西暦1950年 - コラッツ予想

小学生でも計算できるのに、現在の数学では証明できない!?
ローター・コラッツ
ローター・コラッツ
1950年、第二次世界大戦を挟んで米ハーバード大学で14年ぶりに開催された国際数学者会議の休憩時間のこと、ドイツの数学者ローター・コラッツは雑談として、こんなことを語った。
すべての自然数は、
 偶数なら2で割る
 奇数なら3倍して1を足す
を繰り返すと、
必ず1になるはずだ。
小学生でも計算して確認できる問題であることから、国際数学者会議に参加していた数学者たちは、すぐに証明できると考えた。
ところが、2024年現在、誰一人として証明にたどりついていない。そればかりか、この問題に取りかかると学者生命を絶たれる、現在の数学では解くことができない、とまで言わせる数学界の未解決問題となっている。コラッツ自身は公式に発表はしていないのだが、いつしか、コラッツ予想と呼ばれるようになった。
2021年7月、DTM用アプリやプラグインなどを手がける株式会社音圧爆上げくんは、コラッツ予想の解決に1億2千万円の賞金をかけた
任意の正の整数に対し、以下で定義される関数 \( f(x) \) を繰り返し適用すると、いずれ \( 1 \) になる。
\[
\displaystyle
f(x) = \left \{ \begin{array} \\
x \mathbin{/} 2 & (x \equiv 0 \pmod 2) \\
3 x + 1 & (x \equiv 1 \pmod 2)
\end{array}
\right.
\]
ローター・コラッツは、1910年7月にドイツ帝国で生まれた。幼い頃は、鉄道、とくに線路が好きだった。1928年から1933年にかけて、ドイツ各地の大学で数学と物理学を学び、大学教員となる。1937年にナチ党に入党し、第二次世界大戦中はロケットの研究に従事していた。戦後、ハンブルグ大学教授となり、1953年に応用数学研究所を設立した。

アメリカの数学者でモンテカルロ法や水爆の機構の発案者として名を残したスタニスワフ・ウラムコラッツ予想に取り組んだが何の成果も得られず、イェール大学の角谷静夫 (かくたに しずお) は「私の周囲の数学者が、みな1ヶ月間かかりきりになったにもかかわらず、何の成果も得られなかった」と書き残している。コラッツ予想はアメリカの研究を遅らせるための陰謀なのではないか、というジョークがでるほどだった。
イギリスの数学者リチャード・ケネス・ガイいわく「この問題を解こうとしてはダメだ」。ハンガリーの数学者ポール・エルデシュいわく「数学にはこの種の問題に挑むための準備がまだできていない」。

1970年代に入ると、リホ・テラスとコーネリアス・エベレットは、それぞれ独立に確率論を導入することを思いつき、「ほとんどすべての数は―(中略)―自分自身より小さくなる」ことを証明した。まもなくフランスの数学者ジャン・ポール・アリューシュは「ほとんどすべての数は―(中略)―自分自身の0.869乗よりも小さくなる」ことを証明。つづいて、スロバキアの数学者イバン・コレックが「ほとんどすべての数は―(中略)―自分自身の0.7925乗よりも小さくなる」ことを証明した。しかし、コラッツ予想の証明と呼ぶには、前提条件が厳しすぎる。
2019年9月、オーストラリアの天才数学者テレンス・タオは、確率・統計に加え、偏微分方程式の手法を導入し、「ほとんどすべての数は―(中略)―ある意味好きなだけ小さくなる」というプレプリントを発表し、2022年5月に論文が出版された。しかし、タオは「私たちはコラッツ予想に好きなだけ肉薄できるようになりました。しかし、実際のところは証明にはまったく手は届いていません」と記している。
コラッツ予想の歴史に詳しいアメリカの数学者ジェフリー・ラガリアスは「非常に難しい問題であり、現代の数学では完全に手が届かない」と語っている。

コンピュータを用いた計算により、\( 2^{68} \) (2垓9514京7905兆1793億5282万5856)までの自然数は、コラッツ予想のとおりであることが確かめられている。

日本人による挑戦

2025年2月28日、玉川大学と千葉大学に所属する川﨑敏治 (かわさき としはる) さんが、新たな不動点定理を用いてコラッツ予想を証明したという単著「A proof of the Collatz conjecture」を発表した。査読前ながら、世界中から注目が集まっている。

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(この項おわり)
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