西暦1964年 - ベルの不等式

量子もつれを数学的にあらわす
量子もつれ
アインシュタインは「物理現象は局所的に決まる(遠くのものに瞬時に影響を与えない)」と考えていた。これを局所実在論という。しかし、量子力学では、遠く離れた2つの粒子が瞬時に影響を及ぼし合う「量子もつれ(エンタングルメント)」が存在することが知られており、これをアインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス(ERPパラドックス)と呼んだ。
1964年(昭和39年)、ジョン・スチュワート・ベルは、もし局所実在論が正しければ満たされるはずの数式(ベルの不等式)を提示した。その後の実験によって、この不等式が破られる(量子力学の予測通りの結果が出る)ことが明らかになり、局所実在論は誤りであることが確認された。
アルベルト・アインシュタイン
アルベルト・アインシュタイン
1935年(昭和10年)、アルベルト・アインシュタインボリス・ポドリスキーネイサン・ローゼンは、量子もつれ状態では遠く離れた2つの粒子が瞬時に影響を及ぼすように見えることから、特殊相対性理論の光速度不変の原理に反するというパラドックスを指摘する。彼らは、遠くにあるものが瞬時に影響を与えないという、物理現象は局所的に決まるとする局所実在論の立場から、量子力学は未だ不完全で、隠れた変数があるに違いないと考えた。
量子もつれは比較的簡単に作ることができる。たとえば、非線形結晶(BBO結晶など)に高エネルギーのレーザー光を入れると、エネルギー保存則にしたがい、1つの光子が2つの低エネルギー光子に分かれる。この分かれた2つの光子が「もつれ状態」になっている。
たとえば、角運動量保存則により、光子の偏光(縦/横)が相関をもつ。一方を測定して「縦偏光」だと分かると、もう一方は必ず「横偏光」となるのだ。この現象は、量子通信や量子暗号に応用されている。
また、原子を励起状態(エネルギーが高い状態)にすると自然に基底状態(低エネルギーの状態)に戻る際に、2つの光子を放出する。この2つの光子が量子もつれの状態にある。この現象は量子ネットワークや量子コンピュータに応用されている。
2つの粒子を衝突させると、衝突後の粒子のスピンが「もつれた状態」になる。この現象は量子コンピュータなどに応用されている。
ジョン・スチュワート・ベル
ジョン・スチュワート・ベル
ジョン・スチュワート・ベルは局所実在論が正しければ成立するはずの関係式「ベルの不等式」を考え出した。もっともシンプルなベルの不等式は
\[ P(A = B) + P(B = C) \geq P(A = C) \]
と表すことができる。
ジョン・クラウザ
ジョン・クラウザ
1972年(昭和47年)に、ジョン・クラウザースチュアート・フリードマンは、光子の偏光を用いて初めてベルの不等式の実験的検証を行った。そして、ベルの不等式の破れが観測された。
この検証実験には抜け穴があったため、1982年(昭和57年)にアラン・アスペは、そうした抜け穴を極力ふさいだ実験を行い、量子力学の予想がほぼ確認され、ERPパラドックスにおける局所実在論は誤りであることが確実となった。
この功績により、2022年(令和4年)のノーベル物理学賞は、アラン・アスペジョン・クラウザーアントン・ツァイリンガーの3人に贈られた。
アラン・アスペ
アラン・アスペ
量子もつれが確認できたことで、量子は観測するまでそこに存在しない――たとえば、太陽や月は、観測していない間は存在していないかもしれないという、常識的には考えられない量子力学の基本概念が確認されたことになる。逆に考えると、量子暗号や量子コンピュータが機能している以上、この概念がいかに非常識であっても、科学的に正しい概念なのである。

最新のホログラフィック宇宙によると、この宇宙は、実は2次元のホログラムから浮かび上がっているものにすぎず、重力は幻ということになる。

参考書籍

表紙 宇宙は「もつれ」でできている
著者 ルイーザ・ギルダー/山田 克哉/窪田 恭子
出版社 講談社
サイズ 新書
発売日 2016年10月19日頃
価格 1,650円(税込)
ISBN 9784062579810

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