西暦1873年 - プリアモスの財宝

トロイア遺跡の発掘
プリアモスの財宝(プーシキン美術館)
プリアモスの財宝(プーシキン美術館)
1873年5月31日、ドイツ人実業家でアマチュア考古学者のハインリヒ・シュリーマンは、古代トロイアの遺跡から黄金の装飾品や工芸品を発掘する。
シュリーマンは、オスマン帝国内のヒッサリクの丘をホメロスの叙事詩『イーリアス』で歌われているトロイア王国があった場所と確信し、発掘に着手。強引な手法で丘を掘り進め、多くの財宝を発掘、これらがプリアモス王時代のものと断定した。
ハインリヒ・シュリーマン
ハインリヒ・シュリーマン
ハインリヒ・シュリーマンは、1822年1月6日、ドイツ北方のメクレンブルク=シュヴェリーン大公国で生まれる。父はプロテスタントの説教師で、9人兄弟の6番目の子どもだった。母はシュリーマンが9歳の時に亡くなった。古典に通じていた父の影響で、幼い頃から古代ギリシアの詩人ホメロスの作品を愛読し、『イーリアス』に登場するトロイア戦争の舞台となったトロイア王国の発掘を夢見た。
13歳でギムナジウムに入学するが、貧しかったために翌年退学し、雑貨商で丁稚として働き始める。
1841年にベネズエラに移住を試みるも船が難破し、オランダ領の島に流れ着き、オランダの貿易商社に就職することになった。1846年にサンクトペテルブルクに商社を設立して独立、翌年にはロシア国籍を取得した。1852年に露西亜女性と結婚する。
ナイチンゲール
ナイチンゲール
仕事のために、徹底的に音読するという学習方法で15カ国をマスターしたとされる。ゴールドラッシュにわく米カリフォルニア州にも商社を設立し、そこからクリミア戦争で戦うロシアに武器を密輸し、南北戦争では奴隷解放で綿花が値上がると考え投資して大成功を収めた。
自伝『古代への情熱』によれば、これらの事業は、トロイア遺跡を発掘するための資金を貯めるためだったという。
鑓水の風景(横浜開港資料館所蔵)
鑓水の風景(横浜開港資料館所蔵)
1863年、41歳になってビジネスから引退し、1865年から約2年間をかけて、4大陸、9カ国を旅し、500ページの日記を9カ国語で書いた。ジュール・ヴェルヌの有名な小説『八十日間世界一周』が書かれる8年前のことだ。そのなかの最初の作品『清国・日本』の中で、1865年(慶応元年)6月3日から7月4日まで日本に滞在し、生糸の生産で世界的に知られていた八王子を訪れ、世界で初めて紹介している。
トロイ遺跡(世界遺産)
トロイ遺跡(世界遺産)
世界旅行を終えたシュリーマンは、1868年にギリシアのイタカ島で初めての遺跡発掘に挑戦する。事業で貯めた資産を惜しげもなく発掘に投入した。
1870年、シュリーマンは、オスマン帝国のチャナッカレの南20kmの地点にあるヒッサリクの丘をホメロスの叙事詩『イーリアス』で歌われているトロイア王国があった場所と確信し、無許可で発掘に着手。
トロイ遺跡(世界遺産)
トロイ遺跡(世界遺産)
強引な手法で丘を掘り進め、1873年5月31日に、盾、平らな大釜、銅の短剣と槍の先や水差し、銀の花瓶が3つとナイフの刃、フラスコ、ゴブレット、小さな金の鍋が2つ出土した。最も大きな出土品の銀の花瓶の中には、ティアラが2つ、細いヘッドバンド、ペンダントが4つ、ブレスレットが6つ、イヤリングは56個、そして小さなボタン8,750個と指輪を含む金の装飾品が入っていた。シュリーマンは、これらがプリアモス王時代のものと断定した。
6月17日、シュリーマンはギリシアへ出土品を運び出したが、オスマン帝国はこれを密輸として彼を訴えた。その後の紆余曲折があり、シュリーマンはドイツのベルリン人類学・民族学・先史学協会の会員になり、ベルリン名誉市民になることと引き換えに、プリアモスの財宝はベルリン国立民族学博物館に収蔵されることになった。
ウィリアム・グラッドストン
トウィリアム・グラッドストン
高等教育を受けていなかったシュリーマンは、アマチュア考古学者だった。
ウィリアム・グラッドストンは、のべ12年4ヶ月にわたってイギリスの首相を務めた有力政治家だが、彼はアマチュアのホメロス研究者だった。シュリーマンはグラッドストンに接触し、自著の序文をグラッドストンに書いてもらった。
熱心なクリスチャンであり、現実主義者だったグラッドストンは、聖書やギリシア神話の内容が創作であるとする学界の高等批評へ一矢を報いるべく、シュリーマンの発掘成果の受け入れたのだろう。
アガメムノンのマスク
アガメムノンのマスク
1876年にはミケーネ発掘に乗り出し、アガメムノンのマスクを発掘する。
シュリーマンは伝説上のギリシアの指導者アガメムノーンの死体を発見したと信じていたが、現代の研究によれば、アガメムノンの活動期より早いことを示唆している。
シュリーマンは、ビジネスマンとしての経験を活かし、既成の概念や手法に囚われない大胆な手法で、次々に遺跡を発掘していき、古代ギリシア文明以前にきわめて高度な文明がエーゲ海周辺に存在していたことが明らかにしていった。
その反面、トラブルも絶えなかった。強引な発掘手法により他の遺跡を傷つけたり、発掘品の管理を考えていなかったために、プリアモスの財宝をめぐってドイツとソ連という国家間の争いに発展した。また、自伝や発掘記録に脚色が多かった。
老練な政治家グラッドストンは、無条件でシュリーマンを受け容れたわけではなかった。グラッドストンは、シュリーマンの先入観にとらわれない自由な発想と、孤立無援でも自らの姿勢を貫く強い信念と情熱があったことを評価したのだった。

参考書籍

表紙 シュリーマンと八王子
著者 伊藤貴雄
出版社 第三文明社
サイズ 単行本
発売日 2022年12月20日頃
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784476034103
シュリーマンの生涯と語学学習法を紹介。シュリーマンの直筆日記から八王子訪問の記録を本邦初全訳。幕末・八王子の絹産業を詳しく説明。英国首相グラッドストンとシュリーマンとの交友を紹介。シュリーマンで八王子まちおこしー「桑都プロジェクト」の取り組みの報告。
 
表紙 古代への情熱 シュリーマン自伝
著者 シュリーマン
出版社 新潮社
サイズ 文庫
発売日 1977年09月01日頃
価格 605円(税込)
ISBN 9784102079010
トロイア戦争は実際にあった事に違いない。トロイアの都は、今は地中に埋もれているのだ。-少年時代にいだいた夢と信念を実現するために、シュリーマンは、まず財産作りに専念し、ついで驚異的な語学力によって十数ヵ国語を身につける。そして、当時は空想上の産物とされていたホメーロスの事跡を次々と発掘してゆく。考古学史上、最も劇的な成功を遂げた男の波瀾の生涯の記録。
 
表紙 『イーリアス』ギリシア英雄叙事詩の世界
著者 川島重成
出版社 岩波書店
サイズ 全集・双書
発売日 2014年10月
価格 2,640円(税込)
ISBN 9784000287876
悲惨の中にあってもなお輝く人間の気高さを、深い共感とともに描いた『イーリアス』。西洋文学史に屹立するこの叙事詩を味読し、その尽きせぬ魅力に迫る。さらに著者の年来の研究にもとづき、口誦詩としての意義を明らかにしつつ、ギリシア古典文化のホメーロス的特質を論じる。
 
表紙 シュリーマン旅行記 清国・日本
著者 ハインリッヒ・シュリーマン/石井 和子
出版社 講談社
サイズ 文庫
発売日 1998年04月
価格 880円(税込)
ISBN 9784061593251
 

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