地球の運動について― 地球が動く」を見て、それから原作を読んだ。

地動説と教会の対立を描いた本書は、冒頭、「P王国」「C教」という用語が出てくるものだから、輸出向けに匿名にしたものかと思いきや、さにあらず――

地動説と教会の対立を描いた本書は、冒頭、「P王国」「C教」という用語が出てくるものだから、輸出向けに匿名にしたものかと思いきや、さにあらず――
最終8巻の半分までは「フィクション」なのである。そして、8巻の中盤で、突然、「1468年」「ポーランド王国」という実名が登場し、ここからが現実の歴史に転換する。
ここではパン屋の手伝いをしている青年アルベルト・ブルゼフスキがクラクフ大学へ進学する場面が描かれるのだが、実際、彼は20年にわたりクラクフ大学で数学と天文学を教えることになる。ドイツの天文学者ゲオルク・プールバッハの著書『惑星の新理論』に精通しており、学生の中に、1491年に入学してきたニコラウス・コペルニクスがいたというのは、本書の最後に記されている。

ゲオルク・プールバッハはオーストリアの天文学者で、観測天文学の父とも呼ばれ、科学機器を発明し、プトレオマイオスの天動説理論『アルマゲスト』を踏まえた『惑星の新理論』を発表した。彼の弟子レギオモンタヌスは、本名をヨハネス・ミュラー・フォン・ケーニヒスベルクという。ドイツの天文学者で、印刷職人だった。
1464年に、7桁という当時としては高精度の三角関数表を出版したレギオモンタヌスは、きわめて難解な『アルマゲスト』の内容をほぼ理解していたものと考えられている。
1471年、ニュルンベルクに移住し、そこに天文台を建設する。だが、天文台での観測結果は『アルマゲスト』と矛盾していた。レギオモンタヌスは『アルマゲスト』を理解していたがゆえに、逆に、その内容を批判するようになっていった。
1474年に、印刷された世界初の天文表『天体位置表』を刊行し、ベストセラーとなった。
『天体位置表』はニュルンベルク天文台で印刷したのだが、ニュルンベルクは印刷の街として知られるようになってゆく。
活版印刷は、貴族の子で腕利きの金細工職人であったドイツのヨハネス・グーテンベルクが、1440年にシュトラースブルクで完成させたと言われており、1455年には聖書の印刷に着手した。

こうして世界史を振り返ると、本書は、じつはルネサンス期の人々の生き様を描いているようにも読める。
1471年に即位したローマ教皇シクストゥス4世は、ルネサンス教皇とも呼ばれ、システィーナ礼拝堂を建設した。レギオモンタヌスを招聘し、実際の季節とズレが大きくなっていたユリウス暦の改暦を委託するが、レギオモンタヌスはこれを果たせないまま他界する。
1484年に即位した次の教皇インノケンティウス8世は、魔女狩りと異端審問を活発化した。1486年には、ドミニコ会で異端審問官であったハインリヒ・クラマーとヤーコプ・シュプレンガーが魔女に関する論文『魔女の鉄槌』をドイツで出版し、魔女発見の手順と証明の方法を詳しく紹介した。
インノケンティウス8世は、聖職売買、親族登用、派手な女性関係などが目立ち、教会は堕落してゆく。
そんななか、1497年にレオナルド・ダ・ヴィンチは「最後の晩餐」を完成させる。ロンドンを訪れたエラスムスはトマス・モアと知り合い、1511年に『愚神礼讃』を書き上げた。これに刺激を受け、1516年、トマス・モアは『ユートピア』を刊行。ドイツでは、1517年にルターが「95ヶ条の論題」を提起し、宗教改革が始まる。
ルネサンス期における人文主義の思想は、現実社会に自由をもたらしていく――。

そして、大航海時代が幕を開け、ドゥラカが考えたように金の力で世界が動くようになる。
1488年に、ポルトガル国王ジョアン2世の命令で、バーソロミュー・ディアスは喜望峰を発見し、アジアへの交易路を確立する。1502年にアメリカ大陸に到達したコロンブスは、到着した位置を知るため、1481年に刊行されたレギオモンタヌスの『天体位置表』を携行していた。1519年に、ポルトガルの冒険家マゼランは、亡命先のスペインで世界周航計画を実行に移す。

本書では、ラファウに始まり、多くの人々が次の世代へ想いを託して死んでゆくのだが、現実の歴史もまた、名も無い先人たちが流した多くの血のうえに成り立っている。学校では、地動説といえばコペルニクスの名前を覚えさせられるが、じつは、それ以前にもプールバッハやレギオモンタヌスといった多くの天文学者や、名もない人々が、地動説の限界に気付いていた――先人が苦悩して築いた歴史の先で、私もまた、すべての物事を疑う自由を得たことを誇りに思い、それを次の世代に託したいと思う。
ここではパン屋の手伝いをしている青年アルベルト・ブルゼフスキがクラクフ大学へ進学する場面が描かれるのだが、実際、彼は20年にわたりクラクフ大学で数学と天文学を教えることになる。ドイツの天文学者ゲオルク・プールバッハの著書『惑星の新理論』に精通しており、学生の中に、1491年に入学してきたニコラウス・コペルニクスがいたというのは、本書の最後に記されている。

ゲオルク・プールバッハはオーストリアの天文学者で、観測天文学の父とも呼ばれ、科学機器を発明し、プトレオマイオスの天動説理論『アルマゲスト』を踏まえた『惑星の新理論』を発表した。彼の弟子レギオモンタヌスは、本名をヨハネス・ミュラー・フォン・ケーニヒスベルクという。ドイツの天文学者で、印刷職人だった。
1464年に、7桁という当時としては高精度の三角関数表を出版したレギオモンタヌスは、きわめて難解な『アルマゲスト』の内容をほぼ理解していたものと考えられている。
1471年、ニュルンベルクに移住し、そこに天文台を建設する。だが、天文台での観測結果は『アルマゲスト』と矛盾していた。レギオモンタヌスは『アルマゲスト』を理解していたがゆえに、逆に、その内容を批判するようになっていった。
1474年に、印刷された世界初の天文表『天体位置表』を刊行し、ベストセラーとなった。
『天体位置表』はニュルンベルク天文台で印刷したのだが、ニュルンベルクは印刷の街として知られるようになってゆく。
活版印刷は、貴族の子で腕利きの金細工職人であったドイツのヨハネス・グーテンベルクが、1440年にシュトラースブルクで完成させたと言われており、1455年には聖書の印刷に着手した。

こうして世界史を振り返ると、本書は、じつはルネサンス期の人々の生き様を描いているようにも読める。
1471年に即位したローマ教皇シクストゥス4世は、ルネサンス教皇とも呼ばれ、システィーナ礼拝堂を建設した。レギオモンタヌスを招聘し、実際の季節とズレが大きくなっていたユリウス暦の改暦を委託するが、レギオモンタヌスはこれを果たせないまま他界する。
1484年に即位した次の教皇インノケンティウス8世は、魔女狩りと異端審問を活発化した。1486年には、ドミニコ会で異端審問官であったハインリヒ・クラマーとヤーコプ・シュプレンガーが魔女に関する論文『魔女の鉄槌』をドイツで出版し、魔女発見の手順と証明の方法を詳しく紹介した。
インノケンティウス8世は、聖職売買、親族登用、派手な女性関係などが目立ち、教会は堕落してゆく。
そんななか、1497年にレオナルド・ダ・ヴィンチは「最後の晩餐」を完成させる。ロンドンを訪れたエラスムスはトマス・モアと知り合い、1511年に『愚神礼讃』を書き上げた。これに刺激を受け、1516年、トマス・モアは『ユートピア』を刊行。ドイツでは、1517年にルターが「95ヶ条の論題」を提起し、宗教改革が始まる。
ルネサンス期における人文主義の思想は、現実社会に自由をもたらしていく――。

そして、大航海時代が幕を開け、ドゥラカが考えたように金の力で世界が動くようになる。
1488年に、ポルトガル国王ジョアン2世の命令で、バーソロミュー・ディアスは喜望峰を発見し、アジアへの交易路を確立する。1502年にアメリカ大陸に到達したコロンブスは、到着した位置を知るため、1481年に刊行されたレギオモンタヌスの『天体位置表』を携行していた。1519年に、ポルトガルの冒険家マゼランは、亡命先のスペインで世界周航計画を実行に移す。

本書では、ラファウに始まり、多くの人々が次の世代へ想いを託して死んでゆくのだが、現実の歴史もまた、名も無い先人たちが流した多くの血のうえに成り立っている。学校では、地動説といえばコペルニクスの名前を覚えさせられるが、じつは、それ以前にもプールバッハやレギオモンタヌスといった多くの天文学者や、名もない人々が、地動説の限界に気付いていた――先人が苦悩して築いた歴史の先で、私もまた、すべての物事を疑う自由を得たことを誇りに思い、それを次の世代に託したいと思う。
(2025年5月18日 読了)
15世紀の世界
参考サイト
- チ。-地球の運動について-:小学館
- 『チ。ー地球の運動についてー』【公式】@chikyu_chi:Twitter(現・X)
- TVアニメ『チ。ー地球の運動についてー』
- アニメ チ。ー地球の運動についてー:NHK
- 魚豊@uotouoto:Twitter(現・X)
- 日本科学未来館:特別展「チ。 ―地球の運動について― 地球が動く」:ぱふぅ家のホームページ
- 印刷博物館で科学革命を振り返る:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1455年 - グーテンベルク聖書の印刷:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1474年 - レギオモンタヌス『天体位置表』:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1486年 - 「魔女の鉄槌」の出版:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1492年 - 大西洋航路の発見:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1497年 - 「最後の晩餐」の完成:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1511年 - 『愚神礼讃』の刊行:ぱふぅ家のホームページ
- 西暦1543年 - 『天球の回転について』『ファブリカ』出版:ぱふぅ家のホームページ
(この項おわり)