西暦1912年 - タイタニック号が沈没／ピルトダウン人の化石

1924年頃に初稿が執筆された宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』には、青年がカムパネルラに「いえ、氷山にぶっつかって船が沈しずみましてね」と語るシーンがある。これはタイタニック号の事故を指している。
青年が「私はもうすっかり覚悟してこの人たち二人を抱いて、浮かべるだけは浮ぼうとかたまって船の沈むのを待っていました」というところに、賢治の人生観が表れている。
賢治は詩集『春と修羅』でもタイタニック号事故を取り上げており、とても関心を寄せていた。
なお、1985年に公開されたアニメ映画の音楽を担当した細野晴臣 （ほその はるおみ） の祖父・細野正文 （ほその まさぶみ） は、日本人で唯一タイタニック号に乗船しており、奇跡的に生還した。

1912年、ロンドン南部のサセックス州ピルトダウンの砂利採掘場から、大きな頭蓋と類人猿を思わせる下顎骨の化石が出土した。発見したアマチュア考古学者のチャールズ・ドーソンは、大英博物館のアーサー・スミス・ウッドワード卿の研究室に運び込まれ、人類進化のミッシング・リンクを埋めるものと鑑定された。
ところが、1953年、この化石はヒトの頭蓋骨とオランウータンの下顎骨を組み合わせた偽物であることが判明した。電子顕微鏡や元素分析から、ピルトダウン人の骨は現代のものと分かったのである。
この捏造事件の犯人は誰なのか、目的は何だったのか、いまも明らかにされていない。

ところで、当時、化石を本物と鑑定した動物学者レイ・ランケスターは、ロンドン大学とオックスフォード大学の教授を歴任し、大自然史博物館の館長を務めた大御所であるが、30歳の時に、イギリスで評判だった霊能力者のトリックを見抜き、告訴した。自称霊能力者の罪は問われなかったものの、裁判所で熱弁を振るう若い科学者の姿は、イギリス中の話題になった。
そのランケスターをして、まんまとピルトダウン人の嘘に騙されてしまったのである。
1915年、ジョン・クックが描いた1枚の絵画が王立美術院に出展された。ランケスターをはじめとする8人の科学者がピルトダウン人の化石を囲んでいる様は、人類発祥の地がイギリスであることを確認しあっているように見える。
ヴィクトリア朝の栄光が過去のものとなり、同じ年、豪華客船タイタニック号が沈没した。やがて大英帝国は第一次世界大戦へと巻き込まれてゆく。